コメント(解説):エラスムス・ムンドゥスプログラムの一環として実施されたエラスムス・ムンドゥス共同修士課程(2004年~)は、共同教育プログラムの中でも歴史が古い取組みです。欧州委員会は、同プログラムを実施する上で直面した困難や達成状況、良い点について、複数の視点から下記の資料をまとめています。欧州はもとより、他の国・地域の大学と共同教育プログラムを実施する日本の大学関係者の方々に参考にしていただけたら幸いです。
■ 資料の名称
Erasmus Mundus Joint Master Degrees―The story so far
■ 作成者
EC(欧州委員会)
■ 公開年
2016年
■ 概略
エラスムス・ムンドゥス共同修士課程について、4つの側面からまとめた報告書。同プログラムが開始された2004年以降の取組み、達成状況や直面した困難について記述されている。なお、現在エラスムス・ムンドゥスプログラムはエラスムスプラスプログラムとして継続して活動し、1年目の状況(本サイト2016/3/29投稿記事)が報告されている。
第1章:共同教育プログラムと雇用可能性:付加価値、現在の動向、将来的なニーズ
共同教育プログラムの卒業生は他の卒業生に比べ、就職率が高い傾向にある。この背景には同プログラムが仕事現場と強い結びつきを有しているという事情がある。また、雇用主は外国語能力、コミュニケーション能力といった「ソフトスキル」を重視する傾向にあるとしている。
第2章:学生からの視点
学生がエラスムス・ムンドゥスプログラムへの参加を決定する最大の要因として、奨学金や授業料等の費用的側面があげられている(参考:エラスムス・ムンドゥスのインパクト調査(Graduate Impact Survey 2014-2015)[本サイト2016/4/12投稿記事])。また、学生がエラスムス・ムンドゥスプログラムから得た最も大きな経験は外国での体験であり、次にクラス内外の他の留学生との深い学習(intense learning)が挙がった。エラスムス・ムンドゥスプログラムが「Programme of Excellence」と掲げたことから、学生はコースや教員、プログラムの運営、提携大学との連携といった側面に対し、質の高さを期待していた。全体的には学生の期待に沿ったものであったが、教員の質やカリキュラム、コース運営の側面において改善の余地があることが明らかとなった。
第3章:共同教育プログラム:質保証、アクレディテーション、学位認証
エラスムス・ムンドゥスプログラムの開始当初は、共同学位を授与する枠組みがなかったため、共同学位の授与が困難であったが、現在はほとんどの国で共同学位の授与に関する法的枠組みが整備されている。エラスムス・ムンドゥス共同修士課程の導入は、質保証や認証機関に関する各国の規制緩和等、協調的なアプローチを促進することとなったが、欧州アプローチ(※未編集)の導入に向け、各国政府のさらなる取組みが求められている。
第4章:共同教育プログラムの運営
エラスムス・ムンドゥス共同修士課程の導入により、質の高い共同教育プログラムの設置と維持、発展についてまとめたガイドブック(参考:ガイドブック「共同教育プログラムのすべて」 )や共同教育プログラムに係る研究の情報を提供するウェブサイトといった、新たなツールを生み出し、また、スタッフのモビリティなど機関の運営面の変化をもたらした。高等教育機関は資質の高いスタッフの獲得、連携方法、大規模予算の運用方法を学んだ。優良事例や運用のためのツールを共有する新たなプラットフォームは、共同教育プログラムのさらなる発展に資するのみならず、その他の分野における高等教育機関の運営の改革を進める。一部の機関はEUからの助成終了後のプログラム維持に向けた長期計画を欠いているため、プログラムの持続可能性が優先度の高い課題である。
総合的な結論
エラスムス・ムンドゥス共同修士課程は、欧州やその他の地域における共同教育プログラムのみならず、欧州の高等教育の発展に貢献した。またプログラムを「共同性(jointness)」に焦点を当てて選出したことにより、高いレベルの国際的なプログラムが生み出され、高等教育におけるイノベーションや国際化等を促進した。共同教育プログラムは欧州高等教育圏(EHEA)の加盟国に対して、共同教育の質保証における欧州アプローチの履行を促進し、欧州の協力を発展させ、EHEAの具現化をもたらした。