2020年7月にインド教育省※が教育制度全般に関する方針を34年ぶりに改訂し、インド国内外で話題となっている。National Education Plan(NEP2020)は、1986年に作成されたNational Policy on Education(NPE)に代わる新たな方針として策定された。なお、NEP2020の施行に当たっては、他省庁と連携して課題別の有識者委員会を立ち上げ、段階的に計画を進めていき、2030年から2040年の10年間で全ての方針を実行していくこととされている。
NEP2020では、学校体系上の開始年齢の早期化や大学の再編を打ち出しており、インドの教育を大きく変えることが期待されている。また、初めて海外大学をインド国内に誘致することを発表し、海外からも注目されている。本記事では、学校体系の変更や高等教育に係る変更点を中心にまとめた。
インドの学校体系を10+2年制から5+3+3+4年制へ
NEP2020では、インドの学校体系が大きく見直され、各教育段階の修学年数が変更されるほか、義務教育期間も変更される。本制度は2030年までの導入を目指している。
現行の学校体系は、10年の初等・前期中等教育(6歳~16歳)、2年の後期中等教育(16歳~18歳)から構成される10+2年制だが、新体系は5+3+3+4年制となる。その構成は、3~8歳の基礎教育(3年の就学前教育+初等教育の前半2年[第1~2学年])、8~11歳の初等教育(第3~5学年)、11~14歳の前期中等教育(Middle education[第6~8学年])、14~18歳の後期中等教育(Secondary education[第9~12学年])である。
また、これまでは6~14歳までの8年間が義務教育であったが、NEP2020では3~18歳の15年間が義務教育となる。
3歳から教育(早期幼児期教育)を行うよう変更した背景には、6歳未満における教育が子供の発達や生涯にわたる教育に大きな影響を与えるため、質の高い早期幼児期教育に全ての子供がアクセスできるようにすべきとの考えがある。
大学の再編と高等教育資格
NEP2020では、小規模の高等教育機関が乱立する状態を解消し、2040年までに全ての高等教育機関が複数の学問領域のプログラムを有し、一機関当たり3,000人以上の学生が在籍する大規模な機関にする方針が打ち出されている。この背景には、NEP2020の基本方針の一つとして、科学、社会科学、芸術、人文、スポーツなど様々な分野にわたる学際的な教育を行い、知の統合と一貫性の確保を目指すと示されていることがある。
また、従来インドでは学士課程の修学年数は一般に3年とされてきたが、NEP2020では上記の方向性を踏まえて学士課程の修学年数を3~4年とし、学際的な領域を扱う4年制の学士課程を普及させる計画である。また学士の学位に限らず学習期間に応じた、様々な修了資格を設けることも計画されている。具体的には、職業教育や専門教育を含む単一の分野で1年間履修して得られる資格(Certificate)や2年間の学習で得られるディプロマ(Diploma)が挙げられている。また、教員の資格要件に、4年制の教育学士(B.Ed.)の取得が追加されることも盛り込まれている。
なお今後は4年制の学士課程の場合、研究志向の学士(Degree with Research)の取得が可能な課程を設計することも可能にする。また、より柔軟な修士課程の設計を可能とすることも計画されており、例えば3年制学士課程修了者向けの2年制修士課程、4年制の研究志向型学士課程修了者向けの1年制修士課程、5年制の学士・修士一貫課程といった例が挙げられている。
海外トップ大学のインド国内への誘致
NEP2020では、インドのトップ大学の海外展開を促進すると同時に、インド国内に世界大学ランキングのトップ100大学のようなトップレベルの海外大学を誘致することが掲げられた。インドの教育機関の海外進出は既に行われており、UAEやマレーシアにインドの大学が進出しているものの、インド国内への海外大学の誘致は初めてである。一方、留学生獲得に関しては、手頃な金額で質の高い教育を提供する留学先としてインドを世界的に広報し、受入留学生数を増やすとしている。
なお、日本とインド間の高等教育での交流に関しては、2019年5月時点で、日本の高等教育機関で学ぶインドからの留学生は1,395人となっている((独)日本学生支援機構「2019(令和元)年度外国人留学生在籍状況調査結果」)。また、2017年時点でインドに拠点を持つ日本の大学は国立大学3校、私立大学2校の計5校となっており、留学生の獲得を目指した募集活動、学生の留学等に伴う現地での支援、帰国留学生等とのネットワーキング、情報収集、広報活動を中心に活動が行われている(文部科学省「海外における日本の大学の拠点(平成29年度)」)。
単位銀行の設置―学習歴の電子化と管理
NEP2020によると、単位銀行(Academic Bank of Credit [ABC])を設置し、認可されている様々な高等教育機関で取得された単位を電子的に保管し、当該機関以外で学生が取得した単位も考慮した上で大学が学位授与をできるようにするという。
なお、インドでは2016年に教育省がインドのMOOCであるSWAYAM(Study Web of Active Learning for Young and Aspiring Minds)を立ち上げている。また、学位証書や成績証明書を電子化して保管するNational Academic Depositoryを有し、雇用主や教育機関はオンライン上で証書を確認することができ(本サイト2018/9/27投稿記事)、この情報は政府が付与する個人番号にも紐づけられている。
高等教育の質保証制度・組織も見直し
長年課題となっていた高等教育の質保証の制度・組織についても大がかりな見直しが計画されている。これまで、University Grant Commission(UGC)に加えて、工学、農学、医学等多数の専門分野の規制機関があり、機関間の重複や過大な規制が指摘されてきた。NEP2020では、包括的な規制機関であるHigher Education Commission of India(HECI)のもとで、規制、アクレディテーション、資金供与、学術基準設定の4機関を設置し、相互にチェックアンドバランスを働かせるとともに、大学の自律性な質向上の取り組みを強化するとしている。
※NEP2020は人材開発省(Ministry of Human Resource Development)によって作成されたが、人材開発省はNEP2020の提案を受け、教育省に改組された。
原典①:Government of India(英語)
原典②:Government of India(英語)