オーストラリアでは、国内の高等教育機関に在籍する学生の入学から就職までの経験や卒業生の成果に関する全国規模の調査「Quality Indicators for Learning and Teaching:QILT」を2012年から毎年実施している。調査の結果は報告書にまとめられ、専用ウェブサイトに掲載される。2024年11月に同サイト上で2023年の学生経験調査(Student Experience Survey:SES)の結果が公表された。
■QILTとは
オーストラリア国立大学の傘下にあるSocial Research Centre社はオーストラリア政府からの委託により、高等教育における質の向上や進学希望者とその保護者のより良い進路選択を支援する目的で、本調査を包括的に実施している。これらの調査対象は、オーストラリアにおける全ての高等教育機関となっている。
QILTは、SESを含め計4種類の調査で構成され、調査実施のタイミングが指定されている。
| <調査の種類> | <実施のタイミング> |
| 学生経験調査 Student Experience Survey (SES) | 入学初年度及び最終年度 |
| ↓ | |
| 卒業生成果調査 Graduate Outcomes Survey(GOS) 雇用者満足度調査 Employer Satisfaction Survey(ESS) | 卒業して4~6か月後 |
| ↓ | |
| 卒業生成果調査(縦断的) Graduate Outcomes Survey – Longitudinal (GOS-L) | 卒業して3年後(GOS回答者対象) |
Social Research Centre (2024) 2023 Student Experience Survey Methodological Report Appendix 7に基づき当機構国際課にて作成
調査結果はオーストラリア高等教育質・基準機構(TEQSA)によるリスクベースの規制・監督※1における情報源の一つとしても活用されている。
※1 TEQSAによる規制・監督の詳細については当機構の「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 オーストラリア(第2版)」p. 40-43を参照のこと。
■SES(Student Experience Survey: 学生経験調査)の概要
SESは、「スキル開発」、「ピア・エンゲージメント(学生同士の交流)」、「教育の質とエンゲージメント」、「学生支援・サービス」、「学習資源」の5つの領域※2に計46の設問を設けており、経験の頻度や満足度を概ね4~6段階評価で回答する内容となっている。そのほか、留学生向けに、留学先にオーストラリアを選んだ理由や生活体験の満足度の設問も用意されている。調査はオンライン上で行われる。調査結果は、国内学生(Higher Education Student Experience)と留学生(International Student Experience)の2つに分けられ、報告書が別々に公表されているが、互いの回答結果の比較も交えながら結果が紹介されている。
2023年の調査では、国内学生についてはオーストラリアの全42大学と100の高等教育機関の計142機関(2022年は141機関、2021年は139機関)が参加し、253,588人の学生から回答があった(回答率37.5%)。
一方、留学生については計134機関から、約196,653人の調査対象者のうち71,479人の回答があった(回答率36.3%)。うち、学部留学生は、中国、ネパール、インド、ベトナム、マレーシアが国別回答者数の上位5か国を占めており、留学生の回答全体の約57%にのぼる。大学院の留学生は、国別では中国、インド、ネパール、ブータン、フィリピンが上位5か国を占めており、留学生の回答全体の約63%にのぼる。
※2 領域名が前回調査(2022年)から3つ変わっており、「ピア・エンゲージメント」は「学習者の参画」、「教育の質とエンゲージメント」は「教育の質」、「学生支援・サービス」は「学生支援」であった。
■主な調査結果
以下は、留学生(International Student Experience)版の報告書「2023 SES International Report」及びダイジェスト版「2023 SES International Key Findings」より、調査結果の総論を中心に紹介する。なお、以後出現する「教育全体の質」は領域ではなく、「教育の質とエンゲージメント」領域中の設問の一つであるが、報告書では5領域と同列で集計結果が示されている。
学部留学生の教育経験に対する評価
2022年以降、学部留学生の教育経験に対する肯定的評価※3の割合はパンデミック以前の水準に回復しているが、特に2023年は「教育全体の質」と「学習資源」を除く領域で、パンデミック直前の2019年から2023年までの5年間で最も高くなった。留学生と国内学生を比較すると、「教育全体の質」を除くすべての領域において留学生の肯定的評価の割合が国内学生を上回った。なかでも、「ピア・エンゲージメント(学生同士の交流)」では国内学生と留学生の肯定的評価の割合に12.9ポイントの開きがあった(留学生69.5%、国内学生56.6%)。この結果については、授業参加形態の面で留学生はキャンパス内での授業への参加頻度が高いことが関係しているだろうとの見解が示されている。「学生支援・サービス」は、2020年を境に国内学生の評価が年々低下している唯一の項目であるが、留学生の評価は2021年以降の上昇傾向を維持した。
※3 個々の設問では、4段階評価及び5段階評価のいずれにおいても上位2段階の回答を肯定的評価としている。また、領域ごとの肯定的評価の割合の算出は、選択肢に応じてスコアが割り当てられ(4段階評価:0、33.33、66.66、100、5段階評価:0、25、50、75、100)、各領域の複数の設問に対する学生の回答をスコア化し、その平均値が55以上のものを肯定的評価としている。
表1:学部生の教育経験に対する肯定的評価の割合の変化(2019年~2023年)
| スキル開発 | ピア・エンゲージメント | 教育の質とエンゲージメント | ||||
| 国内 学生 | 留学生 | 国内 学生 | 留学生 | 国内 学生 | 留学生 | |
| 2019 | 81.6% | 79.7% | 60.3% | 59.4% | 81.6% | 78.5% |
| 2020 | 78.6% | 75.7% | 43.5% | 48.7% | 78.9% | 73.8% |
| 2021 | 79.7% | 77.1% | 48.7% | 48.4% | 80.0% | 75.9% |
| 2022 | 80.2% | 81.8% | 54.0% | 61.5% | 80.1% | 80.2% |
| 2023 | 80.6% | 83.4% | 56.6% | 69.5% | 80.4% | 82.5% |
| 学生支援・サービス | 学習資源 | 教育全体の質 | ||||
| 国内 学生 | 留学生 | 国内 学生 | 留学生 | 国内 学生 | 留学生 | |
| 2019 | 74.2% | 73.5% | 84.1% | 83.0% | 79.1% | 75.3% |
| 2020 | 74.4% | 70.7% | 77.3% | 71.6% | 70.0% | 63.0% |
| 2021 | 73.0% | 70.6% | 81.1% | 73.9% | 74.1% | 67.2% |
| 2022 | 72.5% | 75.0% | 83.5% | 83.8% | 76.2% | 74.4% |
| 2023 | 69.4% | 78.1% | 83.7% | 84.5% | 76.9% | 75.8% |
2023 SES International Report, p.vの表から抜粋
2023 SES International Report, p.vの表に基づき当機構国際課にて作成
大学院生の教育経験に対する評価
学部留学生の結果と同様に、2023年の大学院留学生の教育経験に対する肯定的評価の割合は、「教育全体の質」を除くすべての領域において国内学生を上回った。また、「教育全体の質」以外の領域で、留学生と国内学生の肯定的評価の割合の差が2022年から拡大した。「ピア・エンゲージメント(学生同士の交流)」では国内学生より留学生の肯定的評価の割合が34.7ポイント高かったが、この結果については、国内学生は年齢層が高く、キャンパス外で学ぶ傾向があるため、授業内外での学生との交流が少なくなっているとの見解が示されている。
表2:大学院生の教育経験に対する肯定的評価の割合(2019年~2023年)
| スキル開発 | ピア・エンゲージメント | 教育の質とエンゲージメント | ||||
| 国内 学生 | 留学生 | 国内 学生 | 留学生 | 国内 学生 | 留学生 | |
| 2019 | 79.7% | 82.0% | 46.2% | 60.6% | 81.4% | 79.7% |
| 2020 | 79.0% | 77.6% | 36.2% | 47.9% | 81.6% | 74.7% |
| 2021 | 78.5% | 79.6% | 37.3% | 48.8% | 81.4% | 77.9% |
| 2022 | 79.5% | 84.1% | 41.3% | 62.2% | 81.8% | 82.6% |
| 2023 | 79.0% | 85.5% | 39.6% | 74.3% | 81.1% | 84.1% |
| 学生支援・サービス | 学習資源 | 教育全体の質 | ||||
| 国内 学生 | 留学生 | 国内 学生 | 留学生 | 国内 学生 | 留学生 | |
| 2019 | 73.2% | 75.8% | 81.4% | 83.7% | 77.3% | 74.8% |
| 2020 | 76.5% | 72.1% | 76.7% | 70.5% | 73.8% | 63.7% |
| 2021 | 74.5% | 72.6% | 78.7% | 75.8% | 75.7% | 69.1% |
| 2022 | 74.2% | 76.9% | 80.7% | 86.4% | 76.6% | 76.9% |
| 2023 | 67.2% | 80.4% | 79.7% | 87.7% | 77.1% | 77.0% |
2023 SES International Report, p.viの表より抜粋
2023 SES International Report, p.viの表に基づき当機構国際課にて作成
留学生の生活経験全体に対する評価と留学先の選択理由
オーストラリアでの生活体験全般に関する留学生の肯定的評価の割合は、学部留学生が93.1%、大学院留学生が93.2%と、高い水準が続いている(2022年は93.6%と93.8%)。生活体験において留学生が高く評価した項目は、キャンパス内での安全、英語スキルの向上、キャンパス外での安全などであった。一方、就業体験は選択肢の中で一番低い割合であった(学部留学生74.5%、大学院留学生66.2%)。
また、留学生がオーストラリアへの留学を選択した理由のうち重要度が高かったものは、個人の安全と治安、生活費、オーストラリアの教育システムの評判の順であった。
(参考)オーストラリアにおけるパンデミック前後の総留学生※4数の推移
オーストラリア教育省の統計データによると、パンデミック直前の2019年の総留学生数は756,737人であったが、2020年は687,032人、2021年は572,274人と減少した。2022年は60万人台に回復し、2023年には786,891人と、パンデミック直前の2019年の数値を上回った。2024年には824,951人に達した。
※4基準期間内に学生ビザで就学した者を指す。高等教育機関のほか、職業教育訓練(VET)、後期中等教育以前の教育機関(schools)、留学生のための英語集中コース(ELICOS)、大学進学準備コース等の資格が付与されない学習(non-award)の学生が含まれる。
原典➀:QILT(英語)
原典②:Australian Government Department of Education(英語)
原典③:Australian Government Department of Education(英語)
【参考:QA UPDATES関連記事】
1.オーストラリア:2022年の学生経験調査結果を公表
(本サイト2023/9/8掲載記事)
2.留学生受入れ再開と国民のスキルアップ:教育政策で経済回復を目指す
(本サイト2022/1/13掲載記事)
