【オーストラリア】留学生受入れ再開と国民のスキルアップ:教育政策で経済回復を目指す

 オーストラリアでは教育政策を通じて経済の回復を目指す動きが活発化している。政府は2021年12月15日からワクチン接種済の留学生の入国を認めることと併せて、教育機関向けの追加の財政支援策を発表した。また、労働市場の競争力向上のため、コロナ禍での国民のスキルアップを目的とする短期の高等教育資格「Undergraduate Certificate」の付与の期限が2021年末から2025年6月末まで延長された。

■新型コロナウイルスによる留学生数の推移と経済への影響

コロナによる留学生数の減少

 オーストラリアでは新型コロナウイルスの流行前までは留学生数1が年々増加し続けていた。2019年にはオーストラリア国内で学ぶ留学生の在籍者数が前年より約8万人増の95万6,773人に上った(本サイト2020/3/31掲載記事)。同年の在籍学生数に対する留学生数の割合は、大学以外の高等教育機関では約53.5%、大学でも30.6%を占めていた

 しかし、新型コロナウイルスの影響で状況は一変し、2021年8月時点での留学生の在籍者数は2019年8月時点と比べて全体で17%減少した。留学生のための英語集中コース(ELICOS)を提供する教育機関に絞ると、同期間に71%減少している。

留学生数の減少がオーストラリア経済に与える影響

 オーストラリアでは2019-20年度に教育関連旅行サービス(留学生の学費・生活費を含む)が輸出額全体の第4位(8.3%)に位置するなど、留学産業が国の経済に与える影響が大きい。また、教育・訓練省が発表した2019年時点の大学の財政データによると、留学生の学費は大学の収入の27%(約100億AUD)を占めており※2、留学生数の減少は高等教育機関の財政の健全性に直結する問題となっている(本サイト2021/1/18掲載記事)。

■留学生の受入れ再開に伴う教育機関への追加の財政支援

留学生の受入れ再開

 2021年12月15日からオーストラリアでは、ワクチン接種が完了した学生ビザ及び卒業生ビザ(Temporary Graduate (subclass 485) visa)の保有者の入国が認められた。オーストラリアでは新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、2020年3月20日午後9時以降、原則オーストラリアの市民権または永住権を持つ者とその近親者以外の入国が認められていなかった。

 留学生はオーストラリア政府及び州政府の入国規制を受けることになるが、規制に関する情報は刻々と変化するため、留学生には以下のサイトで最新の情報を確認することが推奨されている。
https://www.australia.gov.au/states

追加の財政支援

 2021年11月25日、教育大臣は12月以降の留学生の受入れを加速させるため、以下の財政支援策を発表した。新型コロナウイルスの影響で収入が減少した教育機関に向けて3,700万AUD(約30億円)3以上の予算が確保されている。

高等教育質・基準機構(TEQSA)、技能質保証機関(ASQA)等、教育機関を規制・監視する機関に支払う諸経費の免除:2,780万AUD(約22億5000万円)

 例えば既存の大学は7年以内に1回、TEQSAの機関再登録を受けなければならないが、その経費(1大学につき通常75,000AUD=約607万5000円)が2022年末まで免除される。なお、この免除措置は2020年からすでに2年間実施され、免除額は約6,520万AUD(約52億8000万円)に上ったが、今回新たに対象期間が1年間延長される形となった。

FEE-HELPローン(授業料の支払いを援助する融資制度)の貸付費用(融資額の25%)の支払い免除を2022年12月末まで延長

 FEE-HELPは政府からの助成を受けずに授業料を全額負担しているオーストラリア人及び一部の永住ビザ取得者の学生を対象とした融資制度である。学部生の場合、FEE-HELPローンの利用にあたり、通常、融資額の25%を加算した額を返済しなければならない※4。FEE-HELPを利用する学部生の多くは、国立演劇学院等の専門教育を提供する大学以外の教育機関で修学しており、今回の措置によって約3万人の学生の支援につながる。

Innovation Development Fundの延長:940万AUD(約7億6000万円)

 Innovation Development Fundとは、ELICOSを提供する私立の教育機関がオンライン教育やオフショア教育を拡充できるように支援する短期の補助金。

■Undergraduate Certificateの付与期限の延長

 2021年12月2日、オーストラリア政府は、AQF※5レベル5~7相当の6か月の教育の修了資格である「Undergraduate Certificate」の付与期限を当初の2021年12月末から、2025年6月末まで延長することを発表した。

 Undergraduate Certificateは2020年4月に導入された資格で、新型コロナウイルスの流行により社会的活動に制限がかかる期間に、個人の職業スキルを高めることを狙いとして創設された。付与期限の延長により、引き続き国民に再教育・スキルアップの機会を提供することで、日々進化する労働市場での競争力を高めることを目的としており、政府は国民の技能の向上による経済回復を目指している。

 なお、本資格の創設当初は、本教育課程はオンライン教育で提供されることが想定されていたが(本サイト2020/8/12掲載記事)、現在では対面式の課程やオンラインと対面を組み合わせたものも提供されている。

※1 Education Services for Overseas Students (ESOS) Act 2000の定義に基づくと、留学生(Overseas students)とは、オーストラリアの国内・国外にいるかを問わず、オーストラリアの学生ビザを保有している者を指す(ただし、ESOS Regulationsに規定される者は含まない)。
 (参考)ESOS関連法の詳細はこちら

※2 オーストラリアの高等教育機関では国内学生と留学生の間で授業料が異なる。通常、国内学生は連邦政府支援枠(Commonwealth supported place)で入学することができ、政府から助成金を拠出される。本制度は、留学生には適用されない。

※3 本記事では1AUD=81円で計算した。

※4 授業料を全額負担している国内学部生の割合は全体の4.6%。なお、大学院生がFEE-HELPを利用する場合には貸付費用が生じない。

※5 AQF: Australian Qualifications Framework
   AQFレベル5:ディプロマ(Diploma)
   AQFレベル6:上級ディプロマ(Advanced Diploma)、準学士(Associate Degree)
   AQFレベル7:学士(Bachelor Degree)
   (参照元)Australian Qualifications Framework Council(英語)

原典①:Minister’s Media Centre(英語)
原典②:Department of Education, Skills and Employment(英語)
原典③:Department of Education, Skills and Employment(英語)
原典④:Parliament of Australia(英語)
原典⑤:Minister’s Media Centre(英語)

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