オーストラリア政府がUndergraduate Certificateを創設
学士レベルまでの6カ月のオンライン教育で取得できる
教育大臣は国民へ、自粛中のスキルアップを呼びかけ
オーストラリアのダン・テーハン教育大臣は、2020年4月12日に新型コロナウイルスの流行に対する高等教育救済パッケージ(Higher Education Relief Package)を発表した。この中には、短期のオンライン教育を提供する高等教育機関への支援が含まれ、国の教育制度上の高等教育資格としてUndergraduate Certificateが新たに導入されることになった。
Undergraduate Certificateは同国の資格枠組(AQF*1)上のレベル5~7(表1参照)に相当し、6か月のオンライン教育修了者に授与される。この教育課程は、同じ教育レベルにある既存の教育課程の抜粋で構成される。例えば、通常3~4年かかる学士課程での教育から一部を取り出し、6か月間のUndergraduate Certificate課程を設置することができる。これにより、Undergraduate Certificate課程での学習が学士課程の単位としても認められる可能性があり、学習を継続しやすい設計となっている。また、この教育は既存の高等教育機関に限って提供できる。
表1:AQF上の高等教育資格
レベル5 | ディプロマ(Diploma) |
レベル6 | 上級ディプロマ(Advanced Diploma) 準学士(Associate Degree) |
レベル7 | 学士(Bachelor Degree) |
(Australian Qualifications Framework CouncilをもとにNIAD-QE国際課が作成)
新制度は、新型コロナウイルスの流行により社会的活動に制限がかかる期間に、個々人の職業スキルを高めることを狙っている。特に、看護、教育、ヘルスケア、ITなど、政府が重視する分野の学習へは政府からの財政支援が行われ、授業料が固定されている(表2参照)。一方、Undergraduate Certificateの提供は2021年12月末までとされている。この期限は、今後の情勢に応じて延長される可能性がある。
表2:政府による優先分野での授業料
教育分野 | 授業料 |
教育、看護、心理学、英語、数学、語学、農業 | 1,250オーストラリアドル |
関連医療(allied health)、その他医療、IT、建築、科学、工学、薬学、環境 | 2,500オーストラリアドル |
(原典①をもとにNIAD-QE国際課が作成)
オンライン教育の質保証
オーストラリア高等教育質・基準機構(TEQSA*2)は、2020年6月9日現在、41のUndergraduate Certificate課程に適格認定を与えている。TEQSAはアセスメントを通過した課程に適格認定を与えるが、大学(university)など一部の機関は自ら適格認定をすることが認められている。
TEQSAのような、オンラインの教育課程に対する適格認定は、他の国でも行われている。例えば、香港学術及職業資歴局(HKCAAVQ*3)は2018年4月より、教育の50%以上をオンラインで提供する課程に対する適格認定を開始した(本サイト2018年7月11日掲載記事)。この制度には、通学型の課程と同じ評価基準が採用されるが、オンライン教育を行う環境に関する追加資料の提出が求められている。HKCAAVQが適格認定した課程で授与される資格は香港の資格枠組(HKQF)に掲載され、香港の正規の資格として認められる。
適格認定以外の形でも、オンライン教育の質が第三者によって評価されることもある。米国教育協議会(ACE*)が行う高等教育に相当する非正規教育の単位推薦サービスには、オンライン講座も含まれる。例えば、オンラインで5か月間行われる”Google IT Support Professional Certificate”の課程は、学士課程前半の情報システム6時間+コンピューターネットワーク3時間+サイバーセキュリティ基礎3時間の学習に相当する、と同会は推薦する。また、米国高等教育アクレディテーション協議会(CHEA*4)は非正規の高等教育提供者に対する質保証制度Quality Platform(本サイト2017年10月18日掲載記事)を2015年より始めている。この制度では、MOOCなど革新的な形態で教育を提供する民間の企業や団体を対象に、提供される教育の学習成果を重視した評価を行う。
短期の高等教育
オーストラリアのUndergraduate Certificateは、従来の高等教育よりも短期間に取得できる点が特徴的であるが、同様の事例では、ニュージーランド政府が2018年8月よりマイクロクレデンシャルを国の教育制度に位置づけている(本サイト2018年9月12日掲載記事)。従来の高等教育では提供されない技能や知識のギャップを埋めるために導入されたマイクロクレデンシャルは、5~40単位分の学習量が求められる(1年間のフルタイム学習は120単位相当)。
一方、アメリカでも短期の高等教育は期待されている。全米科学審議会(NSB*5)は、今後大幅に不足が見込まれる技術労働者の育成を求める声明を2019年9月に発表した(本サイト2019年11月28日掲載記事)。この技術労働者とは、科学と工学のスキルを要する職に就く学士の学位を持たない者とされ、学士課程よりも短期の高等教育修了者が大半を占める。さらに、ジョージア州立大学機構は、中等教育修了後2年間の学習で取得するネクサス学位を2018年に創設した(本サイト2020年2月4日掲載記事)。これは同期間で取得できる準学士(Associate Degree)とは異なり、州内の産業で必要とされる人材の育成を目指している。
*1AQF: Australian Qualifications Framework
*2TEQSA: Tertiary Education Quality and Standards Agency
*3HKCAAVQ: Hong Kong Council for Accreditation of Academic and Vocational Qulifications
*4ACE: American Council on Education
*5CHEA: Council for Higher Education Accreditation
*6NSB: National Science Board