2020年3月5日、国際交流を促進する機関であるInstitute of International Education(IIE)は新型コロナウイルスによる米国・中国間における国際的な学生の移動への影響について米国の高等教育機関を対象に行った調査「COVID-19 Effects on U.S.Higher Education Campuses, Academic Student Mobility to and from China」の結果を公表した。
経済協力開発機構(OECD)のデータによると、2017年における全世界の留学生総数は530万人以上と推計されており、その中で中国は最も多くの学生を世界に送り出している。米国においても多くの中国人学生が学んでおり、2018/2019年における当該学生数は、IIEのデータによると369,548人である。当調査では、回答機関の70%以上が新型コロナウイルスによる中国での留学生獲得への影響を認めるとともに、米国から中国への留学の中止や無期限延期など、新型コロナウイルスが学生の国際的な移動に大きな影響を与えていることが明らかにされた。
調査の概要
調査期間は2020年2月13日から26日であり、IIEのネットワークに加盟する高等教育機関に対して行われた。当調査は米中間における学生の移動に新型コロナウイルスがもたらす影響を調査する目的で行われ、米国から中国への留学プログラムと中国から米国への留学プログラムに参加する学生に関して234の米国の高等教育機関※1が回答した。
なお、回答機関に在籍する中国人学生の数は、米国に留学する全中国人学生の総数のうち、47%を占めた。また、中国人学生が多いトップ20の機関のうち、19機関が当調査に回答した。なお、IIEは当調査後も感染が世界各国に拡大していることから将来的には他の地域においても同様の調査を行うとしている。
調査結果の主な概要
米国に受け入れる中国からの留学生について
- 76%の機関は中国での学生獲得のためのイベントや試験について、新型コロナウイルスによる影響を受けたと回答。対策として、ウェビナーでのイベント開催、対面式に代わるオンライン上での語学試験の実施、Graduate Record Examinationなど米国の高等教育機関への入学に必要な試験のスコア提出の免除、出願申請書の提出期限の延長などを行った。一方、20%の機関は2020/2021年の学生受入れに影響が出るとみているが、学生獲得のための代替的な方法は今のところなく、事態の改善を待っているとしている。
- 回答機関のうち37%(87機関)は新型コロナウイルスによる渡航制限により、中国から米国に学生が渡航できなくなったと回答。ただし、実際に渡航制限を受けた学生の割合は回答機関に所属する中国人留学生全体のうち、0.4%未満であり、多くの中国人留学生は冬期休業中に帰国しなかったこと、制限が発令される前に中国から米国に戻ってきていたこと、この時期の新規渡米学生が秋期よりも比較的少なかったことが考えられる。
- 学生が渡航できなくなった、と回答したすべての機関が学生と連絡を取り、今後の対応について話し合ったと回答した。高等教育機関が提供した選択肢として回答率が高かったのは、自習やリモート学習の提案(46%)、次学期までの休学または出席の見送り(41%)、オンライン教育・遠隔教育プログラムの提供(38%)。特に10人以上の学生が渡航制限を受けている高等教育機関では、当該学生に複数の選択肢を提供する傾向にあることが分かった。
米国から中国への留学について
- 新型コロナウイルスの感染拡大の時点で、中国での留学プログラム※2に参加していた米国の学生がいると回答した機関は21%(50機関)であり、学生数は計405名であった。そのうち、70%の機関は学生を現地から帰国させた、もしくは帰国に向けて手続き中であると回答した。なお、本調査の回答期間中の2月22日に、米国国務省が米国・中国間の渡航勧告をレベル3の不要不急の渡航の自粛に引き上げた。そのため、この70%に含まれない機関においても、勧告後に学生を帰国させた可能性があるとしている。
- 2020年の春学期から中国への留学を予定していた学生がいると回答した機関は48%(108機関)あり、そのうち、94%は留学を延期や中止にしたが、その多く(76%)は無期限での延期または中止を決定した。
- 中国への留学に代わる海外留学の選択肢として、48%の機関は別の国・地域に派遣したと回答した。また、30%の機関は学生の中国への渡航時期を2020年の後半に延期し、29%の機関は学生の計画について把握していないと回答した。
当報告書は結論として、新型コロナウイルスが今年度、さらにはおそらく数年にかけて、学生の国際的な移動に影響を与えるとしている。
米国以外でも、留学生を多く受け入れてきた英国や豪州などでは留学生の渡航制限による深刻な影響がみられ、英国では多額の財政損失が報告されている(本サイト2020/6/5投稿記事)。豪州では留学生が大きな収入源となっている高等教育機関もあることから、高等教育機関に対して財政の維持が困難になった場合に質保証機関に報告するよう通知が出されている(本サイト2020/3/25投稿記事)。
※1:博士の学位を授与することのできる機関(Doctorate-granting Universities)が50.8%、修士の学位を授与することのできる機関(Master’s Colleges & Universities)が25.6%、Baccalaureateやそれ以上の学位を授与する機関(Baccalaureate Colleges) が13.8%、準学士の学位を授与する機関(Associate’s Colleges)やその他機関(Special Focus Institutions)も回答した。なお、回答機関の属性は公立機関が54.6%、私立機関が45.0%、営利機関が0.4%であった。
※2:自機関が提供する留学プログラムのほか、他機関が提供する留学プログラムも含む。