2026年3月13日、中国政府は、今後5年間(2026-2030年)の国の経済と社会の発展のための重要政策を提示した「国民経済・社会発展第15次5か年計画概要」(原語:中华人民共和国国民经济和社会发展第十五个五年规划纲要)を公表した。
「国民経済・社会発展第15次5か年計画概要」は全62章で構成されており、教育政策については第38章「人民が満足する教育の実施」で述べられている。教育の全体方針として、教育を優先的に発展させ、道徳重視の人材育成を教育の基本とし※1、教育の総合的な改革を深化させ、人口変化に対応した教育資源配置体制を整備し、質の高い教育体系を整備すること等が表明されている。第38章第1節では「新時代の道徳重視の人材育成の推進」※2と題して全教育段階を通しての教育方針が述べられており、第2節では「基礎教育(就学前・初等・中等教育)の質向上と拡充」、第3節では「高等教育の質向上と拡大」、第4節では「職業教育機関の教育能力の向上」と題し、各教育段階の教育方針について述べられている。そして、第38章の最後に、「コラム15:質の高い教育システムの構築」として、具体的な施策が示されている。詳細は以下のとおりである。
※1 道徳重視の人材育成を意味する「立徳樹人」(原語:立德树人)は、2012年の第18回中国共産党大会で教育の基本任務として提起された。(胡锦涛在中国共产党第十八次全国代表大会上的报告)
※2 習近平時代の中国の特色ある社会主義思想を取り入れた道徳重視の教育を行うことを意味する。(原語:实施新时代立德树人工程)。
1.全教育段階の教育方針(「第1節 新時代の道徳重視の人材育成の推進」より)
-
習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想を浸透させる人材育成を目指して、「大思政課」(思想政治の教科)の構築を強化し、カリキュラム・教材体系を改善する。
高等教育において思想政治教育カリキュラムを実施し、資質教育※3を深化させ、学生の成長を促し、実践的な人材育成方法を刷新して大学生向けの社会実践科目※4を構築する。
初等・中等教育における「国情研学制度」(自国について学習・研究する制度)を制定し、思思想政治と社会の教科を効果的に融合させる。
「学生の体力向上計画」(保健体育教育を強化する)、「芸術教育浸透アクション」(芸術に触れて情緒を育む)、「労働習慣育成計画」(労働教育を初等・中等・高等教育において必修カリキュラムとする)を展開するとともに、「心の健康教育」(体系的な心の健康教育を学校全体で取り組む等)※5を普及させる。
- 学生への助成制度の改善、国家通用言語文字(標準語・簡体字)普及の強化、教員の能力と待遇の向上、学校・家庭・社会の協力体制の確立、教育評価メカニズムの改革、私立教育の適正な発展を促進する。
※3 資質教育(原語:素质教育)とは、進学だけを目的とした試験対策教育を否定し、生理的・心理的・社会文化的資質を総合的に身に付ける教育を言う。具体的には、思想道徳教育、文化・科学教育、身心教育、芸術教育、労働教育を指す。(国家素质教育网)
※4 社会実践科目では、フィールド調査及び実務、実技等を通じて特定の分野の内容を学ぶ。(参考:第三批国家级一流本科课程名单 pp.174-187「五、社会实践一流课程(449门)」)
※5 青少年の身心の健康の向上を目指して、体育、芸術、労働、メンタル、近視、栄養、食品の安全、生命の安全について各学校が取り組むべきことを示した「全面推进健康学校建设的指导意见」の中で詳しく言及されている。
2.基礎教育(就学前教育・初等教育・中等教育)に関する政策(「第2節 基礎教育の質向上と拡充」より)
- 基礎教育の各段階の枠を超えた資源配分を行う。学齢人口の流入がある都市への教育資源の供給を拡大する。
- 義務教育の質の高い均衡的発展※6を目指し、各地域内に校長・教員を統一的に配置して教員の交流・異動を促し、少人数学級の整備を進めるとともに農村で必要とされている小規模学校の設置・運営を進める。
- 就学前教育の普及と発展に努め、幼稚園全体の定員のうち公立幼稚園の定員が占める割合を高めて幼児教育の粗就園率を95%まで引き上げる。
- 普通高級中学の教育資源を拡大し、「県域普通高中振興計画」※8を推進し、後期中等教育※7全体の修了率を88%に到達させる。無償教育の範囲を着実に拡大し、義務教育年限の延長を模索する。
- 中考(初級中学学業水準試験:中学卒業学力試験と高級中学入学試験を兼ねる)の改革を順次進め、質の高い普通高級中学の入学定員をより多くの初級中学に配分し、可能な地域では生徒をできるだけ均等に割り振る。
- 「双減」(宿題の軽減・学習塾の削減)と教育の質の向上を総合的に推進する。
- 特別支援教育の保障体制を整備する。
- 更生教育(原語:专门教育)の保障体制を整備する。
※6 義務教育の質の高い均衡的発展(原語:义务教育优质均衡发展)とは、全国各地の義務教育の学齢期の生徒が質の高い基本的な公共教育を公平に受けられるようにすることを言う。2023年に中央人民政府が公表した「質の高い均衡的な基本公共教育サービス体制構築に関する意見」(原語:关于构建优质均衡的基本公共教育服务体系的意见」)にて、2035年までに教育運営条件、教員組織、資金の投入、ガバナンス体制等を整備して、質の高い均衡的発展を目に見える形の水準にまで引き上げるとしている。中央人民政府は、2000年に「義務教育の基本的普及」、2011年「義務教育の全面的普及」、2021年に「義務教育の均衡的発展」を実現し、2023年から「義務教育の質の高い均衡的発展」が目標に掲げられた。(从基本均衡向优质均衡迈进——我国多举措部署推进义务教育优质均衡发展)
※7 普通高級中学の少ない県域*に普通高級中学を増やす計画(教育部等六部门印发《县域普通高中振兴行动计划》)。*中国の行政区は、省級(省・自治区・直轄市)、県級(自治州・県・自治県・市)、郷級(民族郷・鎮)の3つに区分されており、県域とは、県級政府の管轄地域を意味する。
※8 中国の後期中等教育は、普通教育と職業教育があり、普通高級中学と中等職業学校で実施される。「中国の高等教育・質保証システムの概要」(第2版)p.12参照。
3.高等教育に関する政策(「第3節 高等教育の質向上と拡大」より)
-
研究型・応用型・技能型を基本的な教育運営として位置付け、各類型に応じた大学改革・発展を推進する。
理工農医系を中心に、質の高い本科課程(学士課程に相当)の学生募集人数の規模と大学院課程の育成人数の規模を順次拡大し、高等教育の粗就学率を 65% に引き上げる。本科課程の学生募集割合を高めるとともに、高等教育における大学院課程の学生比率を高める。
専門職学位の大学院教育を大きく発展させ、工学系の修士・博士の学生を育成する割合を高める。
多様なルートから質の高い高等教育資源を拡充し、高水準の研究型大学の構築に注力するとともに、応用型本科課程※9の教育機関を整備・強化する。
新規追加する高等教育資源は人口の多い省や中西部地域に適度に傾斜をかける。
本科課程の学生一人当たりの(政府による)教育支出基準を適時に調整し、学生寮など基本的な教育運営条件の継続的な改善を検討する。
高水準な教育の対外開放を拡大させ、海外の優れた理工系大学との共同運営教育を奨励するとともに、「留学中国」(Study in China)のブランド力の向上と留学生受け入れ能力の強化を図る。
教育のデジタル化戦略を一層進める。生涯学習の公共サービスを最適化し、国家開放大学※10の組織体制を改善する。
※9 実践教育を重視した応用型の高等教育を行う本科課程。中国の高等教育の分類と機関の種類等については、「中国の高等教育・質保証システムの概要」(第2版)p.14参照。
※10 開放大学は放送大学に相当する大学。教育部直属の国家開放大学と、その分校[分部]である各省・自治区・直轄市の開放大学があり、各分校は国家開放大学の教育運営体系に沿って運営されている。(「中国の高等教育・質保証システムの概要」(第2版)p.17参照)
4.職業教育に関する政策(「第4節 職業教育機関の教育能力の向上」より)
- 現代的な職業教育システムの構築を推進し、職業教育の教育能力の質と魅力を高める。
- 地域の発展に合わせて、産業配置に連動した職業教育となるよう、産業チェーンのイノベーション需要と密接に結びついた専攻を設置する。
- 中等職業教育改革を深化し、優秀な中等職業学校を少数精鋭で整備するとともに、特色ある高等職業教育機関を整備し、中等職業教育と高等職業教育の一体化※11への発展を支援する。
- 高水準の本科レベル職業学校(職業技術大学、職業大学)を複数整備するとともに、職業教育の本科課程と専門職学位教育の融合を推進する。
- 産業と教育を融合させた人材育成モデルを実施し、道徳思想と技能の修得※12のための人材育成メカニズムを整備するとともに、各産業の主要企業が職業教育機関の設立あるいは運営に関わることを奨励する。
※11 高等教育機関の分類については、「中国の高等教育・質保証システムの概要」(第2版)p.16参照。
※12 原語は「德技并修」。職業教育の方針の一つとして中華人民共和国職業教育法(第4条)に示されている。
5.具体的な施策(「コラム15:質の高い教育システムの構築」より)
※当機構国際課による仮訳
| 1.基礎教育の拡充と質の向上: 就学前教育に公的資源を効果的に供給する。義務教育学校の標準化の全国的な普及を実現する。常住人口の多い地区と人口の流入がある地区を中心に、1000校以上の質の高い普通高級中学を整備する。中等教育機関の実験設備を更新し、高水準の科学教育を特色とする普通高級中学を複数校整備する。 |
| 2.質の高い高等教育資源の拡充: 「双一流」*1大学が新キャンパスを数カ所設立することを支援し、「双一流」大学の本科課程入学者数を10万人以上増加させる。約200校の高水準の応用型本科課程の教育機関を整備するとともに、条件を満たす大学においては、質の高い特色ある学科・専攻を複数設置する。中西部、東北地域等において高等研究院*2の整備を進める。国家基礎研究イノベーション向上プロジェクトにより、重点分野を対象とした国家学際研究センター及び国家卓越イノベーション人材育成学院を複数設立する*3。国家卓越エンジニア学院*4が主体となって、技術開発センターを設立・強化し、約150カ所の国家産学融合イノベーションプラットフォーム*5を整備する。 |
| 3.現代職業教育システムの構築: 約60校の高水準の高等職業教育機関と約160の高水準の専攻群を整備する。質の高い中等職業学校とその専攻の構築を支援する。質の高い技師学院*6を複数校整備するとともに質の高い専攻を100専攻構築する。集積回路、人工知能、低空経済*7などの重点産業と現代サービス業に焦点を当て、産業と教育を融合した訓練拠点を200か所整備し、高水準の複数の職業教育機関が訓練設備を先進的なものに更新することを支援する。 |
| 4.特別支援教育の弱点を補う: 特別支援教育機関の標準化を推進する。既存の資源を十分活用し、需要のある県における特別支援教育機関が標準に達することができるよう支援する。人口規模の大きい都市が自閉症児童のための特別支援教育機関を整備することを支援し、健康と教育の融合を奨励する。特別支援教育を教員養成課程の学生が必修で学ぶ科目とする。 |
*1 世界トップレベルの大学及び学科の整備を目指し、国が基準を設けて一流大学と一流学科を選出する政策(本サイト2022/4/19投稿記事参照)
*2 高等研究院とは、先駆的研究を行う機関。主に大学内に設置される。(参考:Institute for Advanced Study,Tsinghua University)
*3 国家基礎研究イノベーション向上プロジェクトとは、高等教育機関が基礎研究のイノベーションに必要とする施設や設備等の整備を国が支援するもの(参考:上海交大将新建“生物学和化学”两栋基础研究创新中心大楼)。このプロジェクトを通じて、高等教育機関に国家学際研究センター、国家卓越イノベーション人材育成学院(基礎分野、先駆的分野の卓越人材育成機関)を複数整備するというもの。(参考:全国高校科技创新工作会议暨基础学科和交叉学科突破计划启动部署会召开)
*4 国家卓越エンジニア学院とは、企業または大学内に設立され、企業と大学が共同で修士・博士人材の育成を行う組織。2022年から「国家卓越エンジニア学院」の名称で設立が進められ、現在50機関ある(2025年11月時点)。詳しくは本サイト2026/3/3投稿記事の「卓越エンジニア学院の設立経緯」参照。
*5 国家産学融合イノベーションプラットフォームとは、国家発展計画委員会が主導で整備を進めている、主要な大学と企業が特定の分野において人材育成や科学技術プロジェクトにおいて連携をするためのプラットフォーム。(国家产教融合创新平台建设现场会在西安交通大学召开)。2019年から整備が進み、2025年11月時点では5つの領域(集積回路、エネルギー貯蔵技術、医学重点分野、生物育種、人工知能)を重点とし、33高等教育機関に45のプラットフォームがある。 国家产教融合创新平台建设交流会召开)
*6 技師学院は人力資源社会保障部の所管の教育機関。中等職業教育に位置付けられる技工学校の継続教育機関であり、「高等職業教育機関設置制度の規定に基づき、条件を満たす技師学院は高等職業教育機関に位置付けられる」(中華人民共和国職業教育法(第15条))とされる。(「中国の高等教育・質保証システムの概要」(第2版)p.9及び本サイト2022/8/9投稿記事参照)
*7 「低空経済」とは、高度1,000メートルの低空域で、有人・無人のドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)などを活用した経済活動のこと(JETRO)
原典:中华人民共和国中央人民政府(中国語)
参考:関連記事
(1) 中国:今後10年の教育政策―「教育強国建設計画綱要(2024-2035年)(本サイト2025/3/24掲載記事)
(2) 中国教育部が卓越エンジニア教育の認定基準を公表(本サイト2026/3/3掲載記事)







