2025年12月10日、中国教育部は、「卓越エンジニア教育認定基準」(原語:卓越工程师教育认证标准、以下、「本基準」)を公表し、今後、これに基づいて卓越エンジニア学院※1の認定を試験的に実施すると発表した。教育部は、本基準にて産業と教育の融合による人材育成メカニズムを提示するとともに、高水準の卓越エンジニア学院の設立を推進するとしている。
本基準は、これまで卓越エンジニア学院において行われてきた教育の経験を基に、教育部、評価機関、大学、企業等の関係者によって作成され、6つの大項目と20の小項目で構成されている(後段の「表:卓越エンジニア教育認定基準」参照)。
中国教育部は、本基準の狙いとして、中国の特色ある世界水準の卓越エンジニアの育成体系の確立、卓越エンジニア学院の質の保証、卓越エンジニア自主育成※2の質の向上、中国の工学教育の国際的な影響力の向上を挙げている。これにより、中国政府が目標とする教育強国、科学技術強国、人材強国の構築※3の達成へ近づけるとしている。
また、試験的に実施する認定業務は、中国工学教育分野認定協会(原語:中国工程教育专业认证协会(CEEAA))※4が、関係機関及び政府部門、学術界、産業界、業界団体の専門家等による大学院教育認定委員会を設立したうえで進めていくとしている。
※1 卓越エンジニア学院とは、企業または大学内に設立され、企業と大学が共同で修士・博士人材の育成を行う組織。2022年から「国家卓越エンジニア学院」の名称で設立が進められ、現在50機関ある(2025年11月時点)。詳しくは後段の囲みを参照。
※2 「自主育成」(原語:自主培养)とは、国の発展に貢献する卓越した人材を中国が自らの手で育てることを意味する。2022年10月に開かれた中国共産党第20回全国代表大会の報告書には、人材の自主育成の質を強化することが示され(在中国共产党第二十次全国代表大会上的报告 五、实施科教兴国战略,强化现代化建设人才支撑)、特に、科学技術関連の基礎研究力、応用力、国際性を備えた人材の育成を目指すとしている(全面提高人才自主培养质量)。
※3 第14次五か年計画(中共中央关于制定国民经济和社会发展第十四个五年规划和二〇三五年远景目标的建议)の「3.2035年までに社会主義現代化の長期目標の基本的実現(到二〇三五年基本实现社会主义现代化远景目标)」及び「三、イノベーション主導の発展を堅持し、発展の新たな優位性を全面的に構築(坚持创新驱动发展,全面塑造发展新优势)」の冒頭部分等で言及されている。
※4 2015年設立。中国は2016年に、技術者教育のシステムとその質に関する実質的同等性を相互承認するための国際協定であるワシントンアコードに正式加盟し、中国工学教育分野認定協会[中国工程教育专业认证协会](China Engineering Education Accreditation Association: CEEAA)は、ワシントンアコードに準拠した基準に基づく工学教育の認定を担当している(中国の高等教育・質保証システムの概要(第2版)p.52)。
卓越エンジニア学院の設立経緯:
卓越エンジニア学院は、2011~2020年に実施された卓越エンジニア育成計画を前身とする。2010年7月の中央人民政府による「国家中長期教育改革・発展計画綱要(2010-2020年)」で卓越エンジニア育成計画が言及され、教育部から指定を受けた大学は、各学部・学科の本科、修士、博士課程にて、企業との連携による卓越エンジニアの育成を行った。
本計画終了後、2021年に習近平国家主席はより多くの卓越エンジニアの育成を目指すと表明し(习近平出席中央人才工作会议并发表重要讲话)、2022年からは、卓越エンジニアを育成する単独組織(「学院」)の形をとることとなり、教育部の指定を受けた大学あるいは企業内に「国家卓越エンジニア学院」と称して設立されている。「国家卓越エンジニア学院」は、2022年に、清華大学、北京航空航天大学等の10大学と中国航天科工、中国宝武鋼鉄等の8企業内に設立され、以降、2023年に14大学、2024年に8大学、2025年に10大学の学内に設立された。このほか、「国家卓越エンジニアイノベーション研究院」と称される実践的な研究を実施する機関が北京市、上海市、広東省に計4機関ある。
卓越エンジニア学院における人材育成の特徴:
卓越エンジニア学院は、産業と教育の融合を重視し、国家戦略と企業需要に対応した工学分野*1における学際的・複合型の卓越したエンジニアの育成を修士課程と博士課程で実施する。
大学と企業は、人材育成の各段階において協力し合い、共同での学生募集、学生の育成、研究テーマの選択及び研究成果の共有を行い(「四共」)、教員、カリキュラム、プラットフォーム、方針の共通化を図る(「四通」)。(「四共」「四通」メカニズムと称される。)
また、従来の大学院教育は論文重視に偏っているとの考えから、卓越エンジニア学院では実践教育を重視しており、実践成果に基づいた学位授与も行われる*2。実際に、直近の3年間で60名以上の学生に対し、実践成果に基づいて、修士または博士の学位が授与されている(卓越工程师培养改革三年形成新格局)。
教育部は、工学の技術者教育と実際の生産との不一致という工学人材育成に存在してきた難題を、卓越エンジニア学院での教育によって解決に導くとしている(教育部学位管理与研究生教育司负责人就《卓越工程师教育认证标准》答记者问 – 中华人民共和国教育部政府门户网站)。
*1 国家戦略に対応した分野として、例えば、西北工業大学の「国家卓越エンジニア学院」では、航空、宇宙、航海、軍事国防の分野、の教育を実施している。
*2 2025年1月1日に施行された学位法の第20条、第21条で実践成果に基づいて学位を授与できることが明記されている(本サイト2024/5/29投稿記事)。

出典:卓越工程师教育认证标准(中国語)
原典①:教育部关于发布《卓越工程师教育认证标准》教育行业标准的通知(中国語)
原典②:介绍卓越工程师培养改革情况,解读《卓越工程师教育认证标准》(中国語)







