2024年4月26日、中華人民共和国学位法(以下、「学位法」)が成立し、2025年1月1日から施行されることとなった。中華人民共和国学位条例(1981年施行、2004年一部改正)※1の44年ぶりの全面改正であり、総則、学位業務体制、学位授与資格※2(教育機関が政府から付与される、学位を授与することができる資格)、学位授与要件(学生が教育機関から学位を授与されるための要件)、学位授与プロセス、学位の質保証、附則の全7章45条で構成されている。
学位法には、学位条例の内容を補う形でこれまで提示されてきた教育部の文書の内容が盛り込まれているが、一部、変更された箇所もある。例えば、各学位には「学術学位」と「専門職学位」の2つの類型があることが明示され、学士・修士・博士の各学位の授与要件においても学術学位と専門職学位それぞれの要件が示された。
また、政府が高等教育機関に付与する修士・博士の学位の授与資格の審査は、これまでは省・自治区・直轄市学位委員会が修士と博士の両方の審査に携わっていたが※3、学位法では修士は省・自治区・直轄市学位委員会が審査し、博士は教育部が審査すると変更された※4。(後述の3.を参照)
- ※1. 中国では一般に行政法規を「条例」と称す(行政法规制定程序条例 第5条)が、学位条例は全国人民代表大会常務委員会の表決により成立した「法律」である。
- ※2. これまで「学位授与権」と称されていたが、学位法では「学位授与資格」に改められた。
- ※3. 「2020年学位授与権審査業務全体要求」(原語:2020 年学位授权审核工作总体要求)(p.2)。
- ※4. 従来の審査体制については、2024年3月に当機構が刊行した「中国の高等教育・質保証システムの概要(第2版)」のpp.25-26、p.41を参照。なお、当概要は学位法成立前の情報(学位条例及び教育部による文書)を基にしている。
また、海外関連の内容として、第7章「附則」に以下が追加されている。(第44条)
第44条【※当機構国際課による参考仮訳】
①学位授与機関は、学位を申請する海外の個人*に対して、学位法が規定する学業要件、学術水準又は専門水準等の要件及び関連手続きに従って相応の学位を授与する。
②学位授与機関が海外で学位を授与する場合は、学位法の関連規定が適用される。
③海外の教育機関が中国で学位を授与する場合は、中国の関連する法律・法規を遵守しなければならない。
④海外の教育機関が授与した学位証書の承認については、厳格に国家の関連規定に基づいて行われなければならない。
*原語:境外个人。外国人及び香港・マカオ・台湾の人を指す。
【注】丸数字は当機構国際課が便宜的に付したものであり、原文にはない。
このうち、③の「法律・法規」、④の「国家の関連規定」が具体的に何を指すか、また、現状からの変更の有無等は不明である。
「学位法」の主な内容
(参考:教育部記者会見) *( )は内容に該当する条文番号
1. 学位業務の基本原則(第1章)
- 国は学位制度を実施する。学位は、学士、修士、博士に分かれ、それぞれに学術学位、専門職学位等の類型※5がある。(第2条)
- 学位業務は中国共産党が主導し、国家の教育方針に沿って、党と国のために人材を育成する。また、教育規律を守り、公平・公正・公開、学術の自由と学術規範の統一という原則を堅持する。(第3条)
- ※5. 教育部は、学位法に学位の類型を明記したことは大きな変化であり、また、将来的に学術学位と専門職学位だけでない類型ができることを考慮して敢えて「等の類型」を入れた、としている。
2. 学位業務体制(第2章)
- 国務院は学位委員会を設立し、全国の学位業務を指導する。(第6条)
- 国務院教育行政部門(=教育部)に事務局を設置し、国務院教育行政部門が全国の学位管理業務を担う。(第7条)
- 省・自治区・直轄市政府は省・自治区・直轄市学位委員会を設立し、管轄区域の学位管理業務を担う。(第8条)
- 学位授与機関は学位評定委員会を設立し、学位管理を行う。(第9条)
3. 学位授与資格(教育機関が政府から付与される、学位を授与することができる資格)と資格取得のための手続き(第3章)
- 学位授与資格を申請する教育機関は、社会主義の価値観に基づく教育を堅持すること、国・地方の経済と社会の需要及び高等教育の発展計画に沿うこと、相応の教員組織・設備を確保し・教育レベルを満たす等の条件を満たさなければならない。(第12条)
- 高等教育機関は学士、修士、博士の学位授与資格の申請をすることができ、研究機関は修士と博士の学位授与資格の申請をすることができる。(第13条)
- 学士の学位授与資格は、省・自治区・直轄市政府が審査し付与を認めた後、国務院学位委員会に届け出る。修士の学位授与資格は、省・自治区・直轄市政府が審査した後、国務院学位委員会が付与を認める。博士の学位授与資格は、国務院教育行政部門が審査した後、国務院学位委員会が付与を認める。(第14条)
- 国務院学位委員会から許可を得た高等教育機関については、修士と博士の専門分野の追加のための審査を自ら実施することができ、その結果に基づき国務院学位委員会が当該分野の学位授与資格の付与を認める。(第16条)
- 国務院学位委員会は、国の需要と経済発展、科学技術イノベーション、文化の伝承、人民の生命と健康の必要に応じて、専門分野の設置及び配置等を統括することができる。(第17条)
4. 学位授与要件(第4章)
- 学位申請者は、中国共産党の指導、社会主義制度を支持し、憲法、法律、学術道徳と学術規範を守り、相応の学業要件(学術水準又は専門水準)を満たさなければならない。(第18条)
- 学術学位は学術研究能力の、専門職学位は実践能力の学士、修士、博士の各学位授与要件(※下記枠内参照)を満たすと学位が授与される。(第19条~第21条)
- 各学位授与機関は各自の特色を反映させた学位授与基準を制定しなければならない。(第22条)
学位授与要件(第19条~第21条)【※当機構国際課による参考仮訳】
【学士】
第19条 学士の学位は、本科教育を受け、規定の科目の試験に合格し又は所定の単位を修得し、卒業論文等の審査を通過し、学位申請者が以下に示す水準に達したことが確認された場合に授与される。
- 専攻する専門分野の基礎理論、専門知識、基本的技能を比較的よく把握している。
- 学術研究に従事又は専門実務を担う初歩的な能力をもつ。
【修士】
第20条 修士の学位は、修士の大学院教育を受け、規定の科目の試験に合格し又は所定の単位を修得し、学術研究訓練又は専門分野の実践訓練を完了し、学位論文又は実践成果の口頭試問を通過し、学位申請者が以下に示す水準に達したことが確認された場合に授与される。
- 専攻する専門分野の基礎理論及び体系的な専門知識を確実に把握している。
- 学術学位の申請者は学術研究業務を遂行する能力をもち、専門職学位の申請者は専門実務を行う能力をもたなければならない。
【博士】
第21条 博士の学位は、博士の大学院教育を受け、規定の科目の試験に合格し又は所定の単位を修得し、学術研究訓練又は専門分野の実践訓練を完了し、学位論文は又は実践成果の口頭試問を通過し、学位申請者が以下に示す水準に達したことが確認された場合に授与される。
- 専攻する専門分野の基礎理論及び専門知識を確実に全面的に深く把握している。
- 学術学位の申請者は学術研究を単独で遂行する能力をもち、専門職学位の申請者は専門実務を単独で遂行する能力をもたなければならない。
- 学術学位の申請者は学術研究分野で独創的な成果を出し、専門職学位の申請者は専門実務分野での独創的な成果を出さなければならない。
5. 学位の質保証(第6章)
- 学位授与機関は質保証制度の構築、学生の募集・養成、学位授与等の全過程の質管理の強化、社会一般への情報公開、学位の質保証等※6を行わなければならない。(第31条)
- 学位授与機関は、大学院生のために品行方正で高い学術水準や実践能力をもつ教員、研究員、専門家を指導教員として配置し、教員の採用、評価、監督、調整ができる体制を整備しなければならない。(第32条)
- 博士の学位授与機関は高度イノベーション人材の育成の見地から、博士の学位を授与する専門分野の構築、博士課程の学生の育成・管理・サポートの強化、博士の学位の質の向上に努めるとともに、博士課程学生も学位論文や実践成果を上げることに努めなければならない。(第33条)
- 国務院教育行政部門と省・自治区・直轄市学位委員会は、学位授与資格を付与した機関と専門分野について、専門家による質評価を定期的に実施しなければならない。評価の結果、学位の質を保証できないとみなされた場合は改善命令が出され、改善が見られない場合、学位授与資格が取り消される。(第34条)
- 学位申請者、学位取得者に学術不正等があれば、学位評定委員会の決議によって、学位の不授与又は取消となる。(第37条)
- ※6. 具体的には、修士・博士の学位授与機関に対する学位授与権の継続可否に関する評価(学位授与点合格評価)が国務院学位委員会の主導で定期的に行われるなどの仕組みがある。詳細は当機構「中国の高等教育・質保証システムの概要(第2版)」(pp.46-47、49-50)を参照。また、学士の学位に関する評価は省・自治区・直轄市の学位委員会の主導で行うとされており(学士学位授权与授予管理办法 第22条)、実施状況は省・自治区・直轄市によって異なる。
6. 争議処理、学位申請者と学位取得者の権利※7保障(第6章)
- 学位授与機関が学位の不授与又は取消を決定した場合、学位申請者又は学位取得者に理由、根拠等を通知しなければならない。(第39条)
- 学位申請者は、専門家による審査、口頭試問、成果認定等の過程又は学術評価結果に異議がある場合、学位授与機関に再審査を申請することができる。(第40条)
- 学位申請者又は学位取得者は、学位申請の不受理又は学位取消に不服がある場合、学位授与機関の再審査又は関連機関による法的措置を請求することができる。(第41条)
- ※7. 原語は权益(権益)。法に基づき享受されるべき権利のことを言う。(中国語辞典「辞海」)
原典①:中華人民共和国学位法(中国語)
原典②:完善学位法律制度 保障学位工作高质量发展——国务院学位委员会办公室、教育部政策法规司负责人就《中华人民共和国学位法》答记者问(中国語)
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