英国政府は2026年1月20日、英国の教育とスキルを海外に輸出するために策定された新たな国際教育戦略(The UK’s International Education Strategy)を公開した。本戦略は、教育は英国にとって最も価値のある輸出品の一つである※1として、これまで設定していた留学生数に関する目標を撤廃し、教育輸出※2の拡大に重点を移したものとなっている。
※1 英国政府の発表によれば、以下のように「教育」は自動車産業や食料・飲料産業よりも輸出額が大きい「輸出品」であるとされている。
Education is already one of country’s most valuable exports, bringing in £32 billion to the UK economy annually and worth more than the automotive or food and drink industries.
※2 ここでの「教育輸出」には、海外で英国の教育を提供する英国の学校・カレッジ・大学(いわゆる国境を越えた教育(TNE))、英国で学ぶ留学生、海外で提供される英国の資格・研修・デジタル学習(UK qualifications, training and digital learning sold abroad)が含まれるとされる。例えば、英国の大学の留学生が支払う授業料や英国内での生活費、外国に設置された分校や提携校、遠隔教育等の形態で英国の教育を受ける現地の学生の授業料、教育関連企業の製品やサービスなど。
戦略に掲げられた目標
本戦略では、以下の3つの目標が掲げられている。
| 1.教育を通じて英国の国際的地位を高め、あらゆる学習段階において英国をグローバル・パートナーとして選ばれる国にする 2.高等教育において様々な国々から質の高い留学生を継続的に受け入れる 3.2030年までに教育輸出額を年間400億ポンド(約8兆4400億円、日本円の換算は1ポンド=211円で計算)に増やす※3 |
2019年に策定された前回の戦略からの変更点として、教育を通じた英国の国際的地位の向上という目標が新たに加わり、高等教育における留学生受入れの数値目標(年間60万人)が撤廃された※4。また、教育輸出額の目標については50億ポンド増額されている。
【参考】2019年策定の国際教育戦略における目標
| 1.2030年までに教育輸出額を年間350億ポンド(約7兆3850億円)に増やす 2.2030年までに英国の高等教育システムで学ぶ留学生数を年間60万人に増やす |
英国政府は今回の戦略について、留学生数に関する目標設定を撤廃し、留学生の受入れは継続しつつ、英国の教育機関の海外展開、海外とのパートナーシップの構築、そして新たな市場における英国教育の提供を支援することで、海外への教育輸出に重点を移している、としている。
また、所管省庁としては、以前から担当している教育省、ビジネス・貿易省に外務・英連邦・開発省が加わり、外交的手段※5も活用して目標達成に向け取り組むとしている。
※3 2022年の英国の総教育輸出額は323億ポンド(約6兆8153億円)。内訳は、留学生の授業料や生活費、教育関連の製品・サービスの輸出、TNE活動での収益など。特に英国人学生よりも高額に設定されている留学生の授業料や、彼らの生活費といった高等教育に関する輸出額が大きく、全体の73.4%にあたる237億ポンドを占める(表1参照)。
表1:英国の教育関連輸出及びTNE活動からの収益の内訳(2022年)
| 輸出項目 | 輸出額(億ポンド) | 割合(%) |
| 教育関連輸出-高等教育 | 237 | 73.4 |
| 教育関連輸出-継続教育 | 1.9 | 0.6 |
| 教育関連輸出-学校教育 | 9.8 | 3.0 |
| 教育関連輸出-英語研修 | 5.6 | 1.7 |
| 教育関連輸出-教育関連の製品・サービス | 38.9 | 12.0 |
| TNE活動(高等・継続・学校・幼児教育) | 29.7 | 9.2 |
| 合計 | 322.9 | 100 |
出典:英国教育省 Table 2 – Comparison of existing and new methodology for 2022 (£bn)を基に当機構国際課作成。
※4 英国では2020/21年度以降、60万人を超える留学生を受け入れる状況が続いており、以前の戦略における留学生受入れの数値目標は既に達成されている(表2参照)。
表2:英国の高等教育機関における外国人留学生数の推移
| 年度 | 2020/21 | 2021/22 | 2022/23 | 2023/24 | 2024/25 |
| 外国人留学生数(人) | 600,180 | 675,200 | 758,865 | 729,850 | 685,565 |
出典:HESA Figure 9 – HE student enrolments by permanent address
※5 具体的な手段として、外交官による人脈構築や政治情勢等の情報を活用した、TNEや、AIなどの成長分野の支援、また、大使館、高等弁務官事務所、ブリティッシュ・カウンシル事務所から得られる市場情報の活用などが挙げられている。
国際教育戦略の内容
3つの目標達成に向けた取り組みの概略は、以下のとおり示されている。
1.教育を通じて英国の国際的地位を高め、あらゆる学習段階において英国をグローバル・パートナーとして選ばれる国にする
• 英国の外交ネットワークとブリティッシュ・カウンシルのプレゼンスを活用し、文化や分野を越えた架け橋を築き、国際的なつながりを深め、戦略的な協力と教育システムの強化を支援する。
• 質の高い英国教育の海外での提供へのアクセスとインパクトを拡大するため、教育機関やブリティッシュ・カウンシルと緊密に連携することで、国境を越えた教育(TNE)における政府のリーダーシップを強化する。
• 国際協力を強化し、英国の卓越性を示し、国際的なネットワークを活用して英国の国際的地位を向上させることにより、研究と科学技術における信頼できるグローバル・パートナーとして英国を推進する。
• より多くの英国の若者が海外で学び、働き、ボランティア活動を行う機会を創出し、グローバル化した世界で活躍するために必要な自信とスキルを育む。
• 女性・女子の教育機会拡大、基礎的な学習の強化、気候変動への適応とレジリエンスの促進など、世界的な教育課題への取り組みを継続する。
• 英国の学術資格及び職業資格の国際的な認知度を高め、熟練労働者の移民(skilled migration)、サービス貿易、国際教育を支援する。
2.高等教育において様々な国々から質の高い留学生を継続的に受け入れる※6
• 学生経験、質の高い成果、責任ある学生募集をアプローチの中心に据えて、英国が世界に誇る高等教育機関への質の高い留学生の継続的な受入れを支援する。
• 英国が留学生に提供する高等教育の国際的な競争力を維持しつつ、英国政府の移民政策や技能育成に関するより広範な優先事項に沿ったものとなるようにする。※7
• ブリティッシュ・カウンシルがGREAT Britain & Northern Ireland Campaign※8の一環として実施・共同出資する「Study UK」キャンペーン※9を通じて、英国を望ましい留学・研究先として引き続き発信する。
※6 本戦略には「学生募集活動の多様化を促し、特定の国への依存を減らす」といった記載があり(p.37)、ここで対象としている具体的な国の名前は挙げられていない。
※7 例えば、英国政府は2025年11月に移民法を改正し、大学卒業後に就職先が決まっていなくても申請できるビザ(Graduate visa)の在留期間短縮(2年から18か月への短縮)などの規制強化を行っている。この変更は学士・修士の学位取得者を対象としたもので、2027年1月以降の申請から短縮が予定されている。なお、博士学位取得者は現行の3年から変更はない。
※8 海外に向けて英国への訪問、留学、貿易、投資、居住、就労を奨励することで、英国の国際的な評判を高め、経済成長を促進することを意図した英国の国際コミュニケーションプログラム。
※9 デジタルマーケティング、ソーシャルメディア、国際イベントを通じて、英国の教育や学生生活、卒業生の進路を紹介する取り組み。
3.2030年までに教育輸出額を年間400億ポンドに増やす
• 「Plan for Change」(現労働党政権による国家戦略文書)に沿って、教育セクター全体と協働し、年間400億ポンドの教育輸出という目標を達成する。
• International Education Champion※10が教育輸出の拡大と重点国※11におけるパートナーシップ構築を推進できるよう支援する。
• 英国教育を、質が高く革新的、かつ価値に基づいたものとして発信する。UK Export Finance(UKEF)や英国政府の海外ネットワークなどを通じて、英国の教育を海外に輸出する機関等を支援する。
• 英国の教育機関がUKEFを含む金融機構や実践的な支援を活用し、障壁を克服して国際的に成長できるよう支援する。
• 教育機関や企業と協力し、教育輸出の価値を高めるための教育セクター主導の行動計画を策定する。
※10 2019年の国際教育戦略に基づいて設置された、英国政府が任命する特別職。役割は、英国の教育セクターに国際的な機会を開拓し、教育セクターを海外の機会に結びつけ、成長を阻むあらゆる課題や障壁を克服する支援を行うこととされている。現任者は、エクセター大学の元学長(役職設置以来、継続して任命されている)。
※11 英国の教育輸出を重点的に促進する国。具体的な国・地域としては、インド、インドネシア、ナイジェリア、サウジアラビア、ベトナムが挙げられている。
出典:
原典①:英国政府(英語)
原典②:英国政府(英語)
原典③:英国政府(英語)
【関連記事まとめ】
・【イギリス】ブリティッシュ・カウンシルが英国の高等教育機関による国境を越えた教育(TNE)に関する報告書を公表(QA UPDATES 2025/6/20投稿記事)
・高等教育の国際化政策が充実している国は? ーブリティッシュ・カウンシルによる国際比較(QA UPDATES 2019/7/8投稿記事)







