ブリティッシュ・カウンシルは、2019年5月に調査報告書「The Shape of Global Higher Education: International Comparisons with Europe」を刊行した。高等教育機関の国際展開に対する各国の政策的支援の状況について、欧州を中心に20か国の国際比較を行ったものである。総合的にはオランダの評価が最も高く、ドイツ、アイルランド、オーストラリア、ポーランド、フランス、英国と続いた。
ブリティッシュ・カウンシルでは、高等教育の国際展開に関する諸外国の政策動向等の比較調査シリーズ「The Shape of Global Higher Education」を数次にわたって刊行しており、第1版は世界26か国(本サイト2016/5/31投稿記事)、第3版はASEAN諸国(本サイト2018/5/29投稿記事)を取り上げた。本編はその第4版となる。
■ 調査対象国―20か国
欧州は11か国(ブルガリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、オランダ、ポーランド、ロシア、スペイン、英国)。域外の比較対象として9か国(カナダ、米国、メキシコ、ブラジル、コロンビア、チリ、オーストラリア、中国、インド)が加わった。日本は含まれていない。
3領域・37項目を通じて、高等教育機関の国際展開に対する各国の政策の状況を評価する。各項目は質問形式になっており、各国政府からの回答と根拠データに基づき、各領域の充足度を数値化する(最小値0、最大値1)。
領域 | 内容 |
1. 開放性とモビリティ | 高等教育の国際化戦略、学生のモビリティ政策、研究者のモビリティ政策、国境を越える教育(プログラム及び教育提供者の流動性) 【質問例】貴国には高等教育の国際化の推進を担う専門機関があるか? |
2. 質保証と学位・資格の承認 | 留学生の質保証と選抜、教育プログラムの質保証、外国の学位・資格の承認 【質問例】貴国の質保証機関は、自国内で行われている外国機関による教育に対して、定期的に評価、認定を実施しているか? |
3. アクセスと持続可能性 | 学生モビリティのための財政支援、研究者モビリティのための財政支援、持続可能性に関する政策 【質問例】貴国には海外留学のための奨学金プログラムがあるか。ある場合は公表され、高等教育のすべての段階の学生が対象となっているか? |
■ 調査結果
3領域の充足度を合計した総合評価では、オランダの評価が最も高く、ドイツ、アイルランド、オーストラリア、ポーランド、フランス、英国と続いた。「質保証と学位・資格の承認」の領域では、総合評価が高かったドイツ、アイルランド、オーストラリア、ポーランド、英国に加えてブルガリアが高い評価を得た。調査を通じて得られた所見は以下のとおり。
- 国際化戦略: 調査対象の欧州11か国中、半数以上の国が2015年以降に国際化戦略を発表している。また、半数以上の国が留学生受入数の目標値と達成期日を設定している(例: ロシア(2025年までに71万人)、英国(2030年までに60万人)、フランス(2027年までに50万人)) 。ただし、戦略のアプロ―チは国によって多様である。授業料に着目すると、英国のように授業料をある程度大学が自由に設定でき、比較的高額な国では、教育の輸出を重視し、自国の教育を受ける人を世界的に増やそうとする傾向がみられる。一方、オランダやドイツのように授業料が比較的低廉な国では、留学生を自国内に受け入れて国内での就職を推進したり、学生の受入れと送り出しのバランスを重視するなど、総合的なアプローチを図っている。
- 国際的な学生のモビリティ: 留学生の規模(国内の学生に占める留学生の割合)が小さいほど、留学生の質保証枠組み(留学生選抜、留学生関係の実施規範・ガイドラインなど)の充実度が低いことが明らかとなった。これにはギリシャ、イタリア、インド、スペインが当てはまる。
- 国際的な研究活動: 国際的な研究活動に対する欧州各国の政策の充実度は高い。欧州全体の研究助成プログラムであるHorizon 2020が実施されている一方、各国でも国際的な研究活動に対する助成が行われている。
- 国境を越える教育:欧州レベルの取組(欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)、欧州単位互換制度(ECTS)など)が各国の政策を後押ししていることが関係し、国境を越える教育に関する政策は、全体的に充実度が高い。特に、国境を越える教育の経験豊かな英国、ドイツ、オランダだけでなく、ブルガリア、アイルランド、ポーランドの充実度が際立った。また、国境を越える教育に対する規制(認可、認定など)の仕組みが欧州の多くの国で導入されており、この点は欧州の強みの一つといえる。
原典:British Council(英語)