2024年11月27日、ブリティッシュ・カウンシルは、英国高等教育質保証機構(QAA)の協力のもと作成した「国境を越えた教育(TNE)に関する枠組(A Global Framework for Transnational Education Engagement)」と題する報告書を公表した。
本報告書は、2023年にブリティッシュ・カウンシルが策定した「TNE(Transnational Education)の戦略」※1を下支えするために、英国の高等教育機関が提供するTNEの分析を通じて作成された。
Ⅰ.英国のTNEの現状
○英国のTNEとは
ブリティッシュ・カウンシルの「TNEの戦略」では、英国のTNEとは、「英国以外の国で提供される、英国の第三段階教育の教育/資格(学位、ディプロマ、サーティフィケート等)」を指し、高等教育及びTVET※2の資格、短期の学習経験による学習成果を示すマイクロクレデンシャルやサーティフィケートを含む。
○英国の実施するTNEの現状
同戦略によると、2021-2022年度において、英国の高等教育機関によるTNEは228の国・地域・海外領土で実施され、学生数は510,835人である。教育形態は、TNEの受入国の教育機関で英国高等教育機関の協力を得て実施されるプログラム、遠隔教育、英国の教育機関の海外キャンパスでの教育実施などがある。英国のTNEの参加学生は、主に学士課程に所属しており、全体の63.8%を占める。英国のTNEの最大の受入地域はアジアで、全地域の内、49.5%を占めている。
Ⅱ.TNEに関する枠組と情報源
今回の報告書では、地域の実情に基づく情報とデータを踏まえてTNEのもたらす影響を体系的に検討するための枠組を整理、提供するとともに、同枠組に照らして、TNEの可能性や課題を検討している。下記の図が、ブリティッシュ・カウンシルの提示する枠組である。

この枠組は、以下の2つのカテゴリーの情報からなる。
①量的データ(二次データ)
②地域の政策立案者及び規制当局から得られた一次データ(教育所管省庁、質保証機関等、規制当局等の国家レベルの関係者が集うTNEフォーラム、上記関係者に対して実施されるオンラインアンケート、TNEの重要性及びTNEの枠組がどのように支えとなるかを最も理解している国の関係者に対する半構造化面接※3等)
Ⅲ.枠組に基づくTNEの現状の分析
報告書では、枠組に基づく分析として、社会経済状況とTNEの関係を取り上げるとともに、TNEの可能性や課題についても述べている。以下、報告書に基づき紹介する。
(1)社会経済状況とTNEの関連
〇 マクロ経済とTNEの関連
TNEが最初に著しい拡大を見せたのは、1997年のアジア通貨危機の時期であった。アジアの国々の通貨が下落し、海外への留学が難しくなる中、出身国にいながら英国の教育を受けられるTNEへの需要が高まった。
〇 高等教育進学率とTNEの関連
高等教育進学率が40%に近づく国では特に高等教育の需要があり、受入国の政策的協力を得てTNEが高等教育への多様なアクセスを拓くことができる。例えば、インドでは、2020年に発表された国の政策目標として、2035年までに高等教育への進学率を50%にすることが掲げられているが、この政策目標発表直後の2022年に、インド国内と海外の高等教育機関が共同学位を設ける際の規制緩和が公表された。
(2)TNEの可能性:高等教育へのアクセスの拡大と教育の質の向上
〇TNEによる海外の高等教育へのアクセスの拡大
TNEには、受入地域の学生の海外の高等教育への進学機会を拓く役割も期待される。例えば経済的に困窮した層、女性、また少数民族などが海外の高等教育を受ける機会となる。また、社会人学生や障がいを持つ学生、難民等の多様なニーズに応えるものとなっている。
〇TNEと教育の質の向上
TNE提供機関と受入大学のパートナーシップを通じて、受入大学の教育の質が改善していくことも期待される。高等教育機関間の国際連携は、教職員の能力開発や高等教育機関を国際的な水準に高める役割も期待される。
(3)TNEの質、質保証
TNEの普及には質保証も重要である。受入国、提供国の間で、(TNEの基礎となる)高等教育の国際化に関する合意文書等があること、受入国の質保証機関が国際的な質保証機関のネットワークのメンバーであること、TNEによるプログラムで学んだ学生や卒業生の学習成果のモニタリングがなされることが重要である。
(4)TNEの課題
〇TNEの評判
TNEによって得られる学位の受入国内での評判が課題の一つとなっている。TNEが普及していない地域では、雇用者、保護者、学生から、学習ルートとしてのTNEが認知されていない。TNEの地位や価値が受入国の高等教育及び海外留学に比べ、劣っていると認識されている。
〇オンライン学習
オンライン学習のみによる教育がしばしば受入国で承認されないことがあるのも課題である。
Ⅳ.受入国に関するケーススタディ
本報告書では、TNEの枠組を基に分析した事例として、スリランカ、パキスタン、ベトナム、ドバイ、タイでのTNEの現状が紹介されている。主に、受入国での高等教育に対するニーズに対し、TNEが学習者の受け皿となっている例が掲載されている。以下、スリランカとベトナムの例を紹介する。
スリランカでは、2022年時点で、後期中等教育を同年に卒業し、大学入学資格を得た者は約17万人いるのに対して、実際に大学に進学できたのはその25%にあたる43,568人である。このような状況であってもスリランカの国立大学の定員が直近で大幅に増加する見通しはなく、私立大学が急速に増加している状況にある。スリランカ政府はTNEを学生の需要を受け止めるものとしてこれを推進し、能力の高い人材を養成しようとしている。こうした状況下で英国はスリランカでのTNEを拡大しており、英国TNEがスリランカの高等教育機関の11%を占めている。
ベトナムでは1990年代から英国のTNEが進出、拡大してきている。ただし、同国では、経済学、ビジネス、ITといった規模を拡大しやすい分野にTNEが偏りがちであり、その結果、これらの分野での人材の供給過多が懸念され、卒業生が就職しづらくなる可能性があるといった課題も指摘されている。
Ⅴ.枠組の今後の展望
今後については、TNEの優良事例や教訓を共有するため、年1回のフォーラム(QAA国際パートナーフォーラム)※4を開催するとしている。また、TNEのデータ収集の重要性に関する国際的なコンセンサスの形成が本枠組を活用する上で求められると指摘されている。
原典①:QAA(英語)
原典②:QAA(英語)
原典③:ブリティッシュ・カウンシル(英語)
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