英国大学協会国際部によると、2019年度、日本を含む世界225か国・地域※1で、45万人の学生がイギリスの大学の学位取得を目指して学んだ。そうしたなか、イギリスの大学が海外協定校、オンライン教育、ブランチキャンパス等を通じて国外で提供する教育(トランスナショナル教育)を対象とした評価が2021年9月から5年計画で始まる。
■トランスナショナル教育(TNE)
イギリスでは「(政府等に)承認されたイギリスの学位授与機関が、当該機関が所在する場所とは異なる国において、もしくは異なる場所に所在する学生に向けて、高等教育レベルの学位・称号の授与につながる教育を提供すること」を「トランスナショナル教育(TNE)」という※2。
TNEの形態は多様であり、ブランチキャンパス、協定校、ジョイント・ディグリー、デュアル・ディグリー、遠隔教育などが含まれる。
■イギリスのトランスナショナル教育の現状 – 半数以上がアジアの学生
2021年11月に刊行された英国大学協会国際部(Universities UK International:UUKi)の報告書「The scale of UK higher education transnational education 2019-20」によると、2019年度のイギリスのTNEの状況は以下の通りである。
- ●世界225か国・地域で453,390名の学生がTNEプログラムを受講。
- ●156のイギリスの学位授与機関がTNEを提供。
- ●地域別にみると、アジアで学ぶ学生が全体の半数以上(50.3%)を占め、EU(16.5%)、中東(13.1%)、アフリカ(10.7%)、北アメリカ(5.1%)、EU圏外の欧州(3.2%)、オーストララシア※3(0.6%)、南アメリカ(0.6%)と続く。
- ●国別で学生数をみると、第1位が中国(49,800名、11.0%)で、マレーシア (49,375名、10.9%)、 スリランカ (30,825名、6.8%)、 シンガポール (27,885名、6.2%) 、香港 (22,400名、5.0%)と続く。上位5か国・地域の学生数の合計は、全体の39.9%を占める。
なお、UUKiのデータによると、日本で学ぶ学生数は1,155名で全体の約0.25%である。このうち、遠隔教育・オンライン教育を通じて学習している学生数は1,075名で約93%を占めている。
■トランスナショナル教育の評価(QE-TNE)の概要
Quality Evaluation and Enhancement of UK Transnational Higher Education (QE-TNE )は、イギリスのTNEについて、英国高等教育質保証機構(QAA)が学術的な質と基準を保証し、さらなる改善を促すための評価プロセスである。その主な目的は、受入国の政府、関係団体、学生に対しイギリスの高等教育の質を保証し、相互理解や信頼を高める機会を提供することである。
イギリスの学位授与機関はQE-TNEに任意で参加するが、2021~2025年度にかけては78大学が参加を表明しており(2021年12月2日現在)、イギリスのTNEを履修する学生人口の70%以上に及ぶことになる。参加大学のリストはこちら。
実施体制
QAAは英国大学協会(UUK)と高等教育カレッジ連合(GuildHE)から委託され、TNEの評価を行っている。イギリスでは地域ごとに独自の質保証制度を有しているが、QE-TNEはイギリスの全地域で共通の評価制度であり、各地域の質保証制度を補足する役割を有している。
なお、QAAは以前イギリス各地域の資金配分機関(HEFCE等)から委託されてTNEの評価を行っていたが2018年に当該契約が終了したため、今回は委託元が変更となり、新たな体制・方法での実施となったものである(詳細は本サイト2019/12/16掲載記事)。
評価対象国の選定方針
QAAは、TNEが提供されている国ごとに評価を実施し、原則毎年3か国のレビューを行うことになっている。このうち1か国はTNEの学生数上位10か国の中から選ばれ、残り2か国はTNEの発展状況など、諸般の事情を勘案して決定される。
評価プロセス
①評価対象国の選定とスケジュール作成
②対象国(政府/省庁、規制機関、質保証機関)との意見交換
③イギリスでの準備と計画
④評価活動
⑤報告書・評価活動成果の公表
④評価活動は通常9月に開始され、⑤報告書公表まで34週間(約8か月)かかる予定。対象国はレビューの18か月前(2年前の春)に決定することになっている。
④評価活動の手順
はじめに、評価対象国におけるイギリスのTNEの規模を把握するため、当該国でTNEを提供するすべてのイギリスの学位授与機関を対象にオンライン調査が行われる。この調査の結果等を基に代表的な高等教育機関がレビューのサンプルとして選出され、書面調査・訪問調査を受けることとなる。遠隔地の場合は訪問調査の代わりにウェブ会議が実施されることもある。なお、これらに加え、特定のテーマに関するケーススタディも同時並行で実施される。
評価対象国
今後2年間の評価対象国はすでに確定している。
2021年度:エジプト、ドイツ、UAE
2022年度:中国、サウジアラビア、スリランカ
※1 イギリスでの国・地域の数え方に基づく。参考:GOV.UK(英語)
※2 QAAの定義より。QE-TNEにおける高等教育レベルの学位・称号とは、イングランド・ウェールズ・北アイルランド高等教育資格枠組み(FHEQ)のレベル4~8の資格及びスコットランド高等教育資格枠組み(FQHEIS)のレベル7~12の資格を指す。イギリスの資格枠組みの詳細はこちら。
※3 オーストララシア(Australasia)とはオセアニアのうち、オーストラリア大陸、タスマニア、ニュージーランド、ニューギニア及び周辺の島嶼地域を指す。
原典①:Universities UK International(英語)
原典②:Universities UK International(英語)
原典③:QAA(英語)
原典④:QAA(英語)
原典⑤:QAA(英語)