原典:ブリティッシュ・カウンシル(英語)
2015年6月、DAAD(ドイツ学術交流会)とブリティッシュカウンシルは国境を越えた教育(TNE:transnational education)に関する共同研究の報告書「TRANSNATIONAL EDUCATION DATA COLLECTION SYSTEMS: AWARENESS, ANALYSIS, ACTION」を公開した。本研究は、TNEに関するデータ収集の現状や優良事例を紹介し、データ収集についてどのように改善することができるか提唱していくことを目的としたものである。
今回の研究においては、TNEを「共同プログラム(Collaborative TNE provision)」と「独立したプログラム(Independent (foreign) provision)」に大別して定義付けをしている。「共同プログラム」とはツイニングプログラム(受入国が場所や制度上の支援を提供し、外国のプログラム提供者を支援する制度)、複数学位(ジョイントディグリーやダブルディグリー)、共同で設立・実施するプログラム、受入国のサポートを有する遠隔教育である。一方、「独立したプログラム」とは、ブランチキャンパス、フランチャイズ、遠隔教育、海外の私立高等教育となっている。
研究の成果として、TNEに関わるデータ収集体制に課題があることや、高等教育の多様性・複雑さにより、調査対象国・地域のいずれにおいても、データの情報収集の困難性が高いことが明らかになった。一方、データ収集体系の改善点や構築に向けた調査の可能性が出てきたこと、データ収集体制における困難な点や改善点(enabler)が明確になったことが挙げられている。
- 研究の目的
・TNEに関する情報やデータが不足している現状を喚起する
・TNEのデータ収集状況が異なる対象国(派遣国3か国と受入国10か国)の概要を示す
・TNEが活発な国の取組みを奨励すること、及び、TNEのデータ収集に対する体系的な取組みを採用する
- 報告書の内容
研究の概要、国別のTNEのデータ収集制度の比較・分析、TNEに関する共通の枠組みとTNEの定義、データ収集の難点や提言など、60ページで構成されている。
- 研究の対象国・地域
TNEの提供国(sending countries)として、英国、オーストラリア、ドイツの3か国、また受入国(host countries)としては、マレーシア、香港、ベトナム、ボツワナ、エジプト、モーリシャス、メキシコ、ヨルダン、アラブ首長国連邦、トルコの10の国・地域が選定された。※1
※1受入国として選定された10か国・地域は、2014年のブリティシュ・カウンシルとDAADの調査研究「Impacts of transnational education on host countries」での調査対象と同様の国・地域である。
- 研究手法
今回の研究では、各受入国に関して広範な基本的事項に関する調査を行った他、受入国及び、派遣国における重要な人物にインタビューをすることによって調査を行った。
- 改善点や示唆
・TNEのデータ収集には、一貫した戦略的なアプローチが重要である。
・国内のプログラムと関連しているTNEの活動には確立したTNEデータ収集が重要である。
・オンラインによるデータ収集はよく機能しており、受入国にとっては、優良事例となりうる。
○TNEデータ(一部抜粋)
報告書では、TNEプログラムの特徴をもとに分類し、データを公表している。分類は大まかに独立したプログラムと共同プログラムに分かれている。独立したプログラム(a)とは、教育を提供する外国の高等教育機関が独立して運営を行うものである。一方、共同プログラムは、現地の私立教育機関と提携する場合(b)と、現地の公立校と提携している場合(c)に分けている。
表1:TNEプログラムを行っている機関の数
(a) | (b) | (c) | (a),(b),(c)の合計 | |
TNE専用のデータ収集制度を持つ国・地域(A) | ||||
香港 |
0
|
114
|
9
|
123
|
ベトナム |
0
|
18
|
58
|
76
|
ドバイ |
23
|
0
|
0
|
23
|
高等教育の一部としてTNEデータを収集する制度を持つ国(B) | ||||
ボツワナ |
0
|
9
|
3
|
12
|
モーリシャス |
3
|
52
|
0
|
55
|
マレーシア |
8
|
86
|
0
|
94
|
表2:機関によって提供されているTNEプログラムの数
(a) | (b) | (c) | (a),(b),(c)の合計 | |
(A) | ||||
香港 |
0
|
467
|
721
|
1,188
|
ベトナム |
0
|
42
|
203
|
245
|
ドバイ |
233
|
0
|
0
|
233
|
(B) | ||||
ボツワナ |
0
|
120
|
21
|
141
|
モーリシャス |
17
|
308
|
0
|
325
|
マレーシア |
326
|
638
|
0
|
964
|
参考:他のTNEに関する取組み
TNEに関する調査研究は、他にも複数行われている。例えば、ドイツのベルテルスマン財団の調査(本サイト2013年9月13日投稿記事)では、調査対象を欧州に限定しているが、本報告書と同様にTNEに関する調査文献が少ないことを挙げている。英国ビジネス・イノベーション・技能省の調査(本サイト2015年1月19日投稿記事)は、学位授与権をもつ63の英国の高等教育機関に対して実態調査を行った。調査における分析結果として、TNEの情報収集強化について、大学等機関への負荷を最小化するための最も効率的・効果的な方法が考慮されるべきとしている。さらに、欧州高等教育質保証協会(ENQA)では、TNEに関するプロジェクトであるQACHE (NIAD共同教育プログラムのための質保証ウェブサイト)を行っており、TNEにおける統一的な質保証へのアプローチを模索している。本研究においては、TNEの情報収集という側面で、共通の枠組みを導入することを提案している。
なお、TNEはCBHE(cross-border higher education)と呼ばれることもある。