欧州:欧州高等教育質保証協会(ENQA)が質保証におけるステークホルダーの参画をテーマとした分析報告書を公開

欧州高等教育質保証協会(ENQA)は2025年12月、公式ウェブサイトにおいて、質保証機関のガバナンス及び業務におけるステークホルダー※1の参画をテーマとした分析報告書※2質保証におけるステークホルダーの参画』を公表した。本報告書は、欧州高等教育圏(EHEA)※3参加国に所在する質保証機関が、そのガバナンス及び業務にステークホルダーをどのように参画させているかを明らかにすることを目的としている。また、「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG 2015)(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)」に基づき実施されたENQA外部レビュー(ENQA Agency Review)※4の報告書を分析対象としており、ステークホルダーの参画に関する具体的な取組や方法論に加え、外部レビューにおいて優れた取組として評価された事例や、指摘された課題についても整理している。

※1ステークホルダーの定義については、後述を参照。
※2 ENQAは外部質保証における動向や課題をよりよく理解し、またレビュー手法の向上を目的に、ENQA外部レビューの報告書の分析を行い、その結果を公表している。
※3 欧州高等教育圏(EHEA)とは、ボローニャ・プロセスの下で、2010年の欧州高等教育大臣会合において形成された、欧州における高等教育に関する政策的な枠組みである。これは1999年のボローニャ宣言においてその構築に向けた合意がなされたことに端を発する。各国の高等教育制度をより比較可能かつ互換性のあるものとし、国境を越えた学生・教員の移動や学位の相互承認、また高等教育の質の向上を推進することを目的としている。2025年現在、49か国が参加している。(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)
※4 ENQAの会員である質保証機関は、5年以内に一度、ESGの第2部(外部質保証に関する基準とガイドライン)及び第3部(質保証機関に関する基準とガイドライン)に基づき、ENQAによる外部レビューを受審することが求められている。レビューに合格した質保証機関は所定の審査を経て、ENQA会員資格の更新や欧州高等教育機関登録簿(EQAR)への新規登録/登録延長が認められ、自国の高等教育機関に加えて欧州圏を中心に幅広い国・地域の大学に対し、ESGに基づく大学評価を実施することができる。

欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)におけるステークホルダー

ESGにおいては、「ステークホルダーとは、特記が無い限り、学生及び教職員を含む高等教育機関のあらゆる関係者及び雇用主や高等教育機関の外部パートナーなどの外部ステークホルダーを総称するもの」と定義されている。
また、ステークホルダーに関して2.2及び3.1において次の記述がある。(ESG2015年版の機構による翻訳

第2部(外部質保証に関する基準とガイドライン) 2.2 目的に沿った方法論の設計
基準:外部質保証は、そのねらいや目的を達成するため、関係規定に考慮しながら、具体的に定義及び設計すべきである。制度の設計と継続的改善にあたっては、ステークホルダーの参画を得るべきである。
ガイドライン(抜粋):外部質保証は、有効性と客観性を確保するため、ステークホルダーの合意を得た明確なねらいを有していることが不可欠である。

第3部(質保証機関に関する基準とガイドライン) 3.1 質保証の活動、方針及びプロセス
基準:質保証機関は、ESG第2部で定義された外部質保証活動を定期的に行う。質保証機関は一般に公開するミッション・ステートメントに、明確かつ明示的な目的と目標を掲げるべきである。これらは、質保証機関の日常業務に反映されるべきである。質保証機関はステークホルダーをガバナンスや業務に参画させるべきである。
ガイドライン(抜粋):外部質保証を有意義なものにするためには、高等教育機関や社会が質保証機関を信頼することが重要である。それゆえ質保証活動の目的と目標は、質保証機関と高等教育に関わるステークホルダー(特に高等教育機関)との関係性や、質保証機関の業務範囲とともに明示し公表されるまた、質保証機関の委員会に国際的な構成員を含めることで、質保証機関の専門性を高めることができる。

なお、本報告書は上記の「2.2 目的に沿った方法論の設計」及び「3.1 質保証の活動、方針及びプロセス」に記載されている、外部質保証の仕組みの設計及び質保証機関におけるガバナンス体制や業務におけるステークホルダーの参画に焦点を当てた分析を行っている。「ESG基準2.4 ピア・レビューの専門家」においては、「1名又は複数の学生を含む外部専門家グループが外部質保証を実施すべきである」とされている。ピア・レビューは質保証機関ではなく外部の専門家が独立した立場で評価を行うものであり、その役割は「外部質保証の仕組みの設計や質保証機関のガバナンスといった業務」への参画には当たらないため、本報告書における分析の対象外となっている。ピア・レビューの専門家も含めた外部質保証へのステークホルダーの参画については、2020年にENQAが欧州学生連合(ESU)及び欧州高等教育機関協会(EURASHE)と共に、「外部質保証活動におけるステークホルダーの参画に関する研究」を公表している。 

『質保証におけるステークホルダーの参画』の分析報告書要旨

本報告書は、EHEAにおける質保証機関のガバナンス及び業務へのステークホルダー参画に関する多様なアプローチを明らかにし、あわせて優れた取組や継続的な課題を把握することを目的としている。また、ENQAが2020年から2024年に実施した27か国50の質保証機関に対するENQA外部レビューの報告書を対象として、次の3点に焦点を当てた分析を行っている。

1. 質保証機関のガバナンス及び業務に参画する主なステークホルダーのカテゴリー
2. ステークホルダー参画に関して質保証機関が採用しているアプローチ
3. ESGの要件に照らした場合の優れた取組ならびに改善の余地が認められる点

なお、報告書では次のような補足がなされている。

ESGの基準においては、全てのステークホルダーの参画が一律に義務付けられているわけではなく、また、ステークホルダーがどのような条件下で参画するべきかについての具体的なガイドラインも示されていない。そのため、外部レビューパネルにおいても、基準要件の解釈が必ずしも一貫しているわけではない。今回の分析は、ESG基準の正しい解釈を定義することを目的とするものではなく、むしろ、各質保証機関がこれらの要件をどのように実践しているか、また、外部レビューパネルがそれらの取組をどのように評価しているかについて、エビデンスを提示することを目的にしている。さらに、類似した状況にありながら異なる評価を受けた事例を取り上げることで、評価における潜在的な整合性の問題を特定することを意図している。

以下は、報告書に記載されている分析結果の概要である。

1. 質保証機関のガバナンス及び業務に参画する主なステークホルダーのカテゴリー

報告書では、分析で確認できたステークホルダーのカテゴリーについて次の通り整理している。

高等教育機関の代表者
高等教育機関の代表者は、分析対象のほぼ全ての質保証機関に参画しており、ステークホルダーのカテゴリーの中で最も多く見られる。一部においては、質保証機関に参画する唯一のステークホルダーのカテゴリーとなっている場合もある。高等教育機関は、設置者、規模、方向性、分野等において多様であり、必ずしも均質な集団ではない。このような多様性は国や制度によっても異なるため、どのような構成が「(高等教育機関の多様性を反映した)代表性のあるサンプル」と見なされるかは、それぞれの文脈によって異なり得る。そのため、質保証機関のガバナンス組織 (governing body)※5 に参画する構成員について、高等教育機関の多様性が十分に反映されていないとして、外部レビューパネルが指摘した事例も見られる。

※5 本報告書では、「ガバナンス組織」の用語を、質保証機関の方向性及びリーダーシップに責任を負う組織、外部質保証の結果に関する意思決定を担う組織、ならびにこれら両方の役割を担う組織を包括する概念として用いている。これらの役割を区別する必要がある場合は、「監督組織(supervisory body)」及び「意思決定組織(decision-making body)」の用語を用いている。監督組織は通常、戦略的方向性の策定、業務計画及び予算の承認、質保証機関の活動全般の監督を担う。一方、意思決定組織は、外部質保証の結果に責任を負い、とりわけ認証評価やその他の手続に関する最終決定を行う役割を担う。

学生
学生は、質保証機関の活動及びガバナンスに参画するステークホルダーの中で、次に多く見られるグループである。高等教育の主要な受益者である学生が参画することは、質保証の発展に学生の視点を取り入れるうえで重要な役割を果たす。

質保証機関内のさまざまな組織や活動における学生参画の機会は拡大してきているものの、外部レビューパネルは、依然として学生が参画していない領域が存在することを指摘している。例えば、質保証機関の監督組織には学生が参画していない場合があり、その背景として、学生の参画を認めない法的制約が存在することもある。また、質保証機関の監督組織が担う責任の性質上、学生が有意義な意見や貢献を行うことが可能かどうかについて疑問が呈されている事例もある。加えて、学生という立場での在籍期間が比較的短いことも、参画を制限する理由としてあげられている。 

学生団体は、外部質保証への学生参画における主要な窓口として機能し、学生の推薦、質保証基準及び方法論に対する意見提供等の役割を果たすことが多い。その一方で、EHEA参加国に所在する国内学生団体の発展段階にはばらつきがあることも指摘されている。

専門家、雇用主、その他の労働市場関係者
分析対象とした質保証機関の多くでは、専門家、雇用主、その他の労働市場関係者が、質保証機関の活動及びガバナンスに参画している。通常、これらのカテゴリーは、質保証機関のガバナンス組織に加え、技術委員会(technical committee)※6や諮問委員会(Advisory committee)にも参画している一方で、評価結果等に対する不服申立てを扱う機関における参画は比較的限定的である。

分析対象となった多くの質保証機関では、専門家、雇用主、その他の労働市場関係者を単一のカテゴリーとして位置づけており、特定の専門分野や経歴を意識的に求める傾向は必ずしも強くない。

※6 本報告書では、「技術委員会」という用語を、評価基準及び方法論の策定・改訂、専門家の選定、評価結果等への不服申立てへの対応、フォローアップ等を担う委員会を指すものとして用いている。

公的機関の代表者
公的機関の代表者は、分析対象とした質保証機関の3分の1以上の機関において参画しており、高等教育を所管する教育省、もしくはこれに相当する機関の代表が多くを占めている。
公的機関の代表者は質保証機関の監督組織に参画する場合が多いが、外部質保証の結果を決定する意思決定組織にも参画している事例が一部見られる。また、高等教育を所管する行政当局の代表者をガバナンス組織の構成員に含めつつ、議決権を付与していない事例がある一方で、法令に基づき、公的機関の代表者が監督組織の議長を務め、質保証機関の代表者としての役割を担っている事例も見られる。このような体制については、政府が質保証機関のガバナンスにおいて支配的な立場を占める可能性があるとして、外部レビューパネルが当該機関の独立性に懸念を示した事例もある。

国際的な専門家※7
分析対象とした質保証機関の約3分の1では、国際的な専門家が参画している。国際的な専門家の参画形態や範囲は多様であり、一部の質保証機関では主要なガバナンス組織の構成員となっている一方で、外部質保証の結果を決定する特定の機関に参画している場合や、諮問機関のみに参画している場合もある。

入手可能な情報に基づけば、これらの国際的な代表者は、主として大学教員や質保証分野の専門家であり、質保証機関の活動に対して他国の視点を提供する役割を果たしている。

国際的な専門家を参画させることは、EHEA内の他の国・地域の制度に関する多様な視点や比較的な知見を取り入れることを通じて、議論の質や幅を高める可能性がある。一方で、国際的な専門家の参画に関するアプローチは質保証機関によって異なり、一部の質保証機関では、法的又は財政的な制約を理由に、国際専門家を参画させていない。

※7 国際的な専門家は、質保証機関の業務に直接的な利害関係を有する特定の構成員集団を代表するステークホルダーであるとは必ずしも言えない。しかしながら、外部レビューパネルの多くが、ステークホルダー参画の文脈においてその参画を取り扱っていることから、本分析ではステークホルダーの一カテゴリーとして扱うとしている。

2. ステークホルダー参画に関して質保証機関が採用しているアプローチ

質保証機関のガバナンスへの参画
ステークホルダーを質保証機関のガバナンスに参画させる最も一般的な方法は、ガバナンス組織に構成員として含めることである。この方法により、質保証機関の上層部が多様なステークホルダーの視点を考慮することが可能となり、それらの視点が機関の戦略の策定や活動に反映される。また、質保証機関の説明責任を強化し、当該機関が行う質保証がステークホルダーのニーズや期待に沿ったものとなることを確保する役割も果たす。

このような構成員としての参画には、組織の戦略的方向性の設定、予算の承認、質保証機関の活動全般に対する監督・モニタリングを担う監督組織への参画が含まれる場合がある。一方で、外部質保証の結果に関する判断を行う機関への参画を指す場合もある。

質保証機関の業務への参画
ガバナンスへのステークホルダーの参画が制度化されていることが一般的であるのに対し、質保証機関の業務への参画については、その形式化の程度がさまざまである。その中でも、比較的構造化された参画形態としては、ステークホルダーが技術委員会や諮問委員会の構成員として参画し、外部質保証(評価)の基準や方法の策定・改訂、専門家の選定、評価報告書の確認、評価結果等への不服申立てへの対応、フォローアップなどに参画する形があげられる。

また、定期的な会合を通じたステークホルダーとの協議のほか、セミナーやワークショップ等のイベントの開催、アンケートの実施等を通じて意見を収集している事例が見られる。

ステークホルダーの代表の選出と任命方法
多くの質保証機関では、ステークホルダーの代表組織に候補者の推薦を依頼している。場合によっては、高等教育機関などのステークホルダーに直接候補者の推薦を依頼することもあり、また、一部の質保証機関では公募を行っている。推薦された候補者については、評価委員会等による審査が行われる場合があり、その過程に国際的な専門家が関与することもある。

質保証機関の主たるガバナンス組織については、公的機関の場合、政府関係者が任命を行い、非公的機関の場合は、総会や設立主体が任命を行うのが一般的である。これに対し、ガバナンス組織以外の内部組織については、通常、主たるガバナンス組織が任命を行っている。また、公的機関の代表者がその職責に基づき、質保証機関のガバナンス組織に参画しているケースも見られる。

3. ESGの要件に照らした場合の優れた取組ならびに改善の余地が認められる点

ENQA外部レビュー報告書においては、外部レビューパネルにより「賞賛(commendations)」「勧告(recommendations)」「更なる改善に向けた提案(suggestions for further improvement)」が提示されており、その内容を元に分析が行われた。以下は、その分析結果の概要である。

外部レビューにおいて優れた取組(賞賛)と評価された事例
外部レビューパネルは、多様なステークホルダーを幅広い活動を通じて参画させている質保証機関の取組を高く評価するとともに、質保証機関とステークホルダーとの間に構築された連携関係や信頼関係を重要な成果として位置づけている。また、学生の実質的な参画を確保するために質保証機関が講じている取組についても評価している。例えば、英国高等教育質保証機構(QAA)では、外部質保証活動への学生参画に加え、学生のみで構成される「学生戦略アドバイザリー委員会」を設置し、QAAと学生コミュニティとの対話を促進することで、ガバナンス組織への参画にとどまらない多様な参画の機会を提供しているとパネルは述べている(本サイト2023/9/21投稿記事)。

●外部レビューにおいて改善を要する(勧告又は更なる改善に向けた提案)と指摘された事例
外部レビューパネルは、ステークホルダーの参画が実質的な影響を持つものとなるよう、ガバナンス及び業務における参画の在り方について、より制度的かつ体系的な整備が必要であると指摘している。また、外部質保証の方法論の設計・改善に参画するステークホルダーの範囲についても、さらなる拡充が求められており、多くの事例では、すでに一部のステークホルダーが参画していることを踏まえつつ、追加的な視点の導入や参画の深化を提案している。

ESG基準3.1では学生の参画が明示的に義務付けられているわけではないものの、外部レビューパネルは、多くの質保証機関に対し、学生が質保証機関のガバナンス及び業務に十分に参画していない点について改善を要する事項として指摘している。

ESGの改訂に向けて

本報告書では、外部レビューパネルによる評価に一定の不整合が見られる点が明らかにされており、今後の課題として位置づけられている。とりわけ、こうした不整合は学生参画の評価において顕著である。具体的には、学生が一部の組織に含まれていない状況について問題視しなかった外部レビューパネルがある一方、同様の状況をガバナンス構成上の欠落と捉え是正を求めたパネルも存在する。

このような評価の差異の背景には、現行のESG基準3.1が、ガバナンス及び業務におけるステークホルダー参画について、比較的高い柔軟性を認めており、その仕組みや範囲を質保証機関が状況に応じて定義し得る余地があること。また、基準2.4においても、特定のステークホルダーの参画を明示的に義務付けておらず、基準の解釈や適用において、外部レビューパネルの判断に差異が生じやすい構造となっていることがあげられる。

ENQAは、今後も外部レビューの一貫性確保に向けた取組を継続していくとしている。あわせて、今後予定されているESGの改訂(本サイト2026/2/9投稿記事)は、質保証機関のガバナンス及び業務におけるステークホルダー参画の要件について、さらなる明確化を検討する重要な機会となると位置づけている。とりわけ、ガバナンスや業務のどの側面において、どの程度の柔軟性が認められるのか、また、異なるステークホルダーのカテゴリーをどの場面に、どのように参画させることが望ましいのかを整理することは、EHEAにおける質保証機関の多様性を尊重しつつ、要件に関する共通理解を確保するうえで有益であるとの認識を示している。

原典:ENQA(英語)

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