英国QAAが欧州ENQAの外部レビューを受審―質保証への学生参画の取組で高評価

 英国高等教育質保証機構(QAA)※1は、2022年9月から2023年6月にかけて、欧州高等教育質保証協会(ENQA)による外部レビュー※2を受審し、適合(合格)の結果を得るとともに、QAAが行う活動への学生参画※3について高い評価を受けた。

 2023年7月末に公表されたレビュー報告書において、ENQAは、「QAAの活動では、高等教育の様々なステークホルダーとの効果的な対話が行われている。特に、学生をQAAの構成員として正式に位置づけていること、また、大学等の評価のプロセスに学生を参画させている点は模範となる」とQAAを評価した。さらに、国内の高等教育機関(会員機関)への専門知識の提供やコンサルティングのほか、外国の高等教育機関を対象としたレビューや質保証に関する研修・キャパシティビルディングの実施等、近年QAAが活動の幅を広げていることを踏まえ、「英国、欧州、さらには国際的な高等教育コミュニティーにおけるQAAの高い評判と確固たるポジションをあらためて確認できた」とした。

 なお、評価への学生参画の推進については、前回(2018年)受審時(本サイト2018/9/5投稿記事)の提言事項でもあり、今回、その対応状況が良好であることが確認された形となった。

※1 QAAの組織概要及びQAAが行う大学評価を含む英国の高等教育質保証制度の概略については、英国の高等教育・質保証システムの概要(第3版)」(NIAD-QE、2020年3月刊行)第3章(pp.28-42)を参照。
 なお、QAAの質保証業務については現在動きが生じている。この点に関しては、本記事末尾<参考2>を参照のこと。
※2 ENQAは、欧州高等教育圏(EHEA)各国の質保証機関が所属する協会組織(会員制)。ENQAの外部レビューは、質保証機関(大学評価機関)を対象とする評価(メタ評価)である。後段「■ENQA外部レビューとは」も参照。
※3 本記事は、外部質保証機関の活動における学生参画について扱っているが、内部質保証を含めた質保証活動への学生参画に関する英国の状況については、本記事末尾<参考1>を参照。

■ENQA外部レビューとは

 ENQAの会員である質保証機関は、5年以内に一度、「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG 2015)※4の第2部(外部質保証に関する基準とガイドライン)及び第3部(質保証機関に関する基準とガイドライン)に基づき、ENQAによる外部レビュー(ENQA Agency Review)を受審することが求められている※5。レビューに合格した機関は所定の審査を経て、ENQA会員資格の更新や欧州高等教育機関登録簿(EQAR)※6への新規登録/登録延長が認められ、欧州圏を中心に幅広い地域の大学に対し、ESGに基づく大学評価を実施することができる。
 QAAは2000年よりENQAの会員であり、今回を含めて計4回レビューを受審している。

※4 ESG 2015年改定版のNIAD-UE(当時)による日本語翻訳版(2016年1月)。欧州高等教育圏内における内部質保証(ESG第1部)、外部質保証(ESG第2部)並びに質保証機関(ESG第3部)に関する基準とその運用のためのガイドライン。高等教育機関及び質保証機関双方にとって共通の参照点となる。国・地域間の違いを認めた上で共通の質保証基準を設けるもので、各質保証機関の多様性を尊重し、策定されている。(NIAD-QE「高等教育に関する質保証関係用語集」オンライン版からの抜粋)
 ESGの原典(英語)は、ENQAウェブサイトからアクセスできる。
※5 新規にENQAの会員になろうとする場合も、ENQA外部レビューを受審し合格することが求められる。
※6 EQAR (European Quality Assurance Register for Higher Education)とは、ESGを遵守する欧州の質保証機関の登録を担当する組織であり、同組織が管理する質保証機関登録簿を指す。

 EQARに登録された質保証機関が高等教育機関に対して実施した外部質保証(評価)の情報(評価結果や報告書等)は、EQARが管理するDEQAR(Database of External Quality Assurance Results)というデータベースに集約されている。

■レビュー結果概要

 外部レビュー※7は、QAAによる自己評価書の提出、ENQAのレビューワーとQAA関係者※8との面談により行われた。関連するESGの項目(計14項目)のうち、12項目で「満たしている(Compliant)」、残りの2項目で「部分的に満たしている(Partially compliant)」と判定され(表1)、総合判定は「満たしている(合格)」であった※9
 「部分的に満たしている」となった項目は、「外部質保証の成果に関する基準(ESG 2.5)」及び「外部質保証活動の分析(ESG 3.4)」だった。

※7 今回のレビューの対象について:
 QAAは、国内外で様々な種類の外部質保証活動を行っているが、今回のレビューではそのすべてが対象となった訳ではなく、TNEレビュー(*1)や、レビュー実施時点で今後QAAが当該評価活動の実施主体としての役割を終えることが判明していた評価(*2)は対象外となった。
*1 TNEレビュー:英国のトランスナショナル教育(英国の学位授与機関が海外ブランチキャンパスや遠隔教育等を通して、英国外で提供する英国の高等教育)に対する評価。毎年1つの国(または地域)がレビューの対象として選定される。ESGは基本的に、高等教育の組織を対象に行う評価(機関別評価、プログラム別評価等)が適用範囲であり、TNEレビューのように国を対象とするものは範囲外である。
*2 これに該当するものとしては、イングランドの高等教育機関を対象に、学生局(Office for Students: OfS。イングランドの高等教育機関の規制・監督を担う独立公共機関)による高等教育機関登録制度の一環で実施される「質・基準レビュー」がある。本記事末尾の<参考2>も参照。


※8 QAA関係者とは、QAA執行部及び各部門のスタッフ、QAAのレビューワー、QAAの評価を受審した高等教育機関(外国の機関を含む)、学生(学生団体代表、QAAアドバイザリーコミッティー所属学生、学生レビューワー)、QAAが実施した評価に対し苦情/意見申立を行った高等教育機関、政府関係機関(高等教育担当省庁、資金配分機関)、外国の質保証関係機関、その他高等教育関係機関(Universities UK, GuildHE等)、各分野の職能団体や規制機関を指す。
※9 基準(ESGの項目)ごとの判定は「満たしている(Compliant)」、「部分的に満たしている(Partially compliant)」、「満たしていない(Non-compliant)」の3段階。

              表1:項目ごとの評価結果

ESG項目判定
質保証機関に関する基準(ESG第3部)
3.1 質保証の活動、方針及びプロセスCompliant
3.2.公的地位Compliant
3.3 独立性Compliant
3.4 外部質保証活動の分析Partially compliant
3.5 資源※10Compliant
3.6 内部質保証と専門性Compliant
3.7 質保証機関に対する周期的な外部の評価※11Compliant
外部質保証に関する基準(ESG第2部)
2.1 内部質保証の考慮Compliant
2.2 目的に沿った方法論の設計Compliant
2.3 実施プロセスCompliant
2.4 ピアレビューの専門家※12Compliant
2.5 外部質保証の成果に関する基準Partially compliant
2.6 報告Compliant
2.7 苦情と不服申立Compliant

※10 「資源」とは、人的資源及び財的資源(資金面)を指す。
※11 ここでの「外部評価」とは、ESGの遵守を確認するための外部評価を指す。
※12 外部質保証は、1名または複数の学生メンバーを含む外部専門家グループが行うこと、とある。

 また、優れた点として7点、提言(取組が期待される点)として7点、さらなる改善に向けた提案が5点示された。主な優れた点と提言は、以下のとおり。学生参画に関しては、事例を含めて紹介する。

◆優れた点

・QAAが行う様々な活動、また組織の様々なレベルにおいて、学生を参画させている。学生の経験や高等教育セクターにおける学生の利益を守る者としてQAAが役割を果たしている(関連する項目:ESG 3.1、2.4)

≪上記に関する取組事例≫
1.大学やカレッジ等の高等教育機関、規制機関、政府、各分野の職能団体・産業界に加えて、学生がQAAの質保証活動のパートナーであることをウェブサイト等において明確にしている
2.QAA理事会(Board)に全英学生ユニオン(National Union of Students)から推薦された学生を含めた数名の学生を参画させている
3.2022年9月以降、QAAが行うすべてのレビュー活動において、学生を評価チームの一員として参画させている。QAAの評価者として登録されている約270名のレビューワーのうち、約50名が学生
4.学生で構成される「学生戦略アドバイザリー委員会(Student Strategic Advisory Committee)」を設置し、QAAの執行部と学生が年3回、意見交換を行っている
5.学生を含めたステークホルダーとの様々な活動を定期的に実施し、そこから得られた意見等を自身の質保証活動に活用している

・高等教育質保証のステークホルダーとのコミュニケーションを図りながら、質保証における新たな活動にも挑戦している。国内の大学等に対する評価を行う機関としてだけではなく、質保証情報やガイダンスに関しても中心となる機関として、また、海外の高等教育機関を対象とする評価機関として国際的にも知られている(ESG 3.4)

◆提言(取組が期待される点)

・QAAが実施するすべての外部質保証活動に関する分析についての明確な実施計画を立て、定期的に計画を実行することが望ましい(ESG 3.4)

・フィードバックに基づくより明確な自己改善計画を策定し、組織の内部質保証システムを強化することが期待される(ESG 3.6)

・評価実施後の高等教育機関による改善の取組のモニタリングについて、評価の種類や評価が行われる地域の違いに関係なく、実施スケジュール、頻度、仕組みの名称や手法を可能な限り定型化・標準化することが望まれる(ESG 2.3)

・評価結果の一貫性を確保するためのアプローチの見直しが期待される。例えば、評価報告書案の承認や評価結果の確定を行う独立委員会の設置の検討など(ESG 2.5)

・ENQA外部レビューでの指摘事項への対応をより迅速かつ効果的に行うことが求められる。例えば、前回のレビューでも指摘されたとおり、評価結果に関するウェブページの検索機能を充実させることが求められる(ESG 2.6、3.7)

・高等教育機関からの苦情や不服申立申請への対応プロセスの見直しが期待される(対応の可否を判断する際の基準を緩やかにするなど)(ESG 2.7)

■今後のスケジュール

 レビューの結果は、EQARへの継続登録審査及びENQA正会員資格継続審査の際に参照される(両審査ともに、結果は2023年度中に判明する予定)。

<参考1>英国における質保証活動への学生の参画について※13

 英国では、高等教育機関の内部質保証プロセスへの学生参画が、内部質保証活動の特長のひとつとなっている。学生は、入学者選抜からコース設計、教育・学習方法、学生支援、成績評価、卒業後までの幅広い場面で、その質の保証・向上のための中心的な役割を担うことが期待されており、QAAが策定するクオリティ・コード※14にその旨が明記されている。
 さらに、QAAは高等教育機関に対し、学生参画の実践に向けて、次のような具体的な助言をまとめている。

・学内の意思決定プロセスや質保証活動に学生をどのように参画させるかを戦略としてまとめ、高等教育機関と学生代表組織(学生団体)の間で学生参画に関する合意書を締結すること

・学生の実質的な参画を確保するため、意思決定組織に学生代表を他のメンバーと対等な立場で迎えるとともに、学生の意見を幅広く収集するための仕組みを適切に構築すること

・学内の様々なレベルの意思決定組織に学生代表を適切に配置するよう支援するとともに、学生代表者の役割について理解を深めるための学生向け研修を実施すること

 外部質保証においても学生の参画が特徴となっており、例えば、QAAによる機関別評価である「質・基準レビュー」※15において、受審機関に在籍する学生が学生意見書(student submission)を作成・提出し、高等教育機関による自己評価書と併せて書面調査の対象となるほか、訪問調査時にレビューチームとの面談に学生が参加する形で評価プロセスに関与している。

※13 「英国の高等教育・質保証システムの概要(第3版)」pp.34-35からのまとめ
※14 英国のすべての高等教育機関が遵守しなければならない教育の基準と質に関する原則。英国の高等教育機関の質を評価する際の基本的要件として用いられている。

 クオリティ・コードについては、「英国の高等教育・質保証システムの概要(第3版)」pp.29-30を参照。
※15 「質・基準レビュー」については、前述したとおり、今回のENQA外部レビューでは評価の対象外とされた。なお、QAAが行う質・基準レビュー以外の大学評価においても、レビューワーに学生を参画させるなど学生との協働が特徴となっている。

<参考2>QAAの質保証業務に関する最近の動き※16

 英国の4地方のうちイングランドにおいては、高等教育機関が政府からの教育・研究助成等の公的資金の交付、学生支援金の受給、学位授与権の取得申請、「大学(University)」名称使用権のうち一つでも希望する場合は、学生局(OfS)が管理する高等教育機関登録制度への登録が必須となる。

 2018年よりQAAは、OfSの委託を受けて、OfSによる高等教育機関登録要件審査の一部として、登録希望機関に対する機関別評価である「質・基準レビュー」を行っていたが、QAAの説明によれば、「OfSによる高等教育機関の規制業務(機関登録制度)の一環で行われる質・基準レビューのアプローチの一部がESGに準拠した外部質保証を重視するQAAの方針と一致しない」こと、また、「学生経験の質の向上に寄与するために、高等教育セクターの様々なステークホルダーと緊密に協働しながら独立して行う業務に今後はより一層注力していきたい」などとして、2023年3月31日をもって質・基準レビュー実施主体としての役割を終えた。2023年4月以降、同業務は、OfSに引き継がれた※17

 なお、今回のENQA外部レビュー報告書において、外部質保証機関の第三者からの独立性に関する基準(ESG 3.3)における優れた点として、QAAがOfSのもとで実施する大学評価活動から撤退した件に言及し、「欧州の外部質保証機関に期待される質の基準(ESG)の精神を遵守しこれを維持しようとする力を組織として有している」と評価する記述がみられる。

※16 ENQA外部レビュー報告書(ENQA、2023年6月)、QAAウェブサイトニュース記事、「英国の高等教育・質保証システムの概要(第3版)」第3章等からのまとめ
※17 OfSが引き継いだ後の本レビューの実施状況等は不明である(現在検討中であると考えられる)。

原典①:QAA(英語)
原典②:ENQA(英語)
原典③:ENQA(英語)
原典④:EQAR(英語)
原典⑤:QAA(英語)
原典⑥:OfS(英語)

(参考)高等教育質保証への学生参画に関する過去のQA UPDATES投稿記事等(英国関連を中心に)

1.「イギリスの質保証機関QAAが欧州ENQAレビューで高評価
 (本サイト2018/9/5投稿記事)
2.「QAAに対するENQAの外部レビュー結果の公表
 (本サイト2013/11/14投稿記事)
3.「機関別オーディット成果報告書(第3シリーズ「学生の質保証への参画」)発表
 (本サイト2012/12/17投稿記事)
4.「QAAによる質保証への学生参画についての調査開始
 (本サイト2012/12/6投稿記事)
5.平成25年度大学評価フォーラム「学生からのまなざし―高等教育質保証と学生の役割」
 (大学評価・学位授与機構主催 平成25年度大学評価フォーラム報告書等)

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