新型コロナウイルスの影響でイギリスの大学が財政危機:規制の見直しを図る

 2020年3月26日、イギリス・イングランドの高等教育機関の規制・監督を担う学生局(OfS:Office for Students)※1は、大学、カレッジ等※2に課すOfSへの報告義務を一部変更すると発表し、高等教育機関向けのガイダンス「Guidance for providers about reportable events during coronavirus (COVID-19) pandemic」を提示した。新型コロナウイルス対策を優先させるため、高等教育機関の定例的な報告義務の負担を軽減し、高等教育機関の財政的なリスク等に迅速に対応することを目的としている。

OfSへの報告義務について

 OfS規制枠組(The regulatory framework for higher education in England)の第494節では、高等教育機関がOfSへの報告を要する場合を以下のとおり定めている。

高等教育機関の法的な形態またはビジネスモデル、そして/またはOfSの登録要件を順守する意志または能力に著しく影響を与える、または与える可能性があるとOfSが判断する状況が生じた場合

報告義務の一時的な変更

 新型コロナウイルス感染拡大が続く間、OfSは高等教育機関の短期的な財政リスクの把握と学生の利益の保護に最大の焦点を当てて規制に取り組む。この方針に合わせ、OfSは新たに第494節の「OfSへの報告を要する場合」に含まれる状況を以下のとおり明示した。

1)財政に関する深刻な短期的リスクが起きた場合。

2)通常の授業と同等の代替措置(オンライン授業への振替等)をとることなく、コースを中止または一時休止した場合。これには計画通りに学位・資格の授与や単位の付与ができない場合を含む。

 一方で、キャンパスの新設、他機関との新規協定締結等、通常報告を要するいくつかの項目は、その義務を一時的に休止することとした。

財政に関する深刻な短期的リスクについて

・通常の財政リスクに関する報告義務

 高等教育機関は通常、財政の健全性と持続可能性に影響を与える重大な事態についてOfSに報告しなければならない。現在、新型コロナウイルスの影響で、多くの高等教育機関が財政状況や業務状況の深刻な変化に直面している一方、新型コロナウイルスの長期的な影響の予測が困難なことから、OfSは3年もしくは5年単位の財政リスクに関しては報告を不要とした。

・短期的リスクに該当する場合とは

 OfSは、高等教育機関が直近3か月の間に資産の流動性(liquidity)が平均的な1日の現金支出の30日分を下回る可能性が高いことを認識した場合、短期的な財政リスクとしてOfSに報告する必要があると定めている。報告があった場合、OfSは高等教育機関との間で協議を行い、追加の情報提出を求めることになる。

・新型コロナウイルスによる大学財政の危機

 イギリスの高等教育機関が直面している財政危機は、英国大学協会(Universities UK:UUK)の文書からその深刻さがうかがえる。4月10日、UUKが新型コロナウイルスによる深刻な財政危機から大学を守るための対策をまとめた政府への提案書「Achieving stability in the higher education sector following COVID-19」によると、今年度(2019-20年)、英国の高等教育では学生の寮費・食費等の逸失利益が約7億9000万ポンド(約1,050億円※3)に上り、オンライン教育提供のための追加支出も生じている。来年度(2020-21年)は留学生数の激減、イギリス国内学生の入学延期の増加といった深刻なリスクが見込まれている。仮に留学生からの授業料等の収益を100%失った場合、その額は69億ポンド(約9,177億円※4)に匹敵するという試算も示されている。

コースの中止等について

 コロナウイルス感染拡大の影響で多くの高等教育機関が教育の提供方法の変更を余儀なくされている。こうした現状をふまえ、高等教育機関が以下の対応を行った場合にはOfSに報告しなければならないと定めた。

  • 高等教育機関が在学生にコースの提供を中止または一時停止したが、その代替措置が適切に図られていない場合
  • 学位・資格の授与や単位の付与ができない場合
  • 2020年4月以降に入学する学生の合格通知を取り消した場合 など

※1 OfSは、高等教育・研究法に基づきイングランドの高等教育機関の規制・監督を行う。具体的には、公的資金交付、学生ローンの受給、海外留学生の受入れ、学位授与権・大学名称使用権の付与を希望する高等教育機関を対象とした、高等教育機関登録制度を管理している。この規制枠組の詳細は「英国の高等教育・質保証システムの概要(第3版)」(大学改革支援・学位授与機構、2020年、pp.31-33)を参照のこと。
※2  イギリスで高等教育を提供する機関は、一般に「高等教育プロバイダー」(Higher education provider)と 呼ばれ、高等教育機関(公的資金の交付対象となる高等教育提供機関。継続教育カレッジを除く。)、代替プロバイダー(公的資金の交付対象とならない高等教育機関。継続教育カレッジを除く。)、継続教育カレッジ(1992年継続・高等教育法により法人格を付与、または設立され、義務教育を終えた学生を対象に継続教育と高等教育を提供する機関)の3つに分類される。イングランドではいずれの機関種もOfSの登録制度に基づいて規制・監督されている。高等教育機関に分類される機関には、大学(university)、ユニバーシティー・カレッジ(university college)、王立教育機関(royal academy、royal college 等)、カレッジ(college)、スクール(school)等の名称が付されている。また代替教育プロバイダーに分類される機関には、カレッジ、スクールの名称が目立つが、大学、ユニバーシティー・カレッジの名称を冠する機関も少数存在する。本記事では、「代替教育プロバイダー」及び「継続教育カレッジ」を含む「高等教育プロバイダー」を便宜的に「高等教育機関」と表現する。高等教育機関の種類の詳細は「英国の高等教育・質保証システムの概要(第3版)」(大学改革支援・学位授与機構、2020年、p.9)を参照のこと。
※3・※4 いずれも1ポンド=133円で計算

原典①:OfS(英語)
原典②:OfS(英語)
原典③:UUK(英語)

カテゴリー: 英国 タグ: , , , , パーマリンク

コメントを残す