新型コロナウイルス対策で進む大学のオンライン教育:オーストラリアTEQSAによる支援

 新型コロナウイルスの影響で現在オーストラリアの多くの高等教育機関では、オンラインで教育を提供できるよう対応が進められているが、そうした教育提供の経験や資源の乏しい教育機関への支援が課題となっている。

 そうしたなか、オーストラリアの大学の規制・監督を行っている高等教育質・基準機構(TEQSA)は、高等教育機関が国の定める基準を遵守しながらオンラインでの教育提供へ迅速に移行し、学生に対して適切な支援を継続できるよう、高等教育機関向けの「優良事例集」「ガイダンス資料」を公開している。

オンライン教育の提供に関する優良事例集

 TEQSAが公開した優良事例集「Online learning good practice」では、オンライン教育の提供に役立つ提言やガイド、ウェビナー等の実践例を、以下の7つのカテゴリにまとめて発信している。事例集のとりまとめには、国内の大学をはじめ、オンライン教育サービスを行う企業、海外の質保証機関らが協力している。

1. オンライン教育の立ち上げ
2. 教職員向けの参考情報
3. 学生の学習体験の向上
4. 成績判定の公正性
5. 海外の事例紹介
6. オンライン教育に関するウェビナー及びポッドキャストの提供
7. 専門家による情報提供

ガイダンス資料―オンライン教育へ移行する際の留意点

 オーストラリアには、高等教育機関を設置・運営するための最低基準として「高等教育基準枠組」(Higher Education Standards Framework (Threshold Standards) 2015)(当サイト2015/12/22掲載記事)※1があるが、オンライン教育の実施に当たっても当然ながらこの基準を遵守する必要がある。そこでTEQSAは2020年4月に「Online delivery – key considerations for providers」を発表し、高等教育機関がオンライン教育を導入するにあたり当該枠組の基準を満たすための留意点を以下の4つの観点からまとめている。

新たな学習環境で学ぶ学生に向けた支援

  • 学生がオンライン学習に必要なリソースを確実に利用できるようにすること。オンライン環境へアクセスする上での技術的な問題点を認識し、適切に処理すること。
  • 授業料の減額、返還、支払猶予の手続きを含め、授業の提供に関して重大な変更や中断があった場合には、その代替措置を学生に確実に提供すること。
  • 学生への教育の提供方法に関して、本来の正式な方法を確認すること。その上で、学生の意見を積極的に聞き、組み込むことも適宜検討するとよい。
  • オンライン学習に伴い追加的に必要となる学習支援、学務面の支援及び学生個別の支援を検討すること。これには学生が教職員に連絡し、双方向で接する機会の確保を含む。
  • オンライン教育における学生参画の維持を検討すること。例えば学生同士の交流、教職員と学生の交流、学生支援がある。これには社会的孤立に伴うリスクの緩和も含む。

教職員向けの支援やトレーニング

  • オンライン教育への移行にあたり学生の学習成果の達成を支援するために必要な資格、知識及び技能をもった教職員を確保するため、教職員向けの必要な支援やトレーニングを検討すること。
  • 教員がオンライン教育を提供するためのツールを確実に利用できるようにすること。
  • 教員間で学習及び教育の達成度を測る共通の基準を持つこと。
  • 教員同士の交流や教員への支援の継続策を検討すること。

教育の質と学習成果の維持

  • 学生の学習成果の達成を保証し、学習の進捗状況や学習成果を効果的に確認すること。
  • 学生が必要な学習に取り組んでいることを保証するため、学生の取組状況を常時確認する方法を検討すること。
  • 学習成果の評価・測定・改善を含め、教育方法の変化に対応した質保証の仕組みを検討すること。
  • 学術的公正性を常時確認し、公正性を維持する方法を検討すること。カンニングや盗用等、特にオンライン教育で問題になりやすい学業不正に関するリスクについて適切に対策されていること。
  • 試験や成績判定が目的に沿って適切に実施されていること。
  • 試験の監督を含め、学習成果の測定に対する学術的公正性を維持するためのプロセスを確保すること。
  • 該当する場合、専門分野の関係団体による評価(アクレディテーション)を維持する方法を検討すること。

オンライン教育を支援するためのガバナンス

  • オンライン教育の開発、承認、実施に関する学内の意思決定手順が明確であること。
  • 重要な意思決定及びその理由を含め、適切に記録を残しておくこと。
  • 教育方法の変更について学生の学習記録簿に正確に記録すること。
  • 教職員や学生(国外にいる学生を含む)に対して各種の情報を適切に伝達するための計画を用意すること。
  • オンライン教育に関する重大なリスクを把握すること(例えば学業不正のリスクをどのように監視し、報告し、処分するか)

※1 高等教育基準枠組の概要については、「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要:オーストラリア 第2版(2015年版)」(大学評価・学位授与機構、2015年)の pp.39-40を参照。

原典①:TEQSA(英語)
原典②:TEQSA(英語)

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