オーストラリア連邦政府は、2024-25年度予算において、ユニバーシティ・アコード(オーストラリア高等教育レビュー)への第一段階の対応を示し、2050年までに労働人口の80%が高等教育資格を持つという国家目標を設定した。本記事では、オーストラリア連邦教育省が2024年12月に発表した、2024-2025年中間期経済・財政見通し(Mid-Year Economic and Fiscal Outlook (MYEFO) 2024-25)における、高等教育制度の構造改革の一部について紹介する。
■ユニバーシティ・アコード(オーストラリア高等教育レビュー)とは
高等教育システムの現状を様々な観点から検討することで、オーストラリアの大学を取り巻く主要な政策課題について関係者間のコンセンサスを形成し、大学への期待を明らかにすることを目的としたもので、2024年2月に最終報告書が公表された(詳細は、本サイト2023/3/23及び2024/4/30投稿記事を参照)。
レビューでは、①現在及び将来における知識とスキルのニーズへの対応、②アクセスと機会、③投資と資金調達、④ガバナンス、アカウンタビリティ、コミュニティ、⑤職業教育訓練と高等教育システムの関連性、⑥質と持続可能性、⑦新たな知識、イノベーション、能力の提供の7つがレビューの主要な領域として示され、実際のレビューではそのうち①、②、⑦の3つを特に重視している。
■MYEFOで述べられている主な構造改革のポイント
MYEFOサマリーでは、同国における将来の労働力需要の展望を見据えた高等教育改革や高等教育への参加の公平性を高めるためのステップを示し、第三段階教育※1の改革を掲げている。本記事では、第三段階教育の改革の内容として述べられている、「『第三段階教育委員会(ATEC)』の設立」「より適切な財政支援モデル」の2点について紹介する。
※1 オーストラリアでは、後期中等教育後の教育は「第三段階教育(tertiary education)」と呼ばれ、大学等の高等教育(higher education)、職業教育訓練(vocational education and training, VET)等が含まれる。
第三段階教育委員会(Australian Tertiary Education Commission: ATEC)の設立
第三段階教育委員会(ATEC)は、社会経済的に困難な状況にある学生の第三段階教育へのアクセスを改善するとともに、オーストラリアの将来の労働ニーズの改善※2を目指すとしている。同委員会は連邦政府への助言を行うとともに、以下で述べる財政支援を担う。2025年7月1日に発足し、2026年1月1日までに完全に運用される予定となっている。
ATECは、VET(職業教育訓練)と高等教育間の連携、また学生の移動を円滑にし、第三段階教育全体としてバランスのとれた発展を目指すとしている。
また、ATECにはファースト・ネーションズ※3(先住民族)を担当する専任の委員が置かれる。同委員は、ATECの中心的な職務として、ファースト・ネーションズの高等教育における成功、参加、達成に取り組む。
ATECによる高等教育改革には、以下の「ニーズベースの資金等支援制度」や「管理成長資金制度」の導入・実施も含まれる。またATECは、国の目標を推進する一方で、地方や地域のニーズにも対応するなど、高等教育セクター、州、準州との新たな協力体制を構築していくとしている。
※2 ユニバーシティ・アコードでは、将来不足すると見込まれる職種として、医師、看護師、介護士、教員、エンジニア等を挙げており、高度専門家等のニーズを満たすため、第三段階教育の改革を提案するとしている。
※3 ファースト・ネーションズの高等教育資格の取得状況については、オーストラリア保健・福祉省によると2021年は次のとおりとなっている。25歳~34歳のオーストラリア国民のうち、ファースト・ネーションズ以外の高等教育資格を持っている人の割合は76.2%である一方、ファースト・ネーションズのうち高等教育資格を持っている人の割合は47.3%である。高等教育修了状況は地域によっても差があり、主要都市部のファースト・ネーションズの修了率は約56.8%であるのに対し、最遠隔地では約17.6%である。
より適切な財政支援モデル
政府は社会経済的に困難な状況にある学生の高等教育へのアクセスの改善と将来の労働力需要充足のため、以下の財政支援制度を実施するとしている。
・公平な資金提供制度(「ニーズベースの資金等支援制度」)
「ニーズベースの資金等支援制度(Demand-driven Needs-based Funding)」は、公的資金で運営される高等教育機関に対し政府がより多くの資金を提供し、社会経済的に困難な状況に置かれている学生、ファースト・ネーションズの学生、地方キャンパスで学ぶ学生等の教育課程の修了を支援するものである。この資金提供制度は、奨学金を含む学生への直接的な支援のほか、メンタリング、ピア・ラーニング、オリエンテーション、初年度移行プログラム等のサービスといった、より多くの学生の高等教育資格の取得に資する包括的な支援に充てられる。
2026年1月1日から開始されるこの制度は、初年度に約14万人の社会経済的に困難な背景を持つ学生やファースト・ネーションズの学生を支援するとしている。
・「管理成長資金制度」
「管理成長資金制度(Managed Growth Funding System)」では、連邦政府が実施する学費支援補助であるCSPs(Commonwealth Support Places, 学費支援補助枠)※4について、CSPsの総数に基づき、ATECが公的資金で運営される高等教育機関等への配分数を決定する。※5
CSPsの総数、高等教育機関等への配分数の設定にあたっては、特に、社会経済的に恵まれない背景を持つ学生の高等教育ニーズととともに、将来の労働力需要を反映するとしている。
本制度によって、2035年までに、新たにCSPsの枠が約80,000件増加する見込みである。2026年にこの制度は段階的に導入され、2027年1月1日から本格開始される。
※4 CSPsはオーストラリアの多くの学生が受けている。2020年には総合大学の学生の61.6%がCSPsによる学費補助を受けた。
※5 ATECは政府が設定するCSPの総数について助言を行う。
原典➀:オーストラリア教育省
原典②:オーストラリア統計局
原典③:オーストラリア統計局
原典④:オーストラリア保健・福祉省
原典⑤:Universities Australia







