オーストラリア政府が約15年ぶりに高等教育レビューの実施を発表

 2022年11月、オーストラリア政府は同国の高等教育システムの持続的な改革を推進するため、「ユニバーシティ・アコード」(Australian Universities Accord)を策定すると発表した。「ユニバーシティ・アコード」は、高等教育システムの現状を様々な観点から検討の上、オーストラリアの大学を取り巻く主要な政策課題について関係者間のコンセンサスを形成し、大学への期待を明確にするものである。2008年の「ブラッドリー・レビュー」以来の大がかりな見直しとなる。

■前回のブラッドリー・レビュー(オーストラリア高等教育レビュー)について

 本レビューは、オーストラリアの高等教育システムの現状を国際的なベストプラクティスに照らして検討することを目的として、2008 年に実施された。
 翌年の2009年、連邦政府はブラッドリー・レビューを受け、国の新たな規制・質保証システムの確立とそれを担う国の機関の設立を発表し、オーストラリアの高等教育の規制・監督(regulation)と質保証について責任を持つ国直属の機関として、オーストラリア高等教育質・基準機構(TEQSA)が2011年に設置された。

■今回の見直しの論点

 主な検討課題として以下の7つが挙げられている。

①現在及び将来における知識とスキルのニーズへの対応
生涯学習のあらゆる段階において学生のニーズを満たし、現在及び将来必要とされるスキルを育成する質の高い教育の提供を強化する。

②アクセスと機会
教育、学習、研究における高等教育へのアクセスを改善する。これには、多様な背景を持つ学生(オーストラリアの先住民や困難な社会経済的背景を持つ学生、障がいのある学生、地方に居住する学生等)に対する高等教育へのアクセスや参加を促進するための新たな目標や改革に関する提言が含まれる。

③投資と資金調達
教育、研究、人材、インフラにおける優先課題に対応し、公平性、アクセス、質、長期的な投資を実現するための資金提供の方式を検討する。これには、Job-ready Graduates Packageの見直しが含まれる。

※ 前政権が2021年1月に導入した学生支援政策のこと。高等教育システムが学生、産業界、地域社会にとって最良の結果をもたらすことができるように、政府による大学への資金提供をはじめ、入学定員の拡大や地方・遠隔地の学生への大学進学を支援するための資金援助が行われている。また、 連邦政府助成金制度(Commonwealth Grant Scheme: CGS)が再設計されたことで工学、コンピューター、医療、教育、看護等、国が優先的に取り組む分野の学生分担金が大幅に引き下げられた。同時に、人文科学やコミュニケーション学等の一部の分野では引き上げが生じており、学生間に生じている負担の不均衡を問題視する声が上がっている。

④ガバナンス、アカウンタビリティ、コミュニティ
大学が職員と学生の双方に対する義務を果たすことができるように、規制や労働関係の改善を目指す。高等教育が社会、国家安全保障、Sovereign Capability(防衛、経済、食糧、環境、医療等の安全保障のために必要な国の能力)対してどのような貢献ができるかを検討する。

⑤職業教育訓練制度と高等教育システムの関連性
職業教育訓練(VET)と高等教育のシステム間の連携を強化するための可能性を探る。特に、学生がこれらのシステム間を行き来する際の経験や、一貫性があり接続された第三段階教育システムの確保について検討する。

⑥質と持続可能性
新型コロナウイルスの流行により国内外の学生や職員が直面した課題や、高等教育セクターのあり方への一時的・永続的な影響について検討する。また、留学生が社会や経済に与える重要な役割と、海外とのパートナーシップを深めたいというオーストラリアの関心を反映し、競争力とレジリエンス(回復力)のある国際教育セクターを支援する。

⑦新たな知識、イノベーション、能力の提供
大学研究システムを支援し、基礎研究と橋渡し研究から商業化に至るまで、国内の研究の将来性を確保する。その際、関連する構想やその他の機会を模索し、より大きな商業的利益をもたらすために、大学と産業界の連携をさらに促進する。

■専門家パネルについて

 専門家パネルは、2022年11月の教育大臣の発表と同時に発足し、政府や大学、その他の関係者に対し、現在及び将来の国のニーズを満たす高等教育システムを実現するための提言と、それを達成するための目標を提示することとなる。今後、大学のみならず、高等教育機関、職業教育訓練機関、教育者・研究者、学生、保護者、労働組合、企業、州・準州政府、及びこれまであまり意見を取り上げてこなかったグループを含め、高等教育政策の影響を受けるあらゆる部門や関連団体と幅広く交流し、協議を行う予定である。レビューを主導するメンバー7名は以下のとおり(◎は議長)。

◎ Professor Mary O’Kane(ニューサウスウェールズ州の政策コンサルティング企業CEO)
〇 The Honorable Jenny Macklin(メルボルン大学School of Governmentフェロー)
〇 Ms Shemara Wikramanayake(投資銀行マッコーリーグループCEO)
〇 Professor Barney Glover(西シドニー大学副学長)
〇 Professor Larissa Behrendt(シドニー工科大学ジャンブンナ先住民教育・研究所法学教授、研究・学術プログラム責任者)
〇 The Honorable Fiona Nash(オーストラリア初の地域教育委員)
〇 Mr Tony Cook(クイーンズランド州教育省高等教育・研究・国際グループ事務局次長)

■今後の予定

 専門家パネルの議長を務めるO’Kane教授からの最新情報(2022年12月時点)によると、現在までに3度のパネルミーティングやステークホルダーとの円卓会議や、2022年11~12月には高等教育関係者に向けたアンケート調査が実施されている。アンケートには2,000件近くの回答があり、今後もコンサルテーションを継続し、各方面から多様な意見を収集するとしている。
 また、2023年6月までに、優先的に取り組むべき事項に関する中間報告書を教育大臣に提出し、同年12月までに最終報告書を提出する予定である。
 なお、教育大臣の発表では、TEQSAがAccordのリファレンスグループ(Ministerial Reference Group)のメンバーに参加することとなった。同グループは、教育大臣を議長として、高等教育機関や企業、教職員、学生、その他有識者の代表者で構成されている。

原点①:Ministers’ Media Center(英語)
原典②:Department of Education, Australian Government(英語)
原典③:Ministers’ Media Center(英語)

参考:近年の高等教育関連記事

【オーストラリア】留学生受入れ再開と国民のスキルアップ:教育政策で経済回復を目指す
(本サイト2022/1/13掲載記事)

オーストラリアの大学等の分類が6種類から4種類に―高等教育基準の一部改定
(本サイト2021/5/31掲載記事)

豪政府:自粛中にスキルアップを。短期のオンライン教育に新たな高等教育資格を創設
(本サイト2020/8/12掲載記事)

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