外国とドイツの高等教育資格の比較評価が完全デジタル化へ

 ドイツの国内情報センター(NIC)※1のひとつであるZAB※2が行う外国とドイツの高等教育資格間の比較評価サービスの全ての手続きが2023年9月までにデジタル化されることになった。これは、主にドイツの労働市場へのアクセスを希望する外国の高等教育資格(学位等)の取得者を支援することを目的に、外国で取得された高等教育資格と比較可能なドイツの資格について明記した資格評価書(説明書)(statement of comparability)の申請から発行までの手続きをデジタル化するものである。評価書は法的拘束力を持たず、企業等において外国資格を有する者の採用の是非等を適切に決定するために参照・活用されるという性格を持つ。

 これまでは申請のみZABのウェブサイトから行えるなどオンライン活用は限定的だったが、年間45,000件を超える申請があるなか(2022年実績)、プロセスの迅速化と申請処理に係る事務の負担軽減を図るため、申請、関係書類の提出、提出書類の確認、審査、評価書発行までの一連の手続きをオンライン/デジタルを活用して行うことになった。これにより、申請から評価書発行までの時間が現行の3か月から最短で2週間以内に短縮される。また、評価書を申請者や雇用者等が必要な時にオンライン上で確認できるなど、サービス利用者の利便性向上が図られる。さらに、手数料のオンライン振込や偽造防止処理が施されたデジタル版評価書の発行なども計画されている。

 ドイツでは、国の行政サービスへのオンラインアクセス向上に関する法律(Online Access Act (Onlinezugangsgesetz, OZG))が2017年に制定され、行政事務のデジタル化に向けた連邦及び州政府による取組が進められている。また、近年、ドイツでの就職を希望する外国の学位などの高いレベルの資格を持つ者が増加している。こうした動きを受け、ZABは2022年10月より連邦教育・研究省の支援のもと連邦内務・故郷省の委託により民間企業※3が実施する資格評価のデジタル化プロジェクト(„Zeugnisbewertung Digital“)を進めている。ZABの資格比較評価の完全デジタル化はこの一環で行われる。

※1 高等教育の資格(学位等)保有者の流動性の促進を目指し、国を越えての進学や就職等に際しての資格の承認(recognition)が円滑に行われることを支援するために国内外の高等教育に関する情報提供を行うことを目的として国ごとに設置される組織。ユネスコの高等教育の資格の承認に関する国際規約において、規約を締結する国に対しNICの設置が求められている。(参照:当機構「高等教育に関する質保証関係用語集」ウェブサイト版

※2 Zentralstelle für ausländisches Bildungswesen (Central Office for Foreign Education – ZAB):外国で授与された資格の評価(evaluation of foreign qualifications)を担う機関として、常設各州文部大臣会議(KMK)に置かれる公的機関。教育機関、公的機関、個人を対象に、中等教育資格、職業資格、学術資格(高等教育の学位等)についての評価を行っており、年間計20万件以上の申請に対応している。なお、DAAD(ドイツ学術交流協会)もドイツの国内情報センター(NIC)に位置付けられている。


※3 ]init[AG(株式会社]init[)。デジタルソリューションを通じてより良い社会を作るため様々なサービスを提供するドイツの企業。ZABの資格間比較評価のデジタル化においては主に技術面を担当する。

■ZABの資格間比較評価について

概要

・外国(すべての国・地域)の高等教育資格と比較可能なドイツの資格を特定し、学修の継続(進学)、学術資格使用の法的基盤、職業(資格)の承認の手続きのための情報を評価書(ドイツ語)の形で提供する※4
・比較評価の申請ができる日本の資格は、「学士(Bachelor)」、「修士(Master)」、「博士(Doctor)」の3つであり、「標準修業年限が合計で3年に満たない大学の課程の学位」及び「短期大学の学位、専門学校等の修了資格」については評価書の発行対象外となっている※5
・評価書には、外国の資格に関する情報(資格取得者の情報、資格名(原語、ドイツ語翻訳)、資格を授与した教育機関名と所在地(国と都市名)、当該資格の取得につながった課程の分野と年数、資格授与日等)及び比較評価の結果(当該外国資格に対応するドイツの資格の情報)等が記載される。主にドイツでの就労や就労のための滞在許可の決定の際に雇用主や関係機関が参考にする。
・評価書はドイツと外国の資格間の比較の説明であって、承認(recognition)の証明ではない。
・評価書は法的拘束力を持たない(評価した内容は就職先や進学先での資格の承認を保証するものではない)。
・評価書をドイツ国内で医師や州の公立学校の教員などの規制を受ける職業(regulated profession)に就くために必要とされる専門資格の承認の証明として使うことは認められていない。外国で取得した専門的な職業に関する資格(規制を受ける専門職業に関する資格)のドイツでの認定については、「Anerkennung in Deutschland」(外国の専門資格の認定に関する情報ポータルサイト)に問い合わせる必要がある。

※4 評価書は簡易版と詳細版の2パターン発行される。簡易版は就職の際に企業の担当者等に提出されることを目的とし、当該資格のレベル等が容易に理解できる作りとなっている。下記URLに評価書のサンプルが掲載されている(PDF1ページ目が簡易版、2ページ以降が詳細版):https://www.kmk.org/fileadmin/pdf/ZAB/Zeugnisbewertungen/Zeugnisbewertung_Musterbescheinigung.pdf 

※5  なお、ZABには世界各国の全ての教育段階の資格とドイツの資格の比較可能性について情報提供する別のサービス(Expert Assessment)もある。

手続き(現行)の流れ※6

1.申請:ZABウェブサイトから申請→申請書をPDF化し紙に印刷したものに署名→関係書類一式※7とともにZABに郵送)
2.申請受付
3.提出書類の確認
4.手数料支払い(初回200ユーロ、2回目(証明書の再発行や別の資格の評価を希望する場合)100ユーロ)
5.審査
6.審査結果(評価書)の送付

※6 一連の流れにおおむね3か月要する。申請者とZABとの連絡は部分的にメールで行われるが、郵送によるやり取りが多く含まれる。

※7 申請にあたっての注意事項(評価対象となる資格)や必要提出書類を記載した国別チェックリストが下記URLにある(https://www.kmk.org/zab/statement-of-comparability/documents.html (左記ウェブページにある‘select country’のボックスから国を選択)。


原典①:常設各州文部大臣会議(KMK)(ドイツ語)
原典②:KMK(英語)
原典③:連邦内務・故郷省(BMI)(ドイツ語)
原典④:BMI(ドイツ語)

<参考> 外国の資格の比較評価を行うその他のNIC(欧州の例)

※サービスの目的(当該国での就労/進学等)、評価対象の資格の範囲、手続き等は機関ごとに異なることがある。
UK ENIC(英国)
France Éducation international (旧ciep)(フランス)
Nuffic(オランダ)

上記を含めた諸外国のNICによる資格間比較評価(statement of comparability、または名称はこれと異なるがこれに類する評価書を発行するサービス)については、当機構の調査報告書「学生移動(モビリティ)に伴い国内外の高等教育機関に必要とされる情報提供事業の在り方に関する調査 報告書」(2016年3月刊行)第3章(特にpp.66-72)で紹介している。なお、一部NICの名称や個別の手続き等に変更が生じているため、最新情報は各機関のウェブサイトを確認願いたい。



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