欧州:ENQAがマイクロクレデンシャルの質保証に関する報告書を公表

 2024年2月7日、マイクロクレデンシャルの質保証に関する欧州高等教育質保証協会(ENQA)のワーキンググループが、調査報告書「Quality Assurance of Micro-credentials」(マイクロクレデンシャルの質保証)を公表した。ENQA会員機関に対するアンケート調査に基づき、欧州の外部質保証機関におけるマイクロクレデンシャルの質保証の取組状況や、マイクロクレデンシャルの質保証に関する提言等が示されている。

ENQAによる調査と報告書の概要

 本報告書は、マイクロクレデンシャルの質保証について検討したワーキンググループの見解をまとめたものである。近年、多種多様な教育提供者によるマイクロクレデンシャルと称される学習の広がりを受けて、マイクロクレデンシャルの質保証をどのようにするのが最善かという議論が高まっているとし、ENQAはこうした議論に貢献し、また得られた知見を高等教育機関や質保証機関等における実践に活用するため、ワーキンググループを立ち上げた。欧州13か国から18の質保証機関が参加し、2021~2022年に活動が行われた※1

 ワーキンググループでは、質保証機関がマイクロクレデンシャルの質保証にどのように取り組むか、また、マイクロクレデンシャルの質保証に際して「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)」(NIAD-QEによる翻訳)のどのような側面が特に着目されるべきかに焦点を当てた議論や調査が行われ、その結果が今回、報告書としてとりまとめられた。なお、本報告書は主に質保証機関や規制当局に向けたものであり、国によっては高等教育機関だけでなく継続教育プロバイダーや代替教育プロバイダー※2といった教育提供者も質保証の対象としているといった特徴を考慮しながら、見解がまとめられている。

※1 正式名称は「ENQAマイクロクレデンシャルの質保証に関するワーキンググループ」(ENQA working group on quality assurance of micro-credentials)。ENQAに関係し、ENQAの関心が高い特定のトピックについて調査するワーキンググループの一つ。参加機関にはオランダ・フランダースアクレディテーション機構(NVAO)や、ドイツアクレディテーション協議会(GAC)などが含まれる。
 なお、ENQAは同時期に、マイクロクレデンシャルの質保証に関係する別のプロジェクト(ボローニャ・プロセス・テーマ別ピアグループCの活動の参考となる質保証プロジェクト(Implementation and Innovation in Quality Assurance through peer learning (IMINQA))にも参画しており、その報告書もENQAウェブサイトより公表されている。

※2  本プロジェクトの議長国である英国の高等教育質保証機構(QAA)の用語集によると、継続教育プロバイダーという用語はないが、「継続教育カレッジ(further education college)」は中等教育修了者や成人を対象に継続教育・訓練を提供するカレッジを指すとされる。「代替教育プロバイダー(alternative provider)」とは、公的資金の交付対象とならない高等教育コースの提供者であり、継続教育カレッジではないものを指すとされる。
QAA (2022) QAA Glossary.

マイクロクレデンシャルの特徴

 本報告書は、報告書内で用いるマイクロクレデンシャルを「a certified small volume of learning(証明された少量の学習)」を意味するものと整理し、高等教育機関、継続教育プロバイダー、代替教育プロバイダーなど多様な機関によって提供されていることがマイクロクレデンシャルの多様性と分野の広がりに寄与していると指摘している。

 また、マイクロクレデンシャルは近年高等教育セクターにおける話題になっている。マイクロクレデンシャルそれ自身は特に生涯学習の文脈においてこれまでも存在しており、何ら新しいものではないが、近年アップスキリング、リスキリングの重視、柔軟な学習経路、高等教育とそれ以外の第三段階教育の間の透過性といった観点から注目されている。 

 なお、報告書には、マイクロクレデンシャルと関連する用語の解説が掲載されており、以下はその一部である。

  • 透過性(Permeability):マイクロクレデンシャルの文脈では、「透過性」は獲得した知識・技能が国内外の制度や高等教育機関間で、また、教育セクターと職業訓練セクターの間で相互に承認されることを指す。
  • 持ち運び(Portability):「持ち運び」は、ある教育提供者により授与されるマイクロクレデンシャルが別の教育提供者が提供する学習単位と組み合わせることができる潜在性を指す。
  • 積み上げ(Stackability):「積み上げ」は、マイクロクレデンシャルが他のマイクロクレデンシャルとともに時間をかけて累積し、より大きな資格となりうることを指す。これにより、学習者はキャリアの途上でさらなる教育にアクセスすることができる。
  • 独立したマイクロクレデンシャル(Stand-alone microcredetials):「独立したマイクロクレデンシャル」は、学習プログラムの一部を構成しないが、フォーマルな資格(formal qualification)とは別に(=フォーマルな資格とは独立して)、学習者に価値を与える短期の学習のまとまりを指す。
  • 細分化と再結合(Unbundling/Rebundling):「細分化」は、まとまった教育の提供を各構成部分(要素)まで分解し、多様なステークホルダーがその要素の提供を担えることを指す。「再結合」は、細分化された要素をつなぎ合わせ、新しい学習のまとまり等に再構成することを指す。

欧州の質保証機関によるマイクロクレデンシャルの質保証の現状

 ワーキンググループは、ENQA加盟の欧州の質保証機関等に対し、マイクロクレデンシャルの質保証に関する取組についてアンケート調査を行い、53機関から回答を得た。質問事項の例は以下のとおり。

  • 各質保証機関ではマイクロクレデンシャルの質保証を行っているか(外部質保証に限る)。
  • マイクロクレデンシャルの質保証を導入する予定があるか、あるとすれば何年後か。
  • 外部質保証にあたりマイクロクレデンシャルの質の最低水準を定めているか/定める予定があるか。
  • マイクロクレデンシャルの外部質保証を行う際の課題は何か。

 「マイクロクレデンシャルの外部質保証を行っているか」の質問については、「現在行っている」と回答したのは15.6%で、12.5%は「まだ行っていないが、実施方法を検討中である」と回答した。また、43.7%が「現在は行っていないが、将来的には行う予定である」と回答した。

 マイクロクレデンシャルの外部質保証の導入予定時期に関する質問では、7.8%が向こう1~2年以内に導入、9.4%が3~4年以内に導入と回答した。しかし、23.4%は「不明」と回答し、56.2%からは回答がなかった。この結果を踏まえ報告書は、多くの質保証機関においてマイクロクレデンシャルの質保証に関する議論がまだなされていないが、議論が始まっている機関では数年でマイクロクレデンシャルの質保証を始める予定であることがうかがえる、と分析している。

 さらにアンケート調査結果の総括として、欧州域内で質保証機関自身がマイクロクレデンシャルの質保証をどのように取り進めるか検討を始めている例は少なく、大半は欧州または国・地域レベルのガイドラインが策定されるのを待っている状況であること、各国の法制度においてマイクロクレデンシャルの明確な定義が欠けていることも外部質保証の障壁となっていること、質保証機関はマイクロクレデンシャルを外部質保証活動に組み入れる際の負担の増大にも懸念を抱いていること、また、マイクロクレデンシャルの質保証にあたっては、回答した全ての質保証機関が既存の欧州の質保証基準とガイドライン(ESG)の適用可能性の関心を有している、と指摘している。

報告書における主な提言 

 ESGへの適用可能性については、報告書第4章で、ESGの第1部(内部質保証に関する基準とガイドライン)及び第2部(外部質保証に関する基準とガイドライン)の各基準がどの程度、マイクロクレデンシャルの質保証にも適用できるかについての分析がなされている。

 本報告書ではマイクロクレデンシャルについて特に、労働市場のニーズへの対応、産業界との連携に焦点をあてており、外部質保証及び内部質保証に関する提言、今後の課題についてもこうした側面について述べている。 

 まず、質保証機関や規制当局に向けた、マイクロクレデンシャルの外部質保証及び内部質保証に関する提言としては、例えば、職能団体や産業界が質保証を含めたマイクロクレデンシャルの開発過程の全段階に関わる必要性が指摘されている。また、マイクロクレデンシャルの質保証、承認、積み上げのために職能団体・産業界と学術界の協力を強化する必要がある、ともしている。さらに、マイクロクレデンシャルの将来に向けての検討事項として、労働市場規制機関と政策立案者が協力することにより、雇用の際に、マイクロクレデンシャルと職業資格の関連を確かなものにすることが必要である、と述べている。

 なお、報告書の最終章(第5章)には、AQU Catalunya(スペイン)、Estonian Quality Agency for Higher Education (HAKA)(エストニア)等、欧州の外部質保証機関におけるマイクロクレデンシャルの質保証のケーススタディ(当該国におけるマイクロクレデンシャルの文脈(当該実践の背景)、実践例、得られた成果・今後の課題等)が紹介されている。

原典:ENQA(英語)

◎関連記事まとめ

(1)「マイクロクレデンシャルの承認に関する7つの評価基準と2つの承認トラック」
(QA UPDATES 2022/6/20投稿記事)

(2)「欧州高等教育圏におけるマイクロクレデンシャルの共通枠組みを提示」
(QA UPDATES 2022/5/10投稿記事)

(3)「欧州25か国でマイクロクレデンシャルがすでに存在―MICROBOL報告書」
(QA UPDATES 2021/5/25投稿記事)

(4)「欧州的アプローチにおけるマイクロクレデンシャル―欧州の教育制度への組込みを目指して」
(QA UPDATES 2021/3/24投稿記事)

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