欧州:マイクロクレデンシャルの承認に関する7つの評価基準と2つの承認トラック

 2022年3月、2020年から2年間行われたThe Stacking Credits and the Future of the Qualification (STACQ)プロジェクトの活動の成果として、マイクロクレデンシャルの承認方法と特性に焦点を当てた報告書「The Rise and Recognition of Micro-credentials Stacking Modules and the Future of the Qualification」とマイクロクレデンシャルの承認方法の判断に役立つアプリ「The Micro-Evaluator」の2つが公表された。

STACQプロジェクトについて

 STACQプロジェクトとは、Erasmus+の資金によって運営された2年間のプロジェクトである。欧州高等教育圏(EHEA)内において、マイクロクレデンシャル※1の評価を行う機関を支援し、オンライン教育やインフォーマル教育などの承認を促進することを目標としている。
 オランダの国内情報センター(NIC)であるNufficを中心に アイルランド、リトアニア、マルタ、スウェーデン、英国のNICで構成され、その他にも欧州遠隔教育大学協会 (EADTU:European Association of Distance Teaching Universities)、欧州高等教育アクレディテーション協会(ECA:The European Consortium for Accreditation in higher education) 、The Art of E-Learningがパートナーとして参加している。
※1 本報告書では、マイクロクレデンシャルの定義を「学習者が少量の学習により修得した学習成果の記録」と説明している。

報告書の概要

 本報告書では、マイクロクレデンシャルが増加している背景、承認方法、特徴的な性質(結合してより大きな資格やモジュール学習に統合できる性質)についてまとめられているが、本記事では承認方法に焦点をあてて取り上げる。

 本プロジェクトによると、通常の学位プログラムと比べて期間や学習量が少ないマイクロクレデンシャルを正規の学位とどう関連付けるか、というマイクロクレデンシャルの承認の考え方は多くの国で進展しており、関連性を示すための明確な概念の策定や、承認するマイクロクレデンシャルのプロバイダーの種類を定めるなどの例がある。これらの進展により、マイクロクレデンシャルは質保証や資格枠組みと結びついた、正規の資格に近づくことが期待されている。(参考:マイクロクレデンシャルと質保証・資格枠組みとの関連について調査した過去の記事…本サイト2022/5/10投稿記事
 マイクロクレデンシャルの承認には、「リスボン承認規約に沿った承認」と「従前の学習の承認を用いた承認」の2つのトラックがあり、どちらのトラックに該当するかは、評価を行うマイクロクレデンシャルの内容や特性によって異なることから、本プロジェクトによりその判断基準を体系的に学べるアプリが開発された。 以下、下図に従ってアプリを用いた承認トラックの判断手順と、マイクロクレデンシャルの承認の考え方について概説する。

(図:Nuffic、The Rise and Recognition of Micro-credentials Stacking Modules and the Future of the Qualification

(1)The Micro-Evaluator app について[図上]

 STACQプロジェクトが開発したオンラインアプリは「The Micro-Evaluator app」と呼ばれ、ENIC-NARICネットワークがモジュール学習※2の承認のために取り組んできたe-valuateプロジェクト※3によって開発されたメソッドが組み込まれた。アドミッションオフィサーや承認担当者、その他マイクロクレデンシャルに興味のある人なら誰でも使える、マイクロクレデンシャルがどちらの承認トラックに当てはまるかの判断に役立つツールである。
 e-valuateプロジェクトでは、内容やレベルが多岐に渡るeラーニングでの学習を承認するか否かを決める際のポイントとして7つの観点(本サイト2020/1/20投稿記事/参考:Nuffic、Practitioner’s guide for recognition of e-learning)を示している。同プロジェクトはオンライン学習に焦点を当てたものだが、開発されたメソッドはオンライン教育、ブレンド型教育、対面教育のいずれであっても一般的なモジュール学習に変換できる方法であるとして、今回使用された。
 具体的に、上述の7つの観点を参考に開発されたマイクロクレデンシャルの評価基準は、①コースの質②証明書の審査③コースのレベル④学習成果⑤学習量⑥学習結果の測定方法⑦本人確認の7つである。前半5つは、従来の資格の承認の基礎になるもので、後半2つは、モジュール学習に特に関連したものである。アプリでは基準ごとに関連する質問が提示され、評価を行うマイクロクレデンシャルの内容等に沿って回答を進めると、7基準(ブレンド型・対面型のコースの場合は5基準)それぞれについてどの程度満たしているか4段階のレベルで判定される。

(2)リスボン承認規約(LRC)に沿った承認[図左下]

 この判定結果で、7基準全てが高いレベルとなれば、そのマイクロクレデンシャルのコースはリスボン承認規約(LRC:Lisbon Recognition Convention)に沿って承認することが可能(図の左下)と判断される。承認当局の労力は大幅に減り、承認プロセスの結果は学習者にとってより透明性が高く予測可能なものとなる。
 また通常の教育プログラムと同様にボローニャプロセスの枠組みに該当することから、欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)※4(NIAD-QE国際課まとめ)に沿った質保証、欧州資格枠組み(EQF)※4(NIAD-QE国際課まとめ)欧州高等教育圏資格枠組み(QF-EHEA)※4(NIAD-QE国際課まとめ)との参照、欧州単位互換制度(ECTS)※4(NIAD-QE国際課まとめ)による学習量の把握などが可能になる。
 マイクロクレデンシャルがこの承認トラックに該当するには、分かりやすく透明性のあるコース情報と学習成果がマイクロクレデンシャルのプロバイダーによって提供されていることが重要である。ただし、e-Valuateのメソッドは評価の目的に応じて特定の要件に重きを置くこともできる柔軟な方法であり、例えばコースの質が適切に保証されている場合は、コースのすべての学習成果に関する情報が常に必要とは限らず、より効率的な承認を可能にするプロセスである。
※2 1単位の授業時間を分割する短時間学習
※3 欧州高等教育圏における、オンライン教育の承認のための効果的な政策貢献を目的とするプロジェクト。
※4 欧州高等教育圏の取組みとして開発されたEHEAツールの一例。本文中の例の他に、ディプロマ・サプリメント(DS)(NIAD-QE国際課まとめ)外部質保証結果データベース(DEQAR)(本サイト2020/3/13投稿記事)等がある。マイクロクレデンシャルへのEHEAツールの適用については、過去の記事で掲載している(本サイト2022/5/10投稿記事)。

(3)従前学習の承認(RPL)を用いた承認[図右下]

 上記(1)の判断により、ボローニャプロセスの枠組みに該当しないマイクロクレデンシャルであった場合、ノンフォーマル教育やインフォーマル教育の審査ツールとして長年使用されてきた「従前学習の承認(RPL:Recognition of Prior Learning)」を用いて承認するトラックへ移る(図の右下)。
 RPLとは、通常の教育プログラムだけでなく、ノンフォーマル教育やインフォーマル教育などでも獲得された学習成果が、特定のプログラムや資格としての要件を満たすことを正式に証明する過程である。
 RPLのプロセスは、通常4つの段階(身分証明・提出書類・成績評価・インフォーマル教育やノンフォーマル教育で得られた学習成果の証明)で行われる。欧州議会は、各加盟国にノンフォーマル教育やインフォーマル教育の審査体制を2018年までに整えることを勧告し、各国はRPLの考え方を取り入れようとしてきたが、例えばフランスではRPLを用いた承認を求める権利が国内法で保護されている一方、スコットランドではRPLに関する共通の法律はないなど、整備に向けて国間で差が生じている。RPLを用いたマイクロクレデンシャルの承認の優良事例が出ることで、ノンフォーマル教育・インフォーマル教育の承認の発展にも影響することが期待されている。
 ただし、RPLは専門的な経験と複雑な手順を要するため、マイクロクレデンシャルの承認に適さない場合もあることから、承認当局や学習者にとって負担となりすぎない手順を確立し、承認の判断に費やす時間と申請結果とのバランスをとることが重要である。

 報告書の最後では、承認担当者に向けての提言が付されており、このe-Valuateメソッドを用いて2つの承認トラックを確立させること、目的に沿った効率的なRPLの手順を発展させること、関係機関やステークホルダー等と好事例を共有することなどが述べられている。

原典①:Nuffic(英語)
原典②:Nuffic(The Micro-Evaluator)(英語)

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