中国教育部が脱炭素社会の実現に向けた高等教育人材育成計画を発表

2022年4月、中国教育部は「カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの実現に向けた人材育成を体系的に実施するための計画」(原語:加强碳达峰碳中和高等教育人才培养体系建设工作方案)(以下「計画」)を発表し、高等教育機関と関連業界の連携及び国際社会との連携等による人材育成の具体策を示した。

中国は2020年と2021年の習近平国家主席による国連での演説で、2060年までに二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする脱炭素社会の実現を目指すと表明し(2020年2021年)、2021年10月には中国共産党と国務院が「カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの達成目標」(原語:关于完整准确全面贯彻新发展理念做好碳达峰碳中和工作的意见)を発表している。今回の「計画」は、この目標達成に向けた人材育成の方策として示された。

以下、「カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの達成目標」と「計画」の概要を紹介する。

【注】ピークアウトとは一般的にあるものが頂点に達しそれ以降減少に向かうことを言う。カーボンニュートラルとは温室効果ガス(CO2を含む)の排出量と吸収量または除去量を差し引きゼロにすること(資源エネルギー庁)。なお、中国の本記事において「カーボン」はCO2のみを指す。

1.カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの2060年までの達成目標

2025年までの目標:

  • ・単位GDP当たりのエネルギー消費量※1とCO2排出量を2020年比でそれぞれ13.5%、18%削減。
  • ・非化石エネルギー消費の比重を20%まで引き上げる。
  • ・国土における森林面積の割合を24.1%まで引き上げる。

2030年までの目標:

  • ・単位GDP当たりの総エネルギー消費量を大幅に引き下げる。
  • ・単位GDP当たりのCO2排出量を2005年比で65%以上削減。
  • ・非化石エネルギー消費の比重を約25%まで引き上げる。
  • ・風力と太陽光発電の設備容量を12億kW以上、国土における森林面積の割合を25%程度にする。

2060年までの目標:

  • ・エネルギー利用効率を国際先進水準に到達させ、非化石エネルギー消費の比重を80%以上に到達させ、カーボンニュートラルを実現する。

※1 単位GDP当たりのエネルギー消費量:総エネルギー消費量÷GDP(中国統計局

2.「計画」の概要

実施体制

  • ・各関係部門と高等教育機関は、カーボンニュートラルとカーボンピークアウト人材育成の重要性、緊急性を認識し、責任をもって計画的に取り組む。
  • ・高等教育機関は企業や国の基金等の多様な経路から資金を得て実施する。
  • ・分野別評価※2や工学教育分野認定※3等の各評価の過程で、カーボンピークアウトとカーボンニュートラル人材の育成を評価の観点に加え、高い成果を上げた場合は、表彰や好事例等の形で公表する。

※2 分野別評価:専門分野ごとの評価。
※3 工学教育分野認定:国際基準に基づいて工学教育を評価して認定する。中国では、中国工学教育分野認定協会(China Engineering Education Accreditation Association: CEEAA)が実施している。

具体内容

(1)グリーン・低炭素教育の強化

  • ・グリーン・低炭素の理念を教学体系に組み込み、学生の活動等を通して一般の人々のグリーン・低炭素への意識の向上を強化する。
  • ・指導者各層の理解の深化と能力の強化のため、高等教育機関はカーボンピークアウトとカーボンニュートラル政策やその重要性等についての研修を実施する。
  • ・生涯教育・継続教育の学習者ニーズに応えるため、カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの研修を実施する。

(2)人材育成及び科学技術の課題解決能力の向上

  • ・高等教育機関がカーボンピークアウトとカーボンニュートラルに関する国家研究所等の研究に参加し、高水準の国家科学研究プラットフォームを構築する。
  • ・高等教育機関はカーボンピークアウトとカーボンニュートラル分野の核心的な技術課題の解決のための大規模プラットフォームを組織する。特に、次の分野の研究開発チームを結成して取り組む。
    • ⇒CO2排出量削減技術(化石エネルギーのグリーン開発※4、CO2利用、大気汚染とCO2削減の技術)、CO2ゼロ排出技術(新型の太陽エネルギー、風力、地熱、海洋エネルギー、バイオマス、原子力、蓄電技術等)、ネガティブエミッション技術※5(CO2回収、利用、貯留等の技術)。

※4 グリーン開発(原語:绿色开发): 環境に負荷のかからない、汚染の少ない、高効率の開発。
※5 ネガティブエミッション技術:大気中のCO2等の温室効果ガスの濃度を減少させる技術。

(3)ニーズの高い専門分野における高等教育人材育成の加速

  • ・蓄エネルギーと水素エネルギー関連の学科や専攻の構築を急ぐ。
  • ・高等教育機関は、CO2の回収、利用、貯留技術に関する学科や専攻を開設する。
  • ・CO2に関する金融、管理、市場取引等の不足している教育資源を構築する。

(4)従来の学問分野の強化

  • ・風力発電、太陽光発電、水力発電、原子力発電等の人材育成の規模を拡大し、対外進出を強化する。
  • ・従来の動力、電機、交通、建築系統等の重点分野の専門人材の育成強化を急ぐ。
  • ・人材育成計画の策定を急ぐ。教育指導委員会、業界指導委員会が、カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの目標に沿って育成目標を調整する。

(5)産学連携による人材育成の実施

  • ・高等教育機関とエネルギー、交通、建築関連の国内企業が連携し、企業のニーズに応じた人材育成計画を共同策定して特色ある人材育成を実施する。
  • ・国の産学連携イノベーションプラットフォームを構築する。連携メカニズムを模索し、人材育成の質を高め、科学技術成果を迅速に応用する。
  • ・カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの産学連携連盟を形成する。

(6)改革モデルの展開

  • ・高等教育機関にグリーン低炭素分野の研究科、学部を設置する。
  • ・カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの人材育成モデルプロジェクトを実施する。国内の高等教育機関にオンライン課程の設置を急ぐ。

(7)高水準の教員組織の構築の強化

  • ・カーボンピークアウトとカーボンニュートラル分野の教員組織を構築する。
  • ・教員研修の実施、著名な教員や課程が先導的モデルとなって能力強化を図る。

(8)教育資源の構築の強化

  • ・カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの分野の科目、教材等の教育資源の構築を強化し、授業動画、デジタル教材、テスト、教育事例、実験項目等を共有できる教育資源データベースを形成する。

(9)国際連携の推進

  • ・国際的な人材を育成する。カーボンニュートラルとカーボンピークアウトの専門人材の育成を基礎とし、国際的な視野を持たせることを重視し、国際連携能力の強化を図る。学生を関連分野の国際組織のインターンシップに積極的に参加させる。
  • ・海外の高度人材の招致を拡大する。高等教育機関は、海外のCO2回収利用と貯留、化石エネルギーのクリーン利用※6、最新の再生可能エネルギー技術、蓄エネルギーや水素エネルギー分野の人材及び炭素経済や政策研究分野の人材を積極的に招致する。
  • ・国際連携育成プロジェクトを展開する。中国の高等教育機関は、世界の一流大学や学術機関と連携してカーボンニュートラルとカーボンピークアウト分野の学生を育成し、科学技術を革新し、シンクタンク系コンサルティング会社等と連携してプロジェクトを実施する。クリーンエネルギーや気候変動に関する多角的かつ革新的な協力を深め、グローバル気候ガバナンスとCO2排出量取引市場運営に関する専門人材を育成する。

※6 化石エネルギーのクリーン利用:石炭・石油・天然ガスの採掘、生産、発電等において環境への負荷を抑えること。(中央人民政府

原典①:中央人民政府 中共中央 国务院关于完整准确全面贯彻新发展理念做好碳达峰碳中和工作的意见(中国語)
原典②:教育部 加强碳达峰碳中和高等教育人才培养体系建设工作方案(中国語)

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