オランダで奨学金事業や留学支援、外国資格の承認に関する業務を行うNufficは、単位認定や入学資格有無の判断においてeラーニングでの学習成果を認めるべきか否かを判断する際のポイントを示した大学職員向けのガイド「Practitioner’s guide for recognition of e-learning」を2019年9月に発表した。本書では、学位の一部または全部をオンラインで提供する課程をのぞく、独立したあらゆる形態のオンライン教育をeラーニングと定義づけ、その承認の観点について説明している。
Nufficによれば、eラーニングの提供は増加し、教育へのアクセス拡大をもたらしている一方で、eラーニングが学位課程の一部として行われる場合を除き、そこでの学習の成果は進学などに結び付かない可能性があるという。
加えて、eラーニングに対するアクレディテーションや正規教育の代わりとしての需要は、今後、急激に増加することが予想されるため、需要が高まる前に高等教育業界はeラーニングに対する統一された評価のほか、eラーニングでの学習の承認の方法やツールの整備をすることが好ましいとNufficは主張する。
なお、この本書はe-Valuateプロジェクト※の一環として刊行されており、eラーニングを設計する側に向けた本書「Academic recognition of e-learning」と連携して公開された(本サイト2019/1/20投稿記事)。
eラーニングでの学習を承認するか否か決める時に確認する7つの観点
高等教育機関における教育プログラムの一環として提供されるコースと異なり、eラーニングの内容やレベルは多岐に渡るため、その学習成果が進学・就職・移住時に認められることは難しいとされる。本書では、eラーニングでの学習成果を承認するか否かを決める際、下記の7つの観点を考慮するよう提案している。
これら7つの観点は、もともとMOOCsを評価するためのものであったが(本サイト2018/5/15投稿記事)、MOOCs以外のeラーニングにおける学習成果を承認する際にも、これらの観点は有用であるとされる。
観点1:学習プログラムの質
内部・外部質保証はプログラムの質をみる上で重要であるとしつつも、eラーニングは質保証制度の対象の外であることが多い。そのため、eラーニングの質をみるにはプログラム提供者の状況、第三者による当該プログラムの承認、学習者間でのプログラムの認知度など、その他の要素で確認をすること。
観点2:証明書の審査
多くのeラーニング提供者は、発行した証明書を、第三者が確認ができるようなツールを備えているので、真正性に疑いがある場合はそのツールを使い、証明書の真正性を確認すること。大学職員は、eラーニングの提供者が発行した証明書について、確認済みの証明書の独自のデータベースを構築し、疑わしい証明書が提出された時の参考にすること。
eラーニング提供者が発行する証明書に含まれている主な情報は下記のとおりである。
- MOOCのプラットフォームのロゴと名称
- 当該コースの提供者と提携する機関のロゴと名称
- 学生の氏名
- コースの名称
- コースの番号または識別コード
- 学習期間(開始日と終了日)
- 機関や部門、コースの長の署名
- 第三者が証明書を確認するためのウェブのリンク
- コースの内容に関する詳細な情報
- プログラムの提供形態
- 学生の成績、評定や数値で示された学習の結果
- 当プログラムに割り当てられた欧州単位互換制度(ECTS)の単位数、学習時間や日数
観点3:学習プログラムのレベル
eラーニングの証明書に全国資格枠組のレベルが記載されていない場合は、下記を参照することを薦めている。
- 当該コースの学習成果
- 入学要件、または求められている特定の分野における事前の学習
- 更なる学習機会についての記述(コース終了後に学習プログラムへの進学が認められるか、労働市場において公認の資格か)
- プログラム提供者が示すコースの難易度
- コースの名称(ただし、コースの名称が必ずしもそのレベルを示す訳ではないことに留意する)
質保証されたコースの場合、その教育レベルはそのコースのレベルを示唆するものととらえてよい。
観点4:学習成果
証明書に学習成果が記載されていない場合はコースの説明を参照してもよい。ただし、コースの説明は一度設定されると長く変更されないため、手元の証明書の記述と合致しているか確認すること。コース識別コードを活用したり、インターネットのアーカイブを参照したりすること。
観点5:学習量(workload)
一般的には学習時間や欧州単位互換制度(ECTS)の単位数で表されることが多い。資格審査の際は一般的な学習時間や必要とされる学習量に基づいて判断する。ただし、1ECTS単位よりも少ないなど学習時間が少ない場合は学習時間を考慮しなくてもよい。
観点6:試験
教育を提供しているプラットフォームで、コースの試験方法等の情報を集めること。
- 試験に関する情報をプラットフォーム上で確認できるか、情報公開に透明性があるか。
- どのような種類(選択式、筆記、コーディング、ポートフォリオの提出等)の試験か。
- 実施される試験の種類は目標とする学習成果に合ったものか。
- 実施される試験の種類は学習量に合ったものか。
- プログラム修了時の成績が証明書に明確に記載されているか。
- 試験では学習者の本人確認が行われているか。
利用できる試験の結果がない、または信頼性に欠けるものである場合には、受入れ機関で独自に試験を実施してもよい。
観点7:本人確認
- どのように本人確認が行われているか。
- 毎回の定期試験において本人確認が行われているか、1回のテストで複数回確認されていることが理想である。
- 複数種類の確認方法が行われているか。
観点の使い方 ― 柔軟でバランスの取れた判断が求められる
eラーニングにおける学習成果の承認では重要な情報が不足していることが多い。一方、上記7つの観点は互いに関係し合っており、どのような場合であっても承認の考慮は慎重に行い、全観点を通してバランスをとった判断をするべきであるとしている。また、承認にかける時間は限られていることを前提に作業を進めるべきとする。例えば入学資格の判断において、志願者が学位・資格とeラーニングの双方の学習成果を有する場合は、eラーニングでの学習の承認に時間をかけるのではなく、学位・資格のみを承認すればよい。一方、重要な科目が抜け落ちているなど学位・資格の内容に不足がある場合、eラーニングがその不足を補うことが可能か否か決めることを勧めている。
※ e-Valuateプロジェクト
欧州高等教育圏におけるオンライン教育の承認のための効果的な政策への貢献を目的とした、デンマーク、リトアニア、ノルウェー、アイルランドのENIC-NARICが主導して行うプロジェクト。
原典①:Nuffic(英語)
原典②:Nuffic(英語)