2019年12月4日、TEQSA法の一部を改正する法案が豪州連邦議会の下院に提出された。今回の改正案は、昨今世界的に問題となっている組織的な論文代行不正を法的に規制する権限をオーストラリア高等教育質・基準機構(TEQSA)に与えるものである。
TEQSAは、豪州内の高等教育機関に対しアクレディテーションを行う規制機関であるが、法案が成立すれば新たに論文代行に対する規制力を有することとなる。
論文代行不正とは、主に論文など学生の単位認定や成績判定に用いられる課題について、学生が論文代行業者(エッセイミルと呼ばれる)など第三者に依頼して作成したものを自らの成果として提出する行為を指す。豪州では、2015年に論文代行業者「My Master」を1000人以上の学生が利用し、実際に70人以上の学生が退学を含む厳正な処分を受けたことが各紙に報じられて以来、高等教育セクターの大きな問題となっている。
改正案には、TEQSAが連邦裁判所に対し、インターネットプロバイダーや検索エンジン運営会社に対して論文代行業者のウェブサイトを閲覧できないよう差止命令を出すことを要求することや、論文代行業者に対し懲役罰(2年)や罰金(500ペナルティユニット≒787万円※1[2019年12月])を課すことを要求する権限を有することが明記されており、同改正が成立すれば、豪州においても論文代行不正を法的に規制することが可能となる※2。
今回の改正案に対し、TEQSAのAnthony McClaran最高経営責任者(CEO)は、「論文不正自体新たな現象ではないものの、技術の進歩により手口も巧妙なものとなってきている。これまで以上の警戒感をもって豪州高等教育の名誉を守っていかなくてはならない。」と声明を発している。
改正法案は現在下院で審議中であり上院において可決されたのち正式に成立する見込みである。
なお、実際の規制プロセスや論文代行業者の違法性の基準など、改正後の詳細な運用方法は未発表であり、今後TEQSA内外での十分な議論を経て制度設計がなされることが期待される。
※1 2021/11/9 罰金額について訂正。
※2 ニュージーランドや米国の一部の州、アイルランドにおいては、論文代行不正を違法とする法律が既に施行されている。(2019年1月23日本サイト記載記事)
原典➀:
TEQSA(英語)
原典➁:
The Parliament of the Commonwealth of Australia(英語)
原典➂:
The Sydney Morning Herald(英語)