2018年11月29日、当機構の覚書締結機関である英国高等教育質保証機構(QAA)は、ネット広告やオンライン決済など論文代行業者がインターネットサイトを利用して活動を行っていることを受け、Facebook、Google、YouTube、PayPal、Yahoo、Bingの6社に対して対策を講じるよう要請する文書を送付した。6社には論文代行業者(エッセイ・ミルと呼ばれる)に対するサービス提供の停止や代行業者の広告削除などが求められている。
QAAから民間企業6社への要請内容
QAAから各社へ要請した内容は以下の通り。
- YouTube:論文代行業者の後援を受けたユーチューバーによる論文代行の宣伝ビデオを削除すること。
- PayPal:論文代行業者がPayPal社のオンライン決済を使えないようにすること。
- Facebook、Google、 Yahoo、 Bing: 各社のウェブサイトに論文代行業者のウェブ広告掲載を止めること。
論文代行不正問題(Contract cheating)
論文代行不正(Contract cheating)とは、論文など単位認定や成績判定に用いられる課題について、学生が論文代行業者など第三者に依頼して作成したものを自らの成果として提出する行為を主に指す。論文代行不正は、適切な知識や技能を有していない学生でも単位を取得して卒業できることに繋がるため、こうした卒業生を受け入れる雇用主や社会にリスクが生じる。
イギリスSwansea大学のPhil Newton教授が2018年8月に発表した研究によると、近年論文代行の利用は急増しており、2014年以降には卒業生の約7人に1人(15.7%)が代行業者を利用している。これは世界全体でみると、約3100万人もの学生が論文代行業者を利用していると推計される。同教授によると、当該研究では論文代行の件数について、学生の自己申告をもとにデータをとっているため、実際にはさらに多くの学生が関与している可能性がある。
2018年5月、イギリスBBCによる調査で、250以上ものチャンネルでユーチューバーが論文代行業者から金銭を受け取り、投稿ビデオ内で論文代行の宣伝を行っていることが判明した。これ以降QAA、BBC、英国政府の働きかけによって、論文代行を宣伝するビデオの削除が進められていた。
論文代行業者に対する各国政府の規制
論文代行業は、ニュージーランドやアメリカ合衆国の一部の州ではすでに法律で禁止されている。また、アイルランドでは2019年1月現在、論文代行業者への規制を含む法案「Qualifications and Quality Assurance (Education and Training) (Amendment) Bill 2018」の審議が進められている。
一方で、イギリスでは2016年からQAAが立法化を呼びかけているものの、依然として規制法ができておらず、現在も論文代行業は合法となっている。これに対し、2018年9月にはイギリス国内の大学の副学長ら45名が政府に対して論文代行業を禁止するよう求める書簡を提出した。また、論文代行業者を規制する法律の立法化を政府に請願するための署名活動も進められている(政府に請願するためには2019年2月22日までに1万名分の署名を集める必要がある。2019年1月23日現在、5,851名が署名)。
この他にイギリスQAAは学術不正への対策を行う新しい国家機関の設立を提案している。
参考記事:「QAAが、学生の剽窃行為防止のための提言を公表」(本サイト2016/10/4掲載記事)
原典①:QAA(英語)
原典②:QAA(英語)
原典③:QAA(英語)
原典④:QAA(英語)
原典⑤:Swansea University(英語)
原典⑥:Petitions; UK Government and Parliament(英語)
原典⑦:Houses of the Oireachtas(英語)