外国資格の審査時にMOOC学習も考慮に入れるか
MOOC学習と学位の関係が重要
最終的には個別の判断が必要
大規模公開オンライン講座(MOOC)での学習も学歴に含むべきか―世界で議論されている課題を扱ったレポートが、2018年2月に欧州のプロジェクトチームから公開された。欧州9か国が参加したPARADIGMSプロジェクトは、欧州委員会からの助成を受けて2016年3月から2年間、MOOCのような新たな手法を使った学習経験の認定などを調査した。この結果を用いて、欧州での教育政策の改善を目指した。
”Oops a MOOC!”と名付けられた本書では、様々なプラットフォームで提供されているMOOCを3つに分類している。その上で、MOOCでの学習を正規の学習歴に含めるかどうかの7つの判断基準が提示されている。さらに、こうした学習歴の判定をする担当者やMOOCの提供者に向け、円滑な学習認定のための提言もまとめられている。
MOOCを教育上どのように扱うかという議論は、以前から続いている。例えば、ノルウェーの教育研究省は2014年に専門の委員会を立ち上げ、MOOCがもたらしうる影響と課題の分析を行った(本サイト2014年10月17日掲載記事)。一方、2015年のカナダ・ブリティッシュコロンビア州の調査では、これまでにMOOCの学習が単位認定された事例は非常に少なく、今後の需要も低いとの分析を示している(本サイト2015年12月17日掲載記事)。
MOOCの3分類
本書でのMOOCの分類は、学位との関連性を軸になされている。すなわち、(1)学位プログラムの一部としてのMOOC、(2)学位に付加価値をもたらすMOOC、(3)学位とは関係のないMOOCという分類である。
学位プログラムの一部としてのMOOC
MOOCが学位につながる学習としてカリキュラム上に位置づけられている場合。たいていは、MOOC単独の証明書は発行されず、成績証明書の一部に記載される。
例えば、オランダのデルフト工科大学では、協定先の大学が提供するMOOCを修了した学生は、卒業に必要な単位が与えられる(本サイト2017年1月19日掲載記事)。また、フランスのOpenClassroomsというプラットフォームでは、MOOCの受講のみで学士の学位が取得できる(本サイト2015年7月21日掲載記事)。
学位に付加価値をもたらすMOOC
プログラムの一部ではないが、学位に関連しその価値を高めるようなMOOCの場合。判断が難しいことが多く、そのMOOC学習による付加価値と判定に費やす労力のバランスで、審査を行うかどうかが決まる。
特に、ある外国の学位が単独では自国の学位と同価値とみなせないが、MOOCの学習を加味することで同等性が担保される場合などが該当する。
学位の付加価値を高める学習としては、アメリカで盛んなブートキャンプ型教育を連邦教育省が支援したEQUIPプロジェクト(本サイト2015年11月25日掲載記事)がある。
学位とは関係のないMOOC
MOOCでの学習歴のみを審査する場合。一般的に、体系化されていない単位を多く積み上げただけでは学位につながらず、審査には多大なコストがかかる。そのため、欧州では現状こうした審査は行わないことが多い。
一方、ドイツのMOOCプラットフォームであるiversityなど、修了者にECTS単位を授与するMOOC(本サイト2013年12月12日掲載記事)は存在する。また、米国教育協議会(ACE)はいくつかのMOOCを大学相当と認め、単位推薦を出している(本サイト2013年12月12日掲載記事)。
また、難民の教育支援をするプラットフォームであるKironは、難民の学生によるMOOCでの学習歴を用いて既存の大学の学士課程への編入学をあっせんしている(本サイト2017年6月21日掲載記事)。学生はまず1~2年間をMOOCで学習し、その後Kironが協定を結んでいるパートナー大学が最大60ECTS単位(フルタイム学習1年相当)を認定する。さらに2年間パートナー大学で学習することで、学生はその大学から学士が授与される仕組みとなっている。
MOOC学習評価の7つのポイント
正規の学習歴としてMOOCを評価するために、レポートでは下記7つの観点を挙げている。
観点1:学習プログラムの質
教育提供者の位置づけ(例:正規の大学、政府機関、私企業)、第三者によるMOOCの扱われ方(例:採用時に評価されているか)、内部/外部質保証制度の存在などを調べる。
外部質保証の例として、米国高等教育アクレディテーション協議会(CHEA: Council for Higher Education Accreditation)は、MOOCプラットフォームなど新たな形態の教育を提供する機関に対して、その教育の質を評価するサービスを提供している(本サイト2017年10月18日掲載記事)。
観点2:証明書の審査
実際にそのMOOCが提供されたか、その証明書は偽造されてないかなどの事実関係を調べる。
観点3:学習プログラムのレベル
提供された教育のレベルを確認する。具体的には、受講資格、証明書の名称、受講対象者、受講後の進路、学習成果などを調べる。
観点4:学習成果
学習成果が明記されている場合は、自国で同様の成果が得られる教育がないか調べる。また、修了につながる試験の方法(観点6)や申請者個人の情報と併せて学習成果を考慮する。
観点5:学習負荷(workload)
MOOCの学習に要する時間数は、1時間程度から1学期以上のものまで様々である。また、証明書の内容も単なる参加証から、最終試験に合格した修了証まである。そのため、学習負荷が明記されているか、単位に換算されているか、どの程度のコンピテンシーが証明されているか、さらなる進学機会や正規教育の一部免除があるか、などを調べる。
教育の一部免除として、エクセター大学がFuturelearnというプラットフォームで提供するMOOCを修了すれば、イギリス勅許公認会計士の試験科目の一部が免除される(本サイト2014年4月30日掲載記事)例がある。
観点6:学習結果の確認方法
MOOCでは学習成果の達成度を測るために、何らかの試験が行われることが一般的である。ただし試験手段もオンラインや実地試験の場合があり、試験を一切行わない講座もある。
試験の方法には、①講座に参加するだけで修了する(無試験)、②個人の進捗を確認する、③設定された学習成果への到達を確認する、④学習成果の達成度合いを確認するものに分けられる。
観点7:人物の確認
証明書上の人物と、MOOCに参加し試験を受けた人物の同一性を調べる。そのため、MOOCプラットフォーム登録時の本人確認要件、各講座登録時の本人確認要件、試験時の本人確認要件を調べる。
MOOC学習の評価方法
レポートでは、上記7つの観点それぞれで「信号機モデル」の評価をすることが推奨されている。この方法では、評価したいMOOCで各観点がどれだけ高く評価できるか、信号機のように3段階(色)で評価を行う。すべての観点で青信号である必要はなく、最終的な判断をする際の参考として活用する。
多様な学習の認定のための提言
PARADIGMSプロジェクトは、MOOCを含めた多様な学習の認定を支援し、学生や労働者の流動性が高まることを望んでいる。そのため、外国資格を審査する者とMOOCでの教育提供者それぞれに向けて以下の提言をまとめている。
外国資格の審査担当者向け提言
- MOOCの評価は上記7つの観点で行う
- 評価には信号機モデルを用いる
- MOOCの評価は、学位との関連性に照らした3つの分類を用いる
- 申請者が得たコンピテンシーを学術一般、専門、個人の資質の視点で考慮する
- 信頼できるMOOCやそのプラットフォームのリストを作成する