2017年5月16日、欧州委員会の共同研究センター(Joint Research Centre)は移民及び難民のためのフリーデジタルラーニング(FDL:Free Digital Learning)に関する報告書を公表した。報告書では、移民及び難民のためのFDLについて以下のように定義している。
“あらゆる教育レベル(初等、中等、高等)でのあらゆる学習活動(フォーマル、インフォーマル、ノンフォーマル)について、情報機器(コンピュータ、タブレット、携帯電話、アプリ)で利用可能(オンラインまたはオフライン)な無償の教育”
報告書によると、高等教育におけるFDLの提供において、欧州高等教育圏(EHEA)の基準に適合させるためには、ボローニャプロセス※1(学位認定、質保証及び資格枠組み)や透明性ツール(学習成果、欧州単位互換制度(ECTS))の取組みが不可欠であり、パートナー大学や各国当局と協力し、これらの取組みを導入すべきであるとしている。
また、欧州の大学は難民の受入れに強い関心を示しており、現在のシリア難民等が数多く流入している現状をキャンパスの国際化の機会として捉えている。多くの大学は難民向けのFDLプロジェクトとの連携を望んでいるが、FDLを開発するための資金や人材が不足していることが課題となっている。
以下では、ECTS(NIAD-QE国際課まとめ)を活用したドイツのFDLプロジェクトを紹介する。
Kiron Open Higher Education
Kironは、デジタルソリューションを通じて、難民の高等教育へのアクセスと効果的な学習の提供を目的としたFDLプロジェクトである。Kironはクラウドファンディング及び個人の寄付によってプロジェクトを開始し、現在はドイツ政府や企業等からの支援も受けている。
Kironのアカデミックモデルでは、最初の1〜2年はMOOCsを利用したオンライン学習を行う。Kironはパートナー大学(41大学、2017年6月15日時点)と事前学習の認定に関する協定を結んでおり、Kironのオンライン学習で取得した単位を、ECTSに従って60ECTS単位までパートナー大学の単位として互換することができる。その後、Kironの学生はパートナー大学に入学し、そこで残りの約120ECTS単位を取得することで、パートナー大学から学士号を取得する機会を得ることができる。
Kiron, The academic model
難民の就学率
欧州では移民及び難民が増加しており、彼らのための教育機会の提供が求められている。移民及び難民にとって、教育はそれぞれの受入国での言語能力や知識の向上、就業において重要な役割を果たしている。国際連合によると、世界の初等教育就学率は90%を越えているが、難民の初等教育就学率は50%にとどまっており、高等教育就学率はわずか1%となっている(世界の高等教育就学率は34%)。
※1 ボローニャ宣言から始まった欧州における高等教育システムの改革に関する一連の流れ(参考:NIAD-QE国際課まとめ)。
原典:Free digital learning opportunities for migrants and refugees
原典:Kiron, The academic model