2017年5月3日、豪州政府は「高等教育改革パッケージ(Higher Education Reform Package)」を公表した。この改革は、高等教育セクターの持続可能な発展と高等教育における透明性やアカウンタビリティを高めるとともに、学生が成功するためのより良い選択と機会を提供することを目的としている。
教育サービスは豪州で3番目に大きな輸出産業であり、そのなかで高等教育は大きな比重を占めている。しかし、2016年の連邦政府補助金(Commonwealth Grant Scheme:CGS)は2009年から71%増加しており、GDPの伸び率の2倍以上の増加となっていることから、高等教育予算の持続可能性が危惧されている。そのため、本改革では、連邦政府補助金(CGS)の削減やパフォーマンスベースによる補助金の配分、大学の財務データの収集方法等、財政面での改革が中心となっている。
CGS及びGDPの推移
主な改革内容
高等教育セクターの持続可能な発展
- 2018年から4年間、実質的な学生の授業料にあたる学生分担金(student contribution)の上限を毎年1.8%ずつ引き上げる。また、2018年7月から、高等教育融資プログラム(Higher Education Loan Program :HELP)の新しい返済基準を導入する。
- 連邦政府補助金(CGS)は、学生分担金の増加分に相当する金額を削減する。また、2018年と2019年のCGSは、それぞれ2.5%の効率化削減を実施する。
- 2018年1月から、一部の者を除く※1オーストラリア永住者及びニュージーランド国民は、連邦政府支援枠(Commonwealth Supported Place:CSP)の対象外となり、授業料納付学生(fee paying students)として入学することとなる。そのため、HELPを利用することが可能となり、授業料の前納は必須ではなくなる。
HELPの返済基準(制度変更前後の比較)※返済金額は年収×返済率
学生へのより良い選択と機会の提供
- 連邦政府は4年間で1,500万豪ドルを拠出し、遠隔地で学習する学生のための学習スペースやIT環境等の設備と、学生支援や学術的サポートを提供する地域教育拠点(Regional study hub)の設立と維持(最大8拠点、現在2拠点)を支援する。
- 社会経済的に不利な地域の学生の高等教育進学を支援する高等教育参加協力プログラム(Higher Education Participation and Partnerships Program:HEPPP)の改革を行い、2018年1月から、高等教育機関に対して、社会経済的に不利な地域から進学した学生数に応じた補助金の交付と、当該学生の学位取得率の向上に応じたパフォーマンスベースの配分を補助金の約10%に適用する。
- 2019年1月から、各大学に割り当てられた大学院連邦政府支援枠(postgraduate CSP)を削減し、学生が希望する大学で削減された大学院連邦政府支援枠と同等額に相当する支援を受けることができる新しい奨学金制度を導入する。
- 職業統合学習(Work Integrated Learning:WIL)※2は学生の就業準備に大きな役割を果たし、多くの教育課程において特色となっているものの、現在、連邦政府補助金(CGS)の対象ではなく、WILを提供する機関へのインセンティブはほとんどない。そのため、2018年1月1日から、連邦政府が支援する資格の単位取得について、WIL提供機関に対して一定の財政支援を行う。
透明性とアカウンタビリティの向上
- 2018年1月から、連邦政府は大学への補助金(CGS含む)の7.5%に相当する約5億豪ドルをプールし、パフォーマンスベースの配分を行うことで、教育研究費の透明性とアカウンタビリティを向上させるとともに、教育の質向上を促す。パフォーマンスを測定する指標は、高等教育セクターと協議のうえ決定する。
- オーストラリア高等教育質・基準機構(TEQSA)は、高等教育機関の監査やモニタリング等を行い、高等教育機関への入学の透明性を確保するためのガイドライン案を作成する。
- 教育訓練省は2017年に大学協会等のステークホルダーと協議を行い、大学の財務データの収集方法を確立する。収集したデータはQILT(The Quality Indicators for Learning and Teaching,本サイト2015年10月5日掲載記事)で公開する。
- 政府は2018年末までに、オーストラリア資格枠組(AQF)の見直しを行う。優先事項として、高等教育への入学基準と必要な準備についての検討を行う。
※1 Permanent Humanitarian Visaを所有するオーストラリア永住者及びNew Zealand Special Category Visaを所有し特定の長期居住要件を満たすニュージーランド国民
※2目的を持って設計されたカリキュラムにおいて理論と職業実践とを統合したアプローチ及び戦略の総称,Patrick et al.(2009)