MOOCsの質保証、学習成果の評価はどのように実施されるのか?―米国クオリティ・プラットフォームの例

米国高等教育アクレディテーション協議会(Council for Higher Education Accreditation: CHEA)は、2017年9月7日、「新たな」高等教育提供者1を対象とした質保証事業であるクオリティ・プラットフォームにおいて、2015年に実施したDeTao社の評価(本サイト2016年2月25日投稿記事)に関する報告書“Research on the Assessment of Student Learning Outcomes: Practical Exploration of the Review of CHEA/CIQG Quality Platform Provider”を公表した。

クオリティ・プラットフォームは、クオリティ・プラットフォームが設ける評価基準を用いて、新たな形態の教育を提供する機関が自己評価を行い、専門家によるピアレビューを受けるというプロセスで行われる成果ベースの評価である。被評価者のDeTao社は3つの教育プログラム2を提供しており、このうち今回の評価では、上海視覚芸術学院からの学位取得が見込める上級クラス(Advanced Class)3プログラムが対象となった。

クオリティ・プラットフォームの評価手順

2015年4月 クオリティ・プラットフォームへの申請
2015年6月 ワークショップの開催
 DeTao社の自己評価における評価基準の扱い方についての指導や、学習目標に関する既存の資料の確認などを行う。

2015年9月 自己評価書の提出
 自己評価書は、(1)提供者の情報、(2)クオリティ・プラットフォームの基準に合致している根拠、(3)添付資料から構成される。

2015年10月 専門家パネル4による評価作業
 自己評価書の分析、及び自己評価書だけでは判断できない点を整理する。

2015年11月 訪問調査
 専門家パネルが訪問調査を実施し、クオリティ・プラットフォームの基準に合致しているかどうかを判断する。

2015年12月 評価結果の送付

1.クオリティ・プラットフォームの評価基準

クオリティ・プラットフォームにおける評価基準は次の4つのみであり、学習成果5の根拠の提出を強く求めている点に特徴がある。
 

基準 求められる根拠
(1) 学習成果が明示され、達成されている。 ・全ての学生や提供するプログラムのための、学習成果の期待値が開発され入手可能になっていることを示す資料。
・特定された学生の学習成果、コンピテンスやその他の特性を示す資料。
・教員の業績、カリキュラムの内容、学生の達成状況等に係る判断基準の説明。
(2) 学習成果が中等教育後レベルの学習の期待値に合致している。 ・学習成果が中等教育後レベルであるとみなす根拠の説明。例えば、他の機関が提供している中等教育後学習との比較など。
(3) 取得した単位を移転できるようにカリキュラム設計がなされている。 ・提供するプログラムを通じて学生が広範な教育目標を達成できることを示す資料または説明。
・提供するプログラムが、一般的に高等教育として認識されているカリキュラム内容に関連したものであることを示す資料。
(4) 透明性が維持され、比較可能性が確立されている。 ・当該教育機関、及び他の同様の教育機関が発行した学生の達成状況に関する資料。
・学生個人及び集団の学習成果の観点から見た機関の成果に関する情報が、学生及び一般に対して提供されている。
2.学習成果の評価の特徴

クオリティ・プラットフォームにおける学習成果の評価では、教育機関の持続的な発展を促進することを目的として、OPPTTCモデルを採用している。OPPTTCモデルとは、学習成果(Outcome)、成果物(Product)、過程(Process)、単位の移転性(Transformation)、透明性(Transparancy)、比較可能性(Comparability)を評価の鍵とするアプローチである。その中でも、次の4点を重点的に評価している。

(1) 実際の学習成果及び期待される学習成果
実際の学習成果と期待される学習成果の関連について、カリキュラム及びシラバスを基に面談を行う。
DeTao社の評価では、訪問調査時に13のコースの目的とDeTao社全体の教育目的との関連について面談を行った。

(2) 学習の成果物
教育による効果ではなく、学習による効果を評価する。例えば、①学生の行動、学習態度、価値判断、経験(インターンシップ含む)の観測、②学生の技能、能力、成果に関する自己評価、③学生の卒業論文や研究プロジェクト、④卒業後の進学状況、就労状況の追跡調査、⑤卒業生、企業、雇用者からのフィードバックなどを評価する。
DeTao社の評価では、同社が作成した、産業界から必要とされるコア・コンピテンスの「パフォーマンス・グリッド6」が奨励された。

(3) 学習のプロセス
機関によるプログラムの作成、教員による知識の移転、学生による知識・能力の取得及びその応用という一連のプロセスを評価する。
DeTao社の評価では、学生ポートフォリオの分析を導入し、学生の学習プロセス全体を重視するようアドバイスがなされた。

(4) 価値を付与する学習の開発
学習活動の前後での、学生の価値の増大に注目して評価を行う。
DeTao社の評価時点ではまだ学生が卒業年次を迎えていなかったため、この点の評価は見送られた。

※1 「新たな」教育提供者とは、MOOCs(NIAD-QE国際課まとめ)など革新的な形態で教育を提供する民間企業やその他団体のこと。
※2 発展クラスプログラム、オンライン+教室学習プログラム(O+O(Online and Onsite) Learning)及び産業訓練プログラム(Industrial Training)。
※3 発展クラスプログラムは、学士レベルの教育を提供することを目的とした4年間のプログラムであり、2013年に戦略的デザイン・イノベーション専攻、創造アニメーション専攻の2つの専攻で学生募集を開始した。同プログラムには2017年時点で延べ684名の学生が在籍しており、2017年1月に最初の卒業生40名を輩出した。
※4 CHEA/CIQGがコーディネーターとなって組織する、国際的な評価チーム。HKCAAVQの機構長をリーダーとして、オランダ・フランダースアクレディテーション機構(NVAO)やYunnan Higher Education Evaluation Center(YHEEC)から評価者が派遣された。
※5 この報告書でいう学習成果とは、学生がコース、プログラム及びその他の学習活動を通じて身に付けた包括的な能力、又は取得学位をいう。あるいは、期待される知識や理解力、行動力や価値判断、実践的なスキル、獲得した能力のこと。
※6 2つのコンピテンスについて、縦軸及び横軸がコンピテンスの高低を示し、各コンピテンスのレベルごとに、縦軸に対して横線を、横軸に対して縦線を引いて区切られた各象限に、段階的にコンピテンスの達成レベルを割り振り、達成レベルの説明を記載した図。マネジメント分野等で使用されている(例: Ready to Managementウェブサイト)。

原典①:CHEA(英語)
原典②:CHEA(英語)

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