韓国教育部は、2022年12月に開催した2つの委員会(第3回大学規制改革協議会、第9回大学基本能力診断制度改善協議会)にて、大学の自律的な革新を支援するための様々な規制改革を行うこと、及び大学に対する評価体系を改編する方針を固めたことを発表した。これにより2015年から2021年まで実施された大学基本能力診断評価については廃止される見込みとなった。
【背景】大学基本能力診断評価と一般財政支援大学
韓国教育部は、急激な学齢人口の減少に備え、大学の量的規模の縮小を目的に、2015年から3年ごとに大学基本能力診断評価を実施し、大学の構造改革に積極的に取り組む大学に対してインセンティブを与えることなどにより、2023年までに大学定員の16万人削減を目指している。2021年9月3日に教育部は第3周期の大学基本能力診断評価の結果を発表し、一般大学136校・専門大学97校が「大学/専門大学革新支援事業」補助金の交付対象として選定された一方で、選定されなかった大学(未選定大学)は52校あった(本サイト2021/11/1投稿記事)。その後、未選定大学を中心に反発があったこともあり、2022年には追加の評価が行われ、13大学(4年制大学6大学、専門大学7大学)が追加選定された。(本サイト2022/7/25投稿記事)。
大学基本能力診断評価の概要については当機構「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 韓国」pp.15-18を参照のこと。
大学基本能力診断評価の廃止
12月15日に開催された第9回大学基本能力診断制度改善協議会では、2015年より実施されてきた大学基本能力診断評価について、受審する大学の評価対応負担の大きさや、同評価は画一的な評価方法となっており大学ごとの特性を反映していないという現場からの批判※1を踏まえ、大学基本能力診断評価に代わる新たな評価体系を導入することを固めた。
※1 韓国大学教育協議会(KCUE)は大学基本能力診断評価について「大学やその所在する地域の特性を考慮しない、画一的な評価」と評し、制度改変を訴えていた(本サイト2022/4/26投稿記事)。
これにより、2015年以降3年周期で実施されてきた大学基本能力診断評価は廃止となる見込みである。同協議会の評価試案によれば、直近の2021年評価による一般財政支援期間の終わる2025年より実施される新たな評価体系では、既存の評価と新たな評価を組み合わせることが計画されている。
- ✓既存の評価として、KCUEが実施する大学機関別評価認証※2及び韓国専門大学教育協議会(KCCE)が実施する専門大学機関別評価認証が用いられ、この評価で未認証となった大学は「大学/専門大学革新支援事業」による一般財政支援を受けることができない。
※2 KCUEの大学機関別評価認証の概要については本サイト2022/2/4投稿記事、及び当機構「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 韓国」pp.19-20を参照のこと。
以上のように、新たな評価体系では2つの評価システムの結果を活用し、そこで基準を満たさなかった大学のみが一般財政支援を受けることができない仕組みとなる見込みである。
2021年(追加評価2022年)に実施された大学基本能力診断評価で一般財政支援を受けられなかった39大学のうち実に38大学は私立大学であったこともあり、新たな評価体系では私立大学については毎年の財政診断を通して厳格なチェック体制を維持する一方、国公立大学に対しては機関別評価認証の最低基準を満たしている限りは一般財政支援を行うという、設置種別による対応の違いが見られる。
また現在国会審議中の「私立大学の構造改善支援に関する法律案」には、経営危機にある大学に対して教育部長官が構造改革命令を出せるようにすることや、改善の見込みが乏しい大学が廃校や他の公共機関への転換を行う際の、財産の処分などを円滑化する特例に関する内容が盛り込まれている※5。
※5 現状大学が財産の処分を行う際には、教育部の承認を受ける必要があり、これにより大学の財産処分が円滑に進んでいないという意見も聞かれる(参考:University’s Line)。
今後は、同協議会で策定された評価体系案について大学からの意見収集後、2023年初頭に確定版の評価方針が発表される予定である。
大学設立・運営基準「4大項目」の緩和、大学定員調整自律化
併せて12月14日に開催された第3回大学規制改革協議会では、大学が自律的に構造改革を行うための規制緩和を行う方針が打ち出された。具体的には、大学の設置や、学科の新設・廃止、定員の調整の際などに充足しなければならない4大項目(校舎面積、校地面積、教員数、収益用基本財産)について、これらの要件を緩和することなどを通して、オンライン授業拡大、産学連携、大学間共同研究など大学が自らの特色を強め、学生数減少の課題を自律的に克服するための構造改革を支援していく計画となっている。教育部はこの規制緩和を実現するため、上記4大項目について規定した「大学設立・運営規定」の改定案を12月29日に立法予告した(参考:教育部)。
原典:教育部(韓国語)