2022年10月、新たな「教育卓越性・学習成果評価枠組み(TEF:Teaching Excellence and Student Outcomes Framework)」(以下、「TEF2023」)の手引きが発表された。TEFはイングランドの学生局(OfS:Office for Students)が実施する機関別評価制度で、制度の見直しに向けて数年間協議・検討が行われてきた。従来の制度から、評価結果の有効期間や評価の観点等が改定となる。
■TEFとは
TEFは、教育、学習、学生の成果の卓越性について奨励することを目的とした高等教育機関の機関別評価制度である。2016年に教育省によって導入され、OfSがイングランドを中心として実施している。受審は任意だが、2019年8月以降、OfSの高等教育機関登録制度※1の登録要件※2B6で、一定の条件を満たす機関(後述の「受審対象機関」を参照)は受審が必須となった。
受審した機関は、「金・銀・銅」の色で格付けされ、称号が与えられる。また、色を問わず、TEFの称号を獲得したイングランドの機関には、基準額を超えて上限額まで授業料を引き上げることができるインセンティブがある。2022年の基準額及び上限額は政府によって公表され、OfSのウェブサイトにも掲載されている。
◇ 従来のTEFの詳細については、「英国の高等教育・質保証システムの概要」(大学改革支援・学位授与機構、2020年3月刊行)pp.37-38を参照。
TEFに関連するのは、登録一般要件(A~G)のうち「B:すべての学生に向けた教育の質、信頼できる基準、高い学習成果」で、BはB1~B8の8項目で構成されている。本記事で取り上げるB1・B2・B4・B6は登録継続のための一般要件、B3は新規登録及び登録継続のための一般要件に当たる。
■制度改定の経緯
2019年、TEFを従来の機関別評価から2021年に分野別評価へ移行することが発表され、準備が進められていたが、外部有識者及び教育省の方針案を踏まえ、高等教育機関の負担の大きさを理由に、現段階では導入されないこととなった(詳細は本サイト2021/8/3掲載記事)。検討の経緯は以下のとおり。
- 2019年8月:ラフバラ大学学長やイングランド高等教育財政カウンシル(HEFCE)評議員等を歴任したShirley Pearce氏が、TEFの外部レビュー「Independent Review of the Teaching Excellence and Student Outcomes Framework (TEF)」を実施し、教育省に対して報告・提案。
- 2021年1月:教育省が外部レビューに対する返答として、方針案「Government response to the independent review of the Teaching Excellence and Student Outcomes Framework (TEF)」を公開。
- 2022年1月~3月:OfSが具体的な方針案を公開し、コンサルテーションを実施。
- 2022年7月:OfSがコンサルテーション結果を公開。
- 2022年10月:OfSがTEF2023の概要を公開。
■TEF2023
手引き
OfSは、TEF2023に関する評価方法や受審対象機関、スケジュール、提出物等をまとめた手引きを公開した。大学、カレッジ及びTEFパネル向け「Regulatory advice 22: Guidance on the Teaching Excellence Framework (TEF) 2023」と、学生向け「Teaching Excellence Framework : Guidance on student submissions」の2種類がある。
受審対象機関
OfSの高等教育機関登録制度の登録要件B6により、以下のすべての条件を満たす高等教育機関は、TEF2023の受審が必須となる。
- イングランドの大学及びカレッジ
- OfSの高等教育機関登録簿に登録されている
- 500人以上の学部生が在籍している
- 500人以上の学生を分母としたTEF指標が2つ以上ある
登録要件B6が適用されない高等教育機関、及びスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの機関については、TEFの受審は任意である。
評価対象のコースを実施しており、関連する高等教育財政機関や規制機関の質と基準に関する要件※3を満たしていることが、TEF2023の受審及び付与された格付けの維持の要件となっている。
- イングランド:学生局(OfS)の高等教育機関登録制度の登録要件B(※1、2参照)
- スコットランド:スコットランド財政カウンシル(Scottish Funding Council:SFC)の質向上枠組み(Quality Enhancement Framework:QEF)
- ウェールズ:ウェールズ高等教育財政カウンシル(Higher Education Funding Council for Wales)の質向上レビュー(Quality Enhancement Review)または初回質レビュー(Gateway Quality Review (Wales))
- 北アイルランド:北アイルランド経済省(Department for the Economy in Northern Ireland:DfE(NI))の年次プロバイダーレビュー(Annual Provider Review)
従来のTEFとの比較
表1:従来のTEFとTEF2023の概要

① 名称
変更なし。
② 評価結果(格付け)
「金、銀、銅」の称号に変更なし。従来の「条件付き(Provisional Awards)」は、TEFを受審したが称号は付与されなかったことを示す「要改善(Requires improvement)」に変更。
※教育省の方針案(2021年1月):格付けを4段階に変更して新たな名称を検討するとされていた。
③ 評価結果の有効期間
従来の1~3年間から、4年間に変更。
④ 評価の観点
従来の3つの観点から2つの観点に変更。今回から新たに2つの観点別の格付けが開始され、その評価結果を基に機関全体の格付けが決定される(表2)。観点の内容及び対応する登録要件は表3のとおり。登録要件をどの程度上回っているかが評価される。
※教育省の方針案(2021年1月):「Student Satisfaction(学生の満足度)」の代わりに「Student Academic Experience(学生の学術体験)」にすること、「Student Outcomes(学生の成果)」を格付け判定時に特に配慮される事項(Limiting Factors)とすることが示されていた。
表2:機関全体の格付けと観点別の格付け⑴・⑵との関連

表3:TEF2023 の評価の観点と登録要件との関連

それぞれの観点の評価は、受審機関によるエビデンス、学生によるエビデンス(任意)、OfSが示すTEF指標(表4を参照)に基づいて行われる。各高等教育機関のTEF指標は、OfSのウェブサイト内にあるTEFデータダッシュボードから確認できる。
NSSについては賛否両論があり、オックスフォード大学学生連合(Oxford University Student Union)等、一部の組織は、TEFの格付けのインセンティブとして授業料の引き上げが可能になることや、NSSで収集されるデータが教育の競争市場を形成することに反対して、NSSのボイコットを呼びかけている。
表4:TEF2023の指標と参照データ

TEF2023のプロセス
表5

参考:TEFの動向
- 英国のビジネス・イノベーション・技能省が教育卓越性枠組の制度案を提示(本サイト2015/12/21掲載記事)
- 英国の高等教育委員会が学生データ等の有効活用に関する提言を発表(本サイト2016/3/14掲載記事)
- ビジネス・イノベーション技能省が政策文書の中で教育卓越性枠組(TEF)の具体的な制度案を提示(本サイト2016/6/13掲載記事)
- QAAが、デジタル技術の活用による教育の質向上に関する報告書を公表(本サイト2016/11/8掲載記事)
- 英:教育卓越性枠組(導入2年目)の概要について(本サイト2017/3/28掲載記事)
- イギリスで教育卓越性枠組(TEF)の評価結果が公表(本サイト2017/8/9掲載記事)
- 留学先の選び方が変わる?イギリスが分野別TEFを試験的に導入(本サイト2017/10/10掲載記事)
- イギリス:2018年 学生局(OfS)設立に伴う新たな質保証機関の選定について(本サイト2017/11/21掲載記事)
- イギリス:TEF2018の大学評価結果(金・銀・銅)公開ー授業料にも影響が(本サイト2018/9/28掲載記事)
- 英国TEF2019が金銀銅で大学・カレッジを格付けー次回から分野別評価(本サイト2019/7/23掲載記事)
- イギリスTEFが分野別評価への移行を見送り:格付け名や評価サイクルは変更に(本サイト2021/8/3掲載記事)