イギリスの「教育卓越性・学習成果評価枠組み(TEF: Teaching Excellence and Student Outcomes Framework)」が転換期を迎えている。TEFは、国の最低要件を満たしていることを前提に、イギリスの各高等教育機関の教育と学生が得られる成果の卓越性を評価する制度である。2019年、従来行われてきた機関別評価から2021年に分野別評価へ移行することが公表され、準備が進められていたが、外部有識者によるレビューの結果、機関別評価が継続されることとなった。
従来のTEFとは
TEFは2016年に教育省(当時)により導入された評価制度で、イングランドの学生局(OfS:Office for Students)が主体となって実施している。高等教育機関の受審は任意であるが、2019年8月以降はTEFの受審がOfS の高等教育機関登録制度の登録継続要件の1つ(要件B6)となっている。
従来のTEF は、各高等教育機関における教育及び学習の卓越性を、「金・銀・銅」の色による格付け(称号の付与)を通じて明らかにすることで、学生の大学進学先の選択等に役立つ情報を提供してきた。また、称号の有効期間は1~3年の中から高等教育機関が提出したデータの年数分により決定された。
(※詳細は『英国の高等教育・質保証システムの概要(第3版)』、pp.37-38)
前回(2019年度)時点での決定事項
TEFは前回(2019年度)まで毎年機関別(provider-level)で行われてきたが、次回の変更点として2学年度(2019-20、2020-21)にわたって実施すること、分野別(subject-level)で実施することが決定していた。分野別評価は学問分野ごとでの高等教育機関の比較が可能であるため、専攻分野を決めてから進学先を選択することが一般的とされる受験生に、より有益な情報を提供できることが期待されていた。
なお、分野別評価の開始に向けて、OfSは2017-18年度と2018-19年度に分野別評価を試行(当サイト2017/10/10投稿記事)し、準備を進めてきた。また、教育省は1回目の分野別評価の結果が公表される予定だった2021年までに、これまで機関別評価で付与したTEFの称号の有効期間が終了するよう調整していた。
(※詳細は当サイト2019/7/23投稿記事)
外部レビューの結果による方針転換
2019年1月~8月にかけて、ラフバラ大学元学長でイングランド高等教育財政カウンシル(HEFCE)評議員等を歴任したShirley Pearce氏が高等教育・研究法に基づきTEFについて独立したレビューを行い、教育省に対する提言をまとめた。これを受け、教育省は2021年1月に『Government response to Dame Shirley Pearce’s Independent Review of the Teaching Excellence and Student Outcomes Framework (TEF)』を発表し、同氏の提言をおおむね受け入れること及びTEFの新たな方針案を公表した。2021年6月現在、OfSは教育省の方針等に基づき、新TEFの具体案を検討している。
教育省が公表したTEFの新たな方針案等(抜粋)
〇現時点で高等教育機関に多大な負担をかけずに分野別評価へ移行することは不可能なため、分野別評価への移行は行わず、今後も機関別評価を行う。同様の理由から、評価サイクルも毎年から4~5年ごとに変更する。
〇従来の機関全体としての格付けに加えて、教育の質に関する4つの観点ごとの格付けも行う。
※外部レビューではTeaching and Learning Environment、Student Satisfaction、Educational Gains、Graduate Outcomesを観点とすることが提案された。ただし教育省は、教育の質や学問の難易度を下げることで簡単に獲得できる可能性があるStudent Satisfactionを基準として採用することに難色を示しており、Student Academic Experience の方がより適切だと表明している。
〇従来の格付け「金、銀、銅」の称号ではなく、卓越性の違いがより際立つ名称に変更する。また、従来の3段階から4段階の格付けに変更する。
【参考】外部レビューチームが提案した新たな称号の名称(上のランクから)
Outstanding、Highly Commended、Commended、Meets UK Quality Requirements(※ただし、今後、変更の可能性あり)
〇教育省は判定に用いられるデータの頑健性を確保するようOfSに指示している。また、これまでTEFでは全国学生満足度調査(NSS)のデータを判定に用いてきたが、教育省は調査に伴う高等教育機関の負担の軽減等を目的に、2020年9月に OfSに対して同調査のレビューを行うよう指示を出している。レビューの結果は今後のTEFにおける同調査の役割に大きな影響を与えることとなる。
〇格付けの判定の際、特に配慮される事項(Limiting Factors)について、教育省は学生の成果(Student outcomes)を採用することを重要視している。例えば、もし学生の成果が思わしくない場合には、当該高等教育機関はTEFで高い判定を受けるべきではないとしている。
今後の新TEF開始までの流れ(予定)
・OfSは2021年夏に新TEF案を公開し、秋にコンサルテーションを行う。
・2022年夏に評価の申請の受付を開始し、2023年初頭に新TEFの評価結果を公表する。
現在保持するTEFの称号の取扱について
現在高等教育機関が保持しているTEFの称号の有効期間は2021年夏に一律に終了することになっていたが、制度変更に伴い2023年まで延長される。ただし、OfSは高等教育機関に対し、2021年秋以降については、延長されたTEFの称号を広報や新入生向けの宣伝に使用するべきではないと勧告している。