2025年9月17日、香港特別行政区の李家超(John Lee)行政長官は、今後1年の施政の重点項目を示す「2025年 施政報告(施政方針演説)」(The Chief Executive’s 2025 Policy Address)を行った。報告の中で、高等教育政策について、香港は世界大学ランキングの上位100位内に入る大学を5校※1擁するという強みを生かして、中等後教育の国際的ハブとなり、国際高度人材が集まる地域へと発展させると表明した。また、北部都会区※2の学園都市(中国語原語:北都大學城)の建設を加速させ、中国本土の学生を含む香港外の学生枠を拡大し、「Study in Hong Kong」(中国語原語:留學香港)ブランドを広め、応用科学大学の発展を推進すると述べた。
【用語解説】
- 中等後教育(post-secondary education):香港では中等教育後の教育を行う機関について「中等後教育機関(post-secondary education institutions)」の名称が用いられる。中等後教育機関には、香港政府大学教育資助委員会(University Grants Committee:UGC)又は香港政府から公的助成を受ける機関、自己資金で運営する(self-financing)私立教育機関がある。
- 応用科学大学(Universities of Applied Sciences):実践型・職業志向の教育を中心に行う大学。2023年の「施政報告(施政方針演説)」で応用科学大学の設置が表明され(本サイト2023/12/5投稿記事)、2024年3月に香港都会大学(Hong Kong Metropolitan University)、2024年11月に聖方済各大学(Saint Francis University)が香港教育局から応用科学大学として承認された。
※1 QS World University Rankings 2026(2025年6月発表)では、香港大学(11位)、香港中文大学(32位)、香港科技大学(44位)、香港理工大学(54位)、香港城市大学(63位)の5校が100位以内に入っている。Times Higher EducationのWorld University Rankings 2026においてもこれら5大学が100位以内にランクインしている。
※2 北部都会区(Northern Metropolis)とは、香港政府が計画中の都市開発地区。中国本土の深圳に隣接する地区に、産業・居住・教育施設等を備えた都市を建設する計画である。
香港では、2023年の施政報告(本サイト2023/12/5及び2024/1/10の記事参照)において、中等後教育における中国本土の学生を含む香港外の学生枠の拡大、応用科学大学の推進等の政策が表明されて以降、政策が進められているが、今回の施政報告ではこれらの政策をさらに推進する内容となっており、具体的な方策として、以下が挙げられている。
香港外の私費学生の受け入れ枠を拡大
▫中国本土を含む香港外の私費学生からの出願数は毎年二桁の伸び率となっており、2026/27年度から、公的助成を受ける各中等後教育機関において私費で学ぶ香港外の学生の受け入れ人数の上限を引き上げる。これまで香港の学生数の40%としていた※3ところを50%とする。
▫公的助成を受ける教育機関の大学院プログラムの私費学生の定員超過について、超過可能な上限を定員数の100%までとしていたところを120%までに引き上げる。
▫香港の学生を対象に提供される毎年15,000人分の助成は減らさない。香港の学生の入学者人数も変更しない。
※3 2024年に20%から40%に引き上げた。
学生寮の供給を拡大
▫香港政府は2025年7月に「都市型学生寮計画」(原語:城中學舍計劃 Hostels in the City Scheme)を開始し、これにより、既存の商業ビル(ホテルを含む)を学生寮に改装する際、用途変更の手続きを不要とするとともに、商業ビル同様に容積率の超過を認めることとした。
▫今後は、既存の商業ビルを取り壊して新築する学生寮についても、この計画の利便措置の対象とし、容積率の超過を認める。
▫さらに、政府は年内に新たな商業用地やその他の土地を学生寮建設用地として確保し、事業者等に対し意向書の提出を募る予定である。
海外の教育・研究人材と学生を誘致
香港教育局内に「Task Force on Study in Hong Kong 留學香港專班」を設立し、大学教育資助委員会(UGC)、イノベーション・テクノロジー局、香港人材サービスオフィス、中等後教育機関、海外経済貿易事務所、中国本土の事務所等と連携して、香港の高等教育を積極的に広報する。
- 「Hong Kong: Your World-class Campus」と称する大規模な広報活動を展開し、香港の優れた学術・研究・国際連携のための資源を紹介する。
- UGCは4,000万香港ドル(約7億7640万円)を拠出して、UGCを通じて公的資金が配分される8大学※4の海外及び中国本土への広報活動と教員・学生の誘致を推進する。また、香港教育局は中等後教育機関による夏季留学プログラムを開催し、香港外の高校生が香港での学修を体験できるようにする。
- 中等後教育機関が高い付加価値を有する「Study Tour in Hong Kong (原語:遊學香港)」の活動※5を推進し、香港の中等後教育のブランドを宣伝する。
※4 UGCを通じて公的資金が配分される、香港城市大学、香港浸会大学、嶺南大学、香港中文大学、香港教育大学、香港理工大学、香港科技大学、香港大学の計8大学。
※5 学びと観光等教室外での体験を組み合わせた短期の教育活動のことを言う。
応用科学大学の発展を推進
▫「あらゆる業界にスペシャリストを」(原語:行行出状元 every trade has its masters)という理念の下、香港政府はすでに2校の応用科学大学(University of Applied Sciences)を承認しており、今後、応用科学大学が中国本土や海外の主要企業との連携を強化し、産業と教育の融合と協働を推進するよう促す。
▫香港応用科学大学連盟は、広東省のトップレベルの職業技術教育機関との協力を進め、グレーターベイエリア(原語:粤港澳大湾区)※6に交流プラットフォームを構築することを検討する。
※6 広東・香港・マカオをつなぐ一大経済圏。2019年に政府主導で発展計画が進められた(本サイト2019/3/26の記事参照)。
香港と中国本土との職業教育における相互認証に向けた協議
香港と中国本土の職業教育機関の卒業生がどちらの地域でも就職及び進学が容易になるよう、香港と中国本土のサブディグリーレベル※7の学歴の相互認証について、香港政府は中国本土と引き続き積極的に協議を進める。
※7 香港では、サブディグリー(原語:副學位sub-degree)とは「副学士」や「高等ディプロマ」を指す。《專上學院條例》 ( 第 320 章 ) Post Secondary Colleges Ordinance (Cap. 320) p.4
