香港:応用科学大学(Universities of Applied Sciences)の制度化へ向けた動き

2023年10月25日、香港特別行政区の李家超(John Lee)行政長官は、今後1年の施政の重点項目を示す「2023年 施政報告(施政方針演説)」の中で、若い人々への教育施策として、学術教育の推進だけでなく、職業教育の地位向上を目指して、新たに職業教育・専門教育に特化する応用科学大学(Universities of Applied Sciences)の設置に向けて制度を整備するとの方向性を示した。

これによれば、既存の自己資金で運営する中等後教育機関※1(私立中等後教育機関)のうち、所定の要件を満たした機関を発展(昇格)させるなどの方法により、応用科学大学を設けるとしている。李行政長官は、これまで低く見られがちであった職業専門教育の課程において大学の学位レベルの資格を取得できるようにすることで、香港の職業専門教育の地位の向上を図るとともに、技術職での成功を目指す若者に対し、新たなキャリアの可能性を提供するとしている。また、応用科学大学への入学においては、一般的な学業に関する成績(academic success)だけではなく、職業経験(work experience)も考慮して学生を受け入れることが目指されている。

以下では「施政報告」及び関連文書の内容を紹介する。

  • ※1 香港の教育制度と中等後教育について:
    香港の学制は、初等教育6年、前期中等教育3年、後期中等教育3年、学士課程4年の6-3-3-4制である。義務教育は、初等・中等教育の計12年間である。義務教育修了後の中等後教育(原語:post-secondary education專上教育)とは、後期中等教育を卒業した者を対象とした教育全般を指し、ここには、サーティフィケート、ディプロマ、副学士、学士、修士、博士の課程が含まれる。これらは、課程によるが、学術中心の大学等機関のほか、職業系教育機関において提供される。中等後教育機関には、香港政府大学教育賛助委員会(UGC: University Grants Committee)や香港政府から配分される公的資金で運営する機関(香港大学、香港中文大学、香港理工大学、香港科技大学等香港の主だった大学はここに分類)のほか、自己資金で運営する(self-financing)私立教育機関等がある。私立の中等後教育機関(原語:self-financing post-secondary institutions自資專上院校)は、かつては、実学を中心とした学士未満の短期の教育課程を提供していたが、近年では、学士課程プログラムを設置しているところも多い。

■「施政報告」における応用科学大学設置推進の方針

応用科学大学は、即戦力のある学生の育成に重点を置く大学であり、技術分野の関連業界と緊密に連携することで豊富なインターンシップと実践的な学習機会を提供するプログラムを提供していくとしている。政府は、香港の質保証機関の一つとして、主に自己資金で運営する私立の中等後教育機関の教育プログラムの評価(アクレディテーション)を担当する香港学術及職業資歴評審局(HKCAAVQ)と連携し、国外の事例を参考に、今後、学生募集、カリキュラム、質保証(アクレディテーション)、就職(career articulation)、産業界との連携などを含めた、応用科学大学の基準を策定する。

■「施政報告」に示された応用科学大学の普及へ向けた財政支援方針

応用科学大学が提供するプログラムのうち、要件を満たすと判断されたプログラムは、政府による「特定職業・分野のプログラムに対する財政支援スキーム(学生への助成金等)」の対象に優先的に含めることが検討される。また、応用科学大学へ発展(昇格)する資格のある私立中等後教育機関への支援として、専門技術職に関連した応用学位プログラムの開設・運営及び学生の入学インセンティブを高めるための活動に対し、追加の財政支援を行う。さらに、中等後教育機関が、香港の地域社会・保護者・学生が職業・専門教育の重要性をより良く認識するようになることを目指して「応用科学大学連盟(Alliance of Universities in Applied Sciences)」を設立する際には、立ち上げ資金も提供するとしている。

■香港政府による、応用型教育の推進に関する近年の動き

2020年12月、香港特別行政区政府は、条件を満たした大学について、実践型・職業志向の教育を中心に提供し、学士の学位(香港資格枠組み(HKQF)の Level 5)※2を授与する応用型学位プログラム(applied degree programme)を試行的に実施する「応用学位プログラムパイロットプロジェクト(応用学位課程先導計画)」を発表した。同プロジェクトの申請資格・条件は、自己資金※3による学士課程教育の実績が3年以上ある大学であること、政府が指定する人材が不足する分野から専門分野を選び、既存の課程を再編して設計すること、理論と実践の融合により、特に実習を多く提供する職業志向の内容とすることとなっている。

2021年6月に第1弾(2022年度~)として以下の4大学の4分野、2023年9月に第2弾(2024年度~)として同じ4大学の別の4分野が採択された(下表)。プログラムによっては、学歴と職務経験に応じて2年次または3年次からの編入が可能で、また、非全日制コースもあり、応用学位プログラムは、社会人に開かれたプログラムであることがうかがえる。

  • ※2 香港資格枠組み(Hong Kong Qualifications Framework)については、当機構作成「ブリーフィング資料:香港高等教育の質保証」(2015)pp.4-5を参照。
  • ※3 公的な助成(UGCや香港政府からの資金援助)を受けず、教育機関自身の資金により運営することを指す。

【採択プログラム一覧】

機関名第1弾(2022年度~)第2弾(2024年度~)
明愛専上学院  看護学栄養(優等)学士(応用学位枠)プログラム経営学(優等)学士プログラム(専攻:ホテル・ツーリズムマネジメント)
香港都会大学  総合試験と認証の優等応用理学士プログラムスポーツ・レクリエーションマネジメント優等経営学学士プログラム
職業訓練局香港高等教育科技学院園芸造園管理(優等)理学士プログラムビル設備エンジニアリング(優等)工学士プログラム
東華学院  応用ジェロントロジー(優等)理学士プログラム医療情報サービスマネジメント(優等)学士プログラム
出典:第1弾(英語/中国語)/第2弾(英語/中国語

原典①:香港特別行政区政府(英語)
原典②:香港特別行政区政府(英語)
原典③:香港特別行政区政府(英語)

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