2025年11月17日、欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)の改訂を主導する運営委員会(Steering Committee)(2025/1/6投稿記事)は「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG 2015)」改訂の初版草案に関するパブリック・コンサルテーション(パブリック・コメントの募集)を行った。(2026年1月9日締切済み)。
■ESG改訂の背景
今回の改訂は、2024年5月にアルバニア・ティラナで開催された「欧州高等教育圏大臣会合2024」での共同声明(ティラナ・コミュニケ)※1に基づき、現行のESG(最終改訂は2015年)を近年の動向、課題、そして期待に沿ったものとするため、ESGの策定者に対し2026年までに改訂案を提示することが求められたことによるものである。
本記事では、ESG改定案の解説資料(An explanatory note)に記載された「改訂における基本原則」及び改訂案の一部を紹介する。改訂案では、質保証の方針(基準1-1)、学生中心の学習、教育及び評価(基準1-3)、評価結果の報告(基準2-6)、質保証機関の独立性(基準3-2)をはじめとする近年の課題を取り上げている(かっこ内は、関連する基準)。
※1 ティラナ・コミュニケの詳細は、本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページを参照のこと。概要は本サイト2024/8/6及び2024/8/7投稿記事でも紹介している。原典は、“Tirana EHEA Ministerial Conference 29-30 MAY 2024” 公式ウェブサイトに掲載。
■改訂における基本原則:
今回の改訂プロセスは、次の基本原則に基づいて行われている。
・現行のESGの導入部分及び内部質保証、外部質保証、質保証機関の3部での構成は適切である。
・ESGに過剰にトピックを詰め込みすぎると、その強みが薄れる恐れがあるため注意が必要である。
・ESGは、学習と教授(及び評価)に焦点を当てつつ、研究や社会的使命との関連への言及をより強化するべきである。
・ESGは(ごく一部の例外を除いて)質そのものの基準ではなく、質保証のための基準であり、様々な質の概念を支えるべきである。
・ESGの基準は明確であることを確保し、ガイドラインは基準の概念を説明するのではなく、(各国や各機関の)異なる文脈に応じた実践を支援する役割を果たすべきである。
・ESGは、代替プロバイダー(Alternative provider)やマイクロクレデンシャル等のあらゆる種類の高等教育の提供において適用可能である必要がある。
■改訂案の主な内容
ESGの構成(現行版・改訂案)は、下表の通りであり、第1部:内部質保証、第2部:外部質保証、第3部:質保証機関からなる(以下の図は、ESG改訂案の解説資料(An explanatory note)を元に、当機構国際課が作成、翻訳したものである)
■主な更新内容
今回の改訂案における主な更新案の一つとして、「3-2. Official status(公的地位(法律に基づき、権限ある公的機関によって正式に質保証機関として認められている))」の削除がある。この基準の削除の理由について、解説資料(An explanatory note)では次のように説明されている。「2015年のESG最終改訂以降、(ESGへの準拠を示すことができ、)明確に信頼性の高い業務を提供しているにもかかわらず、質保証機関としての公的地位は持たない機関が増加していることが確認されている。しかしながら、こうした質保証機関が実施する活動(の一部)は、規制の枠組みの中で公的地位を有する質保証機関と同様に認められ、活用されている。また、規制上の承認を必要としない、改善に焦点を当てた外部質保証を実施している場合もある。」※2
なお、「3-2. Official status(公的地位)」は削除されたが、これに代えて「2-5. Processes and criteria for outcomes(成果に関するプロセス及び基準)」において、外部質保証機関は、自らの外部質保証プロセスの結果が、どのように、あるいは正式に認められたものであるかについて、透明性をもって情報提供することの必要性が加えられている。
なお、「3-2. Official status(公的地位)」は削除されたが、これに代えて「2-5. Processes and criteria for outcomes(成果に関するプロセス及び基準)」において、外部質保証機関は、自らの外部質保証プロセスの結果とその方法が正式に認められたものであるかについて、透明性をもって情報提供することの必要性が加えられている。
以下では、解説資料(An explanatory note)に基づき、質保証の方針(基準1-1)、学生中心の学習、教育及び評価(基準1-3)、評価結果の報告(基準2-6)、質保証機関の独立性(基準3-2)について、基準とガイドラインを抜粋して紹介する。
※2 この基準の削除の背景を示す事例の一つとして、英国高等教育質保証機構(QAA)の動きが考えられる。QAA は、イングランドの高等教育機関の規制・監督を担う学生局(OfS)の委託を受け、2018年から高等教育機関登録要件審査の一部として「質・基準レビュー」を実施してきたが、OfSの規制アプローチとQAAの質保証の方針との相違により2023年3月をもって委託業務を終了した。さらに、同年11月には、ESGに基づく新たな大学評価として、選択的質レビュー(Elective Quality Review:EQR)を開始している(2024/7/12投稿記事)。選択的質レビューは、政府から独立した地位を有するQAAによる独立した評価であり、ESGに準拠している。
第1部:内部質保証に関する基準とガイドライン
基準1-1. Policy for Quality Assurance(質保証の方針)
【主な更新】
・内部質保証の方針には、学習・教授と、高等教育機関のその他のミッションや活動との関連性を反映させる。
・質保証の方針の策定及び実施において、学生及びその他の利害関係者の参画を明示的に示す。
・ガイドラインに、高等教育の社会的側面と基本的価値(2024/8/7投稿記事)に関する記述を含める。
| 【基準及びガイドラインの該当箇所の記述の抜粋】(太字は、上記の【主な更新】に関連する記述) |
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| 基準 |
| 高等教育機関は、学習と教授の質保証に関する公表された方針を有し、関連する体制及び手続きを備えるべきである。これは、継続的改善の効果的なサイクルを形成する一貫したシステムを支えるものである。 この方針は公開され、高等教育機関の戦略的及び運営上の管理に統合されるべきであり、これにより、機関内の他のミッションとの関連が確保される。 質保証の方針の策定と実施には、学生及びその他の内部・外部の利害関係者の、構造化され、意義のある、かつ目に見える役割が含まれるべきである。質保証プロセスの主要な成果や講じられた措置は、学生等の利害関係者と共有されるべきである。 |
| ガイドライン |
| 効果的な内部質保証システム(計画立案、実行、モニタリング、評価及び向上を含む)は、質文化の発展を支えるものとなる。あらゆる内部の利害関係者が質に対する責任を共有し、組織の全てのレベルにおいて質保証及び質向上に積極的に関与する。 質保証の方針は、研究、学習・教授及び高等教育の社会的使命との関連性を反映している場合、最も効果を発揮する。 質保証の方針は、高等教育機関の使命を支えるとともに、学術部門及び非学術部門が学習及び教授の質をモニタリングし、向上させることを支援するものである。 質保証の方針は、高等教育機関の他の方針と整合しており、それには高等教育の社会的側面を支援する方針や、以下を含む基本的価値を保護する方針が含まれる。 ・学問の自由 ・学術的誠実性 ・社会に対する高等教育の責任 |
基準1-3. Student-Centred-Learning, Teaching and Assessment(学生中心の学習、教授及び評価)
【主な更新】
・学生中心の学習に関する理解の更新と、これを支える質保証の役割に焦点を当てる。
・ガイドラインを中心に、学生の積極的な役割、質保証の視点、包摂性への言及を強調する。
| 【基準及びガイドラインの該当箇所の記述の抜粋】 |
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| 基準 |
| 高等教育機関は、学生が学習プロセスの構築にあたって積極的に関与することを奨励し、成績評価はこのアプローチを反映する形となるようにすべきである。学習及び教授の過程は、学生がそのような積極的な役割を果たすことを支援すべきである。 |
| ガイドライン |
| 高等教育機関は学習プログラムを設計する際に、学生の意欲、自己省察、学習プロセスへの関与をどのように促すかを考慮する。 学生中心の学習及び教授のための質保証プロセス ・学習及び教授に対する高等教育機関のアプローチが、学生の多様性とそのニーズを尊重し対応するとともに、柔軟な学習経路を可能にし、生涯学習を支援することを確保する。 ・学習成果を支えるためのデジタル技術ツールの効果的な活用を含め、多様な教授法や提供形態が検討・採用されていることを確認する。 ・学習及び教授の実践が学生の自律性を促進しつつ、教員からの適切な指導と支援を確保していることを確認する。 ・学習者と教員の関係における相互尊重の文化を促進し、これが高等教育の方針やフィードバックの仕組みに反映されていることを確保する。 ・高等教育機関が学生、職員及びその他の利害関係者からの証拠やフィードバックに基づき、教育方法や提供形態を定期的に評価・調整することを確保する。 (略) |
第2部:外部質保証に関する基準とガイドライン
基準2-6. Reporting(報告)
【主な更新】
・(必要に応じて)専門家による報告書に加えて、評価の結果に至るまでに用いられた全ての文書を公表する必要性を追加する。
・高等教育機関による、報告書(勧告を含む)の有用性を強調するとともに、報告書の内容を高等教育機関側が事実確認できる機会を提供する必要性を、ガイドラインから基準本文へ移し、基準の一部として強化する。
・報告書のデジタルアクセシビリティと有用性の必要性を盛り込む。
| 【基準及びガイドラインの該当箇所の記述の抜粋】 |
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| 基準 |
| ピアレビューの専門家による報告書(全体)は、アカデミックコミュニティ、外部のパートナー、その他関心を有する個人にとって、公表され、明確、かつ、容易に入手できるものであるべきである。意思決定に使用された証拠や文書は、ピアレビュー専門家が作成した報告書とともに公開されるべきである。報告書は、評価を受けた機関にとって有益であり、改善のための提言を含むものでなければならない。また、評価を受けた機関は、報告書の確定前に、事実の正確性を確認する機会が与えられるべきである。 |
| ガイドライン |
| (略) 報告書のアクセシビリティと利便性を高めるため、報告書は、検索可能な電子形式で提供することが望ましい。 報告書の要約は、アクセシビリティと透明性を高める。 (略) |
第3部:質保証機関に関する基準とガイドライン
基準3-2. Independence(独立性)
【主な更新】
・質保証機関は、いかなる内部・外部関係者からの不当な影響を受けずに活動する必要があり、これを防止するための安全策が講じられるべきであることを明確にする。
・独立性の3つの側面(組織的独立性、運営上の独立性、公式な成果の独立性)を基準に追加する。
| 【基準及びガイドラインの該当箇所の記述の抜粋】 |
|---|
| 基準 |
| 質保証機関は独立し、自律的に行動すべきである。質保証機関は、いかなる者からの影響を受けることなく、業務及び業務の結果に対して完全に責任を負わなくてはならない。 また、質保証機関は、自律性と独立性を確保するための具体的な安全策、抑制及び均衡を備え、いかなる利害関係者、団体、個人も機関に対して支配的な役割を果たさないようにすべきである。 機関の独立性の主要な要素には以下が含まれる: 1) 組織的独立性 2) 運営上の独立性 3) 公式な成果の独立性 |
| ガイドライン |
| (大幅な更新がないため省略) |
■改訂に向けたタイムライン
今回の改訂版は「ESG 2027」として、2026年秋にESG改訂に関わる運営会議においてBFUG(ボローニャ・フォローアップグループ)によって承認されることが期待されている。BFUGに承認された場合、2027年春にルーマニアとモルドバで共同開催される欧州高等教育圏(EHEA)大臣会合において採択される予定である。
原典①:ENQA(英語)
原典②:The full draft text of the ESG 2027 (英語)
原典③:An explanatory note(英語)
■関連記事まとめ■ (本サイト過去投稿記事より)
1.「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)」改訂のための運営委員会が発足
(本サイト2025/1/6投稿記事)
2.高等教育の「基本的価値」の実践に向けて:欧州高等教育圏大臣会合2024
(本サイト2024/8/7投稿記事)
3.欧州高等教育圏大臣会合2024が開催:共同声明(ティラナ・コミュニケ)の概要
(本サイト2024/8/6投稿記事)
