英国QAAがイングランドにおける新たな大学評価を開始―ESGに基づく選択的質レビュー

2023年11月21日、英国高等教育質保証機構(QAA)は、イングランドの高等教育機関を対象とする選択的質レビュー(Elective Quality Review:EQR)の開始について発表した。選択的質レビューは、高等教育機関の内部質保証がどのように形作られているかについて、欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)(NIAD-QE国際課まとめ)の第1部(内部質保証に関する基準とガイドライン)に照らして分析する機関別評価で、学生局(OfS)※1の高等教育機関登録制度に登録されているイングランドの高等教育機関が任意で受審することができる。QAAは、本レビューの受審を通じて、教育の質を維持・向上させるための高等教育機関のアプローチについて、外部質保証において25年以上の経験と専門的知見を持つQAAの専門家による分析が得られるとしている。また、同時に、国際的な基準であるESGに基づいて行う本レビューは、高等教育機関の評判や価値(brand)の向上に資するものであるとしている。その他、周期的なレビューの実施が当該大学の質が保証されていることのエビデンスとして期待されることが多い留学生誘致の場面や、トランスナショナル教育(TNE)の企画等において、新たなパートナーと提携を結ぶ際に自機関の質に関する独立したエビデンスとして活用されることも目指している。

なお、本レビューは、OfSが管理する高等教育機関登録制度の一環で実施されるものではない。また、現時点(2024年7月)で、レビュー開始発表以降の実施状況等に関する情報はQAAウェブサイトに掲載されていない。

※1 学生局(Office for Students: OfS)は、2017年に成立した高等教育・研究法に基づき、イングランドの高等教育機関の規制・監督・資金配分等を行う機関として2018年に設立された。

■選択的質レビューの導入の背景

イングランドでは、独立公共機関であるOfSが、規制枠組(Regulatory Framework)に基づきイングランドの高等教育機関の規制・監督を行っている。公的資金の交付、学生ローンの受給、海外留学生の受入れ、学位授与権・大学名称使用権の付与を希望する高等教育機関は、機関種に関係なく、OfSが管理する高等教育機関登録制度への登録が必須である。

QAAは、2018年よりOfSの委託を受けて、高等教育機関登録要件審査の一部として、登録希望機関に対する機関別評価である「質・基準レビュー」を行っていたが、QAAの説明によれば、「OfSの規制アプローチの一部がESGに準拠した質保証を重視するQAAの方針と一致せず」、評価報告書が公表されないといった情報の透明性や、レビューへの学生の関与が不十分といった質保証における学生参画に課題があったことから、2023年3月31日をもって委託業務を終了した。2023年4月以降はOfSが一括して審査業務を実施している。※2

※2 質・基準レビュー終了後から現在までのQAAの活動については、本サイト2023/12/8掲載記事を参照。

また、OfSの高等教育機関登録要件審査の基になる規制枠組について、QAAによると、ESG第1部の全ての基準をカバーするものではなく、OfSが行う質の保証・管理では、ESGに基づく質保証がなされているとは言えない、としている。このような状況を背景に、QAAはESGの第1部を評価基準として用いる選択的質レビューを開発・導入した。高等教育機関登録要件で十分カバーされていないESGの要素を重点的に確認することで、登録要件審査との重複を避け、受審機関の負担を減らすことも企図されている。

なお、選択的質レビューの意義について、QAAは、「国際的に認められた高等教育質保証の参照点(ここではESGを指す)を基準として用い、研修を受けた評価者によって行われる選択的質レビューでは、一貫性のある判断や分析、評価の結果を出すことが可能であるほか、イングランド以外の英国の地域(スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)※3と選択的質レビューの比較可能性を確保することもできる」、としている。 

※3 イングランド以外の英国の地域(スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)の高等教育機関に対しては、QAAは従来より、ESGが重視する質の向上(enhancement)、評価結果の公表、質保証への学生参画等の観点に基づく機関別評価を実施している。

■選択的質レビューの概要

※4 「独立した高等教育機関」は原文では「independent providers」となっており、詳細な説明は見当たらないが、公的資金の交付対象とならない高等教育提供機関である代替教育プロバイダー(Alternative Provider)を指すと思われる。

 また、選択的質レビューでは、評価基準以外に高等教育機関にとって重要で評価を受けたい項目について、選択的モジュール(optional modules)として評価を受けることができる。項目例として、他大学とのパートナーシップ活動の状況や、QAAが定める「アカデミック・インテグリティ憲章」(Academic Integrity Charter)」への準拠状況が挙げられている。

■評価基準

選択的質レビューの評価基準として用いられるESGの第1部は表2のとおり。なお、OfSの高等教育機関登録要件審査において適合しているとされた基準については、レビューが省略される。

(「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン (ESG)」 (翻訳:大学評価・学位授与機構[当時])より)


■評価のプロセス・実施体制

選択的質レビューのプロセスは、自己評価書提出、訪問調査、アクションプランの提出等から成るレビューのコア要素と、評価後のフォローアップで構成される(表3)。

評価体制については、QAAが任命した評価者チームが編成される。チームは3名から成り、うち1名は学生(現役の学生またはサバティカルオフィサー※5)である。他の評価者は、外部質保証の経験やレビュー対象と同種の高等教育機関での職務経験または協働した経験を有する者とされる。また、3名の評価者のほかに、QAAのスタッフ1名がレビューの開始から終了までの高等教育機関との調整や評価者チームのサポートを行う。

レビューの所要期間は受審機関からQAAへの自己評価書提出を起点とすると通常12週間(約3か月)となっている。

※5 サバティカルオフィサーは、卒業後に選挙で選ばれた学生、または在学中に選挙で選ばれ、学業を中断し、任期中に給与を得ながら内部質保証への学生参画の一環として大学に有期雇用されている学生である。(田中正弘(2023)「内部質保証に参画する学生代表―イギリスの大学の学生組合は,どのように学生代表を参画させているのか―」『名古屋高等教育研究』(名古屋大学高等教育研究センター)第23号,248頁)、(秦絵里(2012)「英国における学生中心の高等教育 学生の経験の質向上の取組」『アルカディア学報』No.478

事前相談

 高等教育機関からQAAに対しレビュー受審の問合せがあると、QAAは当該機関と無料のオンラインミーティングを実施する。ミーティングでは、当該機関の特定のニーズやレビューに何を期待しているかを把握するとともに、QAAがレビューの詳細について説明する。レビューのスケジュール、レビュー後のフォローアップ活動に関する当該機関の意向、レビューの対象領域の追加有無、評価手数料についても確認される。

評価結果及び結果の公表

レビューではESG第1部の基準ごとに「満たしている(meets)」または「満たしていない(does not meet)」のいずれかで判定され、全体の評価結果は以下の3段階で提示される。

  • 10基準全てが「満たしている」 と判定・・・ 「全ての基準を満たしている(meets all the Standards)」
  • 「満たしていない」と判定された基準数が1~2件 ・・・ 「特定の条件を満たす場合、全ての基準を満たしている(meets all the Standards, subject to meeting specific conditions)」
  • 「満たしていない」と判定された基準数が3件以上 ・・・ 「基準を満たしていない(does not meet the Standards)」

「特定の条件を満たす場合、全ての基準を満たしている」と判断された場合、指摘された課題に対して高等教育機関が改善に取り組むために、レビュー期間が最大で1年間延長される。高等教育機関は、レビュー報告書案を受領してから4週間※6以内にアクションプランをQAAに提出しなければならない。また、アクションプランに基づく改善活動の期間が与えられ、活動が完了したら改善に取り組んだことを示す書類をQAAに提出する。その後評価チームが書面調査を行い、「全ての基準を満たしている」または「基準を満たしていない」のいずれかを判定する。

レビュー報告書は、原則として、報告書案が高等教育機関に送付された際に、事実誤認の有無が確認され、報告書の内容が確定した後にQAAウェブサイトやDEQAR(Database of External Quality Assurance Results)※7で公表される。なお、評価結果が「特定の条件を満たす場合、全ての基準を満たしている」の場合は評価チームによる分析のための追加の資料提出、「基準を満たしていない」の場合は意見申立てを行う機会といった手順が報告書案送付と報告書公表の間に加わる。

※6 「基準を満たしていない」の場合も、レビュー報告書案を受領してから4週間以内にアクションプランをQAAに提出しなければならない。なお、通常の提出期限は表3にあるように6週間以内となっている。

※7 DEQARは、EQAR(欧州質保証機関登録簿)に登録された欧州各国の質保証機関が、高等教育機関に対して実施した外部質保証(評価)の結果と報告書を集約したデータベースである。

中間フォローアップ

高等教育機関は評価結果に関わらずアクションプランを作成し、所定の時期までにQAAに提出しなければならない。アクションプランには、評価結果に付された条件や提言への対応案や優良事例を更に促進するための取組がまとめられる。

レビュー後2~3年が経過すると、高等教育機関は中間フォローアップを受ける。フォローアップには通常フォローアップと補完的フォローアップの2種類があり、高等教育機関はどちらかを選択することができる。通常フォローアップでは、高等教育機関がアクションプランに関する取組状況をQAAに報告した後、QAAのスタッフが書面調査を行い、高等教育機関内部で活用できるような所見を送付する。一方、補完的フォローアップは前回のレビュー以降に新たに重点的に取り組んでいる活動がありフィードバックを得たい場合に選択することが想定されている。そのためQAAのスタッフに加えて2名の評価者(うち1名は学生)によるチームが組まれ、高等教育機関からQAAへの取組状況の報告後にオンラインか実地による訪問調査が行われる。

■選択的質レビューで「満たしている」と判定された場合のメリット

選択的質レビューで「満たしている」と判定された場合のメリットとして、記事冒頭で触れた内容以外に、QAAは以下の事項を挙げている。

  • EQARに登録された独立の質保証機関によって、高等教育機関の信頼性を公式に表明することができる。
  • 質保証や質の向上について外部による詳細なチェックを受けていることが証明できる。
  • 高等教育機関が自ら取り上げた質向上の取組がレビューで精査され、報告書を通じて優良事例であることを証明することができる。
  • 基準を満たしていると判定されたことの証である「QAA Quality Mark)※8を受審機関のウェブサイトや刊行物で使用することができる。

※8 QAA Quality Markは、原典②のp.1に掲載されている。

原典①:QAA(英語)
原典②:QAA(英語)

◎関連記事まとめ

(1)「【イギリス】質の高い教育提供のための持続的な政府財政支援を―質保証機関QAAが提言」
(QA UPDATES 2024/5/17投稿記事)

(2)「イングランドの質保証制度を巡る動き―学生局による機関登録制度に関するQAAの新たなサービス」
(QA UPDATES 2023/12/8投稿記事)

(3)「英国QAAが欧州ENQAの外部レビューを受審―質保証への学生参画の取組で高評価」
(QA UPDATES 2023/9/21投稿記事)

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