2026年6月、欧州委員会は、公式ウェブサイトにおいて共同欧州学位ラベル(joint European degree label)の運用ガイドを公表した。共同欧州学位ラベルは、欧州連合又は欧州経済圏の2か国以上の高等教育機関による国境を越えた連携のもと提供される共同学位プログラム※1に対して付与されるものであり、当該プログラムがEUレベルで合意された共通基準を満たし、高い共同性と欧州的側面(European dimension)を備えた共同プログラムであることを証明するラベルである。
共同欧州学位ラベルは、将来的な共同欧州学位(joint European degree)の実現に向けた段階的な措置として導入されたものである。共同欧州学位の制度化には、共同プログラムに参加する高等教育機関が所在する各国の高等教育制度の相違や法的・行政的な障壁が存在することから、その前段階として、共通の欧州基準を満たす共同プログラムにラベルを付与する制度が設けられ、その運用を通じて共同欧州学位の実現可能性を検証する枠組みが構築された。
この枠組みの具体的な展開方針は、2025年5月にEU理事会(教育・青少年・文化・スポーツ会議:EYCS)が承認した決議書「Council resolution on a joint European degree label and the next steps towards a possible joint European degree: boosting Europe’s competitiveness and the attractiveness of European higher education 」において示されている。同決議書では、2025年から2026年にかけて共同欧州学位ラベルの最終的な準備及び展開を進めるとともに、2028年末までに欧州委員会がとりまとめる当該ラベルの実施状況に関する評価報告書及び共同欧州学位の制度化に関するフィージビリティ・スタディ報告書を踏まえ、2029年に共同欧州学位の制度化に向けた次の段階について検討し、判断を行うとしている。(本サイト2025年8月5日掲載記事)。
今回公表された運用ガイドは、共同欧州学位ラベルの基準について、統一的な理解及び一貫した運用を促進するため、各基準の趣旨及び審査プロセスを示すとともに、質保証機関及び高等教育機関における適合性審査(assessment)※2の参考となる説明及び指標を提供するものである。また、付属資料として、用語の解説、自己評価書の推奨様式、根拠資料のポートフォリオ、ラベルの証書(certificate)のテンプレート、欧州アプローチ(European Approach)の基準との対応表を収録している。
本記事では、運用ガイドの概要を紹介する。
※1 共同欧州学位ラベルの対象となるのは、参加国の法的枠組みの下で提供される共同プログラムであって、各国において認められた学士、修士又は博士の学位につながり、欧州資格枠組み(EQF)レベル6、7又は8に対応するもの。ジョイント・ディグリーを授与する共同プログラムを対象としており、ダブル・ディグリー又はマルチプル・ディグリーのみを授与する共同プログラムは対象外である。
※2 本ガイドでは、適合性審査(assessment (of compliance))について、次の通り用語の解説が行われている。共同プログラムが、共同欧州学位ラベルの基準を満たしているかどうか(適合性)を、ラベル付与機関(後述の「適合性審査の実施主体及びプロセス」を参照のこと)が確認するプロセス。この審査は質保証手続そのものを構成するものではなく、また、既に実施された認証評価や質保証手続を代替したり再度実施したりするものでもない。この審査は、当該プログラムを運営する大学コンソーシアムによる自己評価及び当該プログラムが共同欧州学位ラベルの基準を満たしていることを裏付ける根拠資料など、既存の証拠に基づいて行われる。
■欧州高等教育圏における質保証のための基準とガイドライン(ESG)及び欧州アプローチとの関連性
欧州高等教育圏における質保証のための基準とガイドライン(ESG)(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)は、欧州高等教育圏における高等教育の質保証に関する包括的な枠組みを提供している。
また、欧州アプローチは、2014年にボローニャ・フォローアップ・グループ(BFUG)によって策定され、2015年のエレバン(アルメニア)で開催された欧州高等教育圏大臣会合で採択された、欧州における共同教育プログラムに対する統合的な質保証の枠組みである。ジョイント・ディグリー、ダブル・ディグリー又はマルチプル・ディグリーの授与につながる共同プログラムを対象としており、ESG及び欧州高等教育圏資格枠組み(QF-EHEA)に基づき、共同プログラムの特性を踏まえた基準及び手順を定めている。共同プログラムが、欧州質保証機関登録簿(EQAR)※3に登録された質保証機関によるこのアプローチに沿った評価を受審することで、その評価結果を欧州高等教育圏内の他国でも活用できるようにし、各国で求められる質保証・認証手続の重複を軽減する仕組みである。
共同欧州学位ラベルは、これら両者を基盤として構築されているが、ESGや欧州アプローチ、あるいは既存の質保証・認証制度を代替するものではない。むしろ、EUレベルで合意された共通基準への適合性を確認し、プログラムの共同性、学生の学習体験及びプログラムが有する欧州的側面(European dimension)が基準を満たしているかを審査するものである。
共同欧州学位ラベルの基準は、欧州アプローチの基準と完全又は部分的に重複している。そのため、共同プログラムが既に欧州アプローチを用いた評価で肯定的な結果を得ている場合には、その評価結果が共同欧州学位ラベルの適合性審査における主要な参照基盤として活用される。具体的には、欧州アプローチによって既に十分確認されている基準については再確認を行わず、部分的にのみ確認されている基準又は欧州アプローチと重複しない基準について追加的な確認が行われる。
※3 EQARは、ESGに基づく外部質保証を実施する質保証機関のうち、ESGの第2部(外部質保証に関する基準とガイドライン)及び第3部(質保証機関に関する基準とガイドライン)への適合性が外部レビューにより確認された機関を登録・公表している。
表:共同欧州学位ラベル基準と欧州アプローチ基準との重複関係(以下の表は、本運用ガイドp11の表を元に、当機構国際課が作成、翻訳したものである)
※4 凡例
●:欧州アプローチによる評価において完全に確認されているため、共同欧州学位ラベルの適合性審査では追加的な審査は不要な基準
◐:欧州アプローチによる評価において部分的に確認されているため、欧州アプローチの評価報告書を基礎資料として活用できるが、追加の証拠資料による補足が必要な基準
◯:欧州アプローチによる評価では扱われていないため、共同欧州学位ラベルの審査において適合性審査を実施する必要がある基準
※5 対象となる欧州資格枠組み(EQF)。かっこ書きがない基準は、EQF6、7、8全てが対象。
※6 欧州高等教育圏の価値(学問の自由、学術的誠実性、高等教育機関の自律性、高等教育のガバナンスにおける学生及び教職員の参画、高等教育における国等の公的部門の責任、社会に対する高等教育の責任)(本サイト2024年8月7日掲載記事)に則っており、人間の尊厳、自由、民主主義などの共通の欧州的価値及び民主的市民性の促進に取り組むことが求められる。
■適合性審査の実施主体及びプロセス
共同学位プログラムを運営する大学コンソーシアムは、共同欧州学位ラベルの適合性審査及びラベルを付与するEQAR登録質保証機関に申請する。ただし、全て自己認証権を有する高等教育機関※7で構成される大学コンソーシアムは、EQAR登録質保証機関に申請する代わりに、大学コンソーシアム内の一機関に適合性審査及びラベルの付与を委ねることができる。この場合、当該機関は、ラベル付与機関としてその役割を担うために、EQAR登録質保証機関による事前外部検証(ex-ante external validation)を受けている必要がある。
大学コンソーシアムは、新たな共同プログラムに対する初回認証時又は認証期間満了に伴う再認証の際に、欧州アプローチによる評価と共同欧州学位ラベルの基準への適合性審査を一体的に受けることができる。また、共同プログラムの認証期間中に、共同欧州学位ラベルの基準への適合性審査のみを受けることも可能である。この場合、大学コンソーシアムは、当該共同プログラムが欧州アプローチの基準を全て満たしている(評価で肯定的な結果を得ている)ことを示す必要がある。
適合性審査は、大学コンソーシアムが提出する自己評価書及び根拠資料に基づき、ラベル付与機関(EQAR登録質保証機関又は事前外部検証を受けた自己認証権を有する高等教育機関)が任命する利益相反のない外部審査パネルによって実施される。審査は主として提出資料の書面審査に基づき行われ、訪問調査は必須ではないものの、必要に応じて大学コンソーシアム関係者とのオンライン協議を実施することができる。外部審査パネルは共同欧州学位ラベルの各基準を満たすか否かを審査し、その審査結果及び共同欧州学位ラベル付与の可否に関する勧告を含む審査報告書を作成する。ラベル付与機関は当該勧告を踏まえて、必要に応じて追加説明・資料の提出又は改善措置を求めた上で、共同欧州学位ラベルの付与又は不付与を最終決定する。
※7 本ガイドでは、自己認証権を有する高等教育機関について、次の通り用語の解説が行われている。「所管の国又は地域の権限ある機関から、自らの教育プログラムを承認し、内部質保証を行う法的権限を付与された高等教育機関を指す。この法的権限については、定期的な外部機関による審査の対象となる場合もあれば、恒久的な法定権利として認められている場合もある。その場合、個別プログラムごとの認証ではなく、機関レベルでの評価を通じて監督が行われている。」
■適合性審査結果の種類及び有効期間
適合性審査の最終結果は、ラベル付与又はラベル不付与の2種類である。共同欧州学位ラベルの有効期間は、当該共同プログラムの認証サイクルと連動しており、認証期間の満了又は新たな質保証評価が必要となる時点まで有効とされている。
■ラベルの使用権及び活用
共同欧州学位ラベルの視覚的表示(visual identity)の使用権は、同ラベルを付与された共同プログラムにのみ認められる。当該プログラムの参加機関は、プログラムのウェブサイト、共同学位証書、共同ディプロマ・サプリメント又は卒業時に学生へ発行するラベル証明書に当該ラベルを表示することが求められる。
