欧州:「共同欧州学位ラベル」の2022年試行に向けて―欧州共通基準の議論続く

2022年3月3日、欧州委員会(European Commission)は高等教育関係者を招集した専門家会議で、「共同欧州学位(joint European degree)」の制度化に向けた具体の議論を開始した。共同欧州学位とは、欧州の複数国の大学が連携した教育プログラムの修了により授与される学位のうち、参加大学が合同で授与する1つの学位(=共同学位)であり、学習成果を欧州共通の指標を用いて証明するものである。また、欧州連合(EU)全域で欧州学位の授与、保存、共有、真正性の確認、承認が容易となるとされている。

今回、共同欧州学位の制度化の第一歩として、「共同欧州学位ラベル(joint European degree label)」を付与するための欧州共通基準策定に向けた議論が開始され、共同欧州学位の最低要件を設定するための暫定的な基準が提案された。「共同欧州学位ラベル」とは、共同欧州学位の情報をラベルで表示するもので、欧州の共同教育プログラムを修了した学生の学位を補完的に証明することを目的とするものである。

続く4月4-5日に開催された欧州委員会の教育・青少年・文化・スポーツ会議(EYCS)で採択された「欧州における効果的な高等教育連携の橋渡しに関するEU理事会勧告(Council recommendation on building bridges for effective European higher education cooperation)」では、2022年中に共同欧州学位ラベルの発行を試行的に実施することが言及された。

■欧州の大学戦略と共同欧州学位の制度化に向けて

欧州委員会は2022年1月に、「欧州の大学戦略(European strategy for universities)」及び「欧州における効果的な高等教育連携の橋渡しに関するEU理事会勧告のための委員会提案書(Commission proposal for a Council Recommendation on building bridges for effective European higher education cooperation)」の2つの構想を新たに採択し、その実現に向けて今後EUが取り組むべき以下の4つの旗艦プロジェクトを提案し、これらのプロジェクトを2024年半ばまでに実施するとした(本サイト2022年3月18日掲載記事)。共同欧州学位の制度化は、本戦略が掲げる柱のひとつである。

①「欧州大学※1」プロジェクトの拡大
②大学コンソーシアムの法人化
③共同欧州学位の制度化
④欧州学生証の普及促進

※1 「欧州大学」(European Universities)はEU域内での国境を越えた大学間のコンソーシアムであり、少なくとも3つのEU加盟国(またはエラスムスプログラム参加国)、3つの高等教育機関で1つの「大学」(=コンソーシアム)を構成することになっている。EUでは欧州大学を創出することにより、次世代の欧州の人々が、欧州の一員としての強力なアイデンティティを育みながら、言語や国を越えて連携することを目指している。

■共通基準策定に向けた議論

2022年3月の欧州委員会による専門家会議では、欧州学位に関するフィージビリティ・スタディ※2の一次報告があり、学習成果や資格水準の承認、質保証、透明性を支援する様々なツールが存在するにもかかわらず、各国の既存の学位と共同学位との相互運用性や、国内法および制度的な規制への対応や統合など、共同での学位授与には多くの課題が残っていることが報告された。

※2欧州委員会の教育・文化総局がリサーチ・コンサルタント会社PPMIに委託し実施されている調査研究。国際共同教育プログラムや質保証に関する多くの欧州の専門家が参画し、世界的に認知される共同欧州学位の創設に向けて、様々な現実的な課題について調査研究が行われている。共同欧州学位ラベルが学生や雇用主にとってどのような利点や付加価値があるのかに焦点を当てた調査研究も進められており、報告書が順次公表されることとなっている。

欧州委員会は、「運用が可能であり、チェックとモニタリングが容易で、高等教育機関が遵守を証明するための負担ができる限り少ない」欧州学位の共通基準を打ち出すことを目指しており、専門家会議では、最低要件を設定するための暫定的な基準が以下のとおり提案された。

  • 国際性(共同プログラムを提供するコンソーシアム/共同プログラム/共同学位・共同キャンパスにおける国境を越えた協働)
  • カリキュラムの柔軟性と革新性(柔軟なモビリティ、多言語、革新的な学習と教授、労働市場との関連性)
  • 包摂性(inclusiveness)と持続可能性(グリーン化・デジタル化への取組み、共同プログラムの包摂性、市民的関与(civic engagement)の可能性)

また、欧州委員会が共同欧州学位ラベル発行の試行を検討していることに対し、共同欧州学位への関心を高め、共同欧州学位が持つべき具体的な特徴を理解するための方法として概ね好意的に受け止められ、提案された暫定的な基準についても専門家から多くのコメントがあった。同時に、共同欧州学位の共通基準の策定にあたっては、既存の「欧州高等教育圏(EHEA)ツール※3」を踏まえることが強調され、特に2015年にボローニャ・フォローアップ・グループ※4が策定し欧州高等教育圏教育担当大臣会合で採択された提言書「共同教育プログラムの質保証に関する欧州的アプローチ(European approach to quality assurance of joint programmes)」(NIAD-QE国際課まとめ)には、共同欧州学位に関連する観点がいくつも挙げられているとの指摘があった。この提言書は、欧州高等教育圏で行われる共同教育プログラムの質保証について国別に特別な要件を定めずに統一基準を作ることを主旨とするものである。

また、専門家会議では、共同欧州学位を欧州の高等教育の主要な特徴とするために不可欠な法改正という課題についても言及された。

※3欧州の高等教育の透明性と質保証を高めるため、欧州高等教育圏の取組みとして開発された、欧州単位互換制度(ECTS)(NIAD-QE国際課まとめ)ディプロマ・サプリメント(DS)(NIAD-QE国際課まとめ)欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)(NIAD-QE国際課まとめ)外部質保証結果データベース(DEQAR)(本サイト2020/3/13掲載記事)欧州資格枠組み(EQF)(NIAD-QE国際課まとめ)欧州高等教育圏資格枠組み(QF-EHEA)(NIAD-QE国際課まとめ)等のこと。

※4 Bologna Follow-up Group(BFUG):定期開催される教育担当大臣会合の間におけるボローニャ・プロセス(NIAD-QE国際課まとめ)や共同声明の実施状況を監督する組織。

■共同欧州学位ラベル発行の試行へ

共同欧州学位の制度化に関する課題や今後の取組みについては、2022年4月4-5日の欧州委員会(EC)の教育・青年・文化・スポーツ会議(EYCS)で議論された。

EU理事会による結論(Council conclusions on a European starategy empowering higher education institutions for the future of Europe)では、EU加盟各国に対して、2022年1月に欧州委員会で採択された「EUの大学戦略」に係る4つの目標※5に向けた協力支援を求めた。また、大学戦略を実行するための「欧州における効果的な高等教育連携の橋渡しに関するEU理事会勧告」では、今後1年以内にEU加盟各国が取り組む計画がまとめられており、共同欧州学位の制度化への道を開くために、「共同欧州学位ラベル」の2022年中の試行を目指すことが述べられている。また、国境を越えた連携の推進に必要な関連法の制定に向けた新たな働きかけを行うこと、欧州大学のすべてのミッションを実現するための新たな資金援助に向けた措置を講じることについても言及されている。

※5 ①高等教育・研究における欧州としての特徴(European dimension)の強化、②欧州のグローバルな役割とリーダーシップの担い手としての大学の強化、③大学が欧州のグリーン化とデジタル化の変革の主体となるような支援、④民主主義、多様性、包括性、男女平等など共通の価値観に基づく「European way of life」の深化における大学の活動への支援

原典①: Academic Cooperation Association (ACA) (英語)
原典②: Academic Cooperation Association (ACA) (英語)
原典③:欧州委員会(英語)
原典④:欧州委員会(英語)
原典⑤:欧州委員会(英語)

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