インド:開学1年以上のカレッジに対する暫定アクレディテーション制度(PAC)を導入

2022年2月24日、インドの高等教育機関の外部質保証を担う機関であるNational Assessment and Accreditation Council(NAAC)が、開学1年以上のカレッジに対する暫定アクレディテーション(Provisional Accreditation for Colleges: PAC)の導入を発表した(制度運用開始は2022年3月4日以降)。

PACは、カレッジに対して、NAACの通常のアクレディテーション受審への段階的な移行を促すための、簡易版のアクレディテーションとしての機能を備えている。

NAACによる通常のアクレディテーションは、開学6年後から受審可能で、約100の評価項目による審査が行われる。一方、PACは開学1年後から受審可能であり、評価項目(質問事項)を25項目に絞った簡易的な審査となっている。PACに合格した場合の認定有効期間は2年、受審は最大2回までであり、それ以降はNAACによる通常のアクレディテーション受審へと移行する。

(参考)【NAACによる通常のアクレディテーション】

1986年に発表された国家教育政策1986(National Policy on Education 1986: NPE1986)及びNPE1986に関する行動計画1992(Programme on Action 1992)において、高等教育の質の向上、高等教育機関による自律的な改善を目的としたアクレディテーションの導入が提案された。1994年に機関別アクレディテーションを行う外部質保証機関としてNAACが設立され、同年よりアクレディテーションが開始され、2012年にはすべての大学、カレッジ(※インドの大学、カレッジについては、後段を参照)に対して受審が義務付けられた(UGC. (2012). University Grants Commission (Mandatory Assessment and Accreditation of Higher Educational Institutions) Regulations, 2012. 4.)。受審対象は、開学後6年経過した高等教育機関で評価周期は5年サイクルである。機関種ごとに評価指標、項目は異なるが、カリキュラム、研究活動、インフラ、学生支援、ガバナンス等に関する100前後の評価項目に関して審査が行われる(NAAC. (2019). NAAC Institutional Accreditation, Manual for Self-Study Report Universities. p. 23.)。アクレディテーションの受審は、大学補助金委員会(University Grants Commission: UGC)を通じた連邦予算による財政支援のための必須要件となっている。

UGCは、大学とカレッジの教育・試験・研究の基準の設定と維持、規制の策定、資金分配、連邦政府や州政府への助言を行うことを目的として1956年に設立された連邦機関。

■インド高等教育の基本情報

インド高等教育機関は、主に、①大学(University)、②大学との提携関係に基づき主に学部の教育を行うカレッジ(College)、③職業教育機関としての性格を持つ独立教育機関(Stand-alone Institution)から構成される※1。このうちカレッジは、高等教育機関数・在学生数ともに、インド高等教育において大きな比重を占めており、高等教育機関数は全体の約77%(55,165校中42,343校)※2、在学生数では全体の7割(約3,850万人中約2,700万人)に上る※3※4

※1 大学とカレッジの提携関係は、インド高等教育制度の特色の一つとなっている。大学は、主に大学院教育及び研究を行い(一部の大学では学部課程を有する)、学位授与権を持つ。カレッジは、一般に提携先の大学が取り決めた入学者選抜によって学生を受け入れ、同じく提携先の大学が作成したカリキュラムに従って主に学部教育を行う(一部のカレッジでは大学院課程を有する)。学位は提携先の大学から授与される。
カレッジの種類は、国立大学、州立大学と提携の上、連邦政府、州政府、民間団体が運営するする提携カレッジ(Affiliated College)が大多数であるが、大学が設置する大学内カレッジ(Constituent CollegeまたはUniversity College)や、UGCによる審査を経て、自身で学生の受入れ、カリキュラム作成、試験実施を行う権限を認められた自治カレッジ(Autonomous College)という形態も存在する(ただし、自治カレッジの場合も学位授与は提携関係にある大学が行う)。
※2 教育省. (2020). Higher Education Profile 2019-20.
※3 教育省. (2020). All India Survey on Higher Education (2019-2020).
※4 高等教育機関の学部課程への進学については、上級中等学校修了証(初等教育から通算12年)取得後(一般的に18歳)、進学のための試験を受けることができる。上級中等学校修了証は、全国レベルの中等教育委員会、または各州中等教育委員会が実施する統一試験に合格することで取得することができる。
入学者選抜では、各高等教育機関の規程に従って、上級中等学校修了試験の成績や、追加で実施される筆記試験・面接試験の成績が考慮される。商学部・人文社会科学系の学部は、上級中等学校修了試験の成績を用いて合否を決定する場合が多い。工学・医学・法学・経営学・薬学・農業・ホテル経営等の学部は、上級中等学校修了試験の成績に加えて、国家試験機関(National Testing Agency: NTA)が実施する専門分野別の統一試験(工学分野であればJEE(Joint Entrance Examination) Main、医学分野であればNEET (National Eligibility cum Entrance Test))の成績等によって選抜される。 2020年時点での18-23歳の総人口に占める高等教育機関在籍率は27.1%(同※3資料より)となっている。

■低迷を続けるアクレディテーション受審率

インドの質保証制度においては、全ての大学及びカレッジはNAACによる機関別アクレディテーションの受審が義務付けられているが※5、受審したカレッジは2021年10月時点で全体の30%程度(13,316校)であり※6、受審率の向上が課題となっている。こうした中、2020年に発表された国家教育政策(National Education Policy 2020: NEP2020)においても、アクレディテーションの受審を推進することにより、カレッジにおける質の高い教育の提供を目指す、との方針が打ち出されている※7

カレッジの受審率が向上しない理由としては、アクレディテーション受審申請手続きが複雑であることが指摘されてきた※8。また、教育機関が適切な資格を持った教員の不足や、研究施設や付属図書館等の施設整備の不備を指摘されることを恐れ、受審を控えている傾向にあるとされる※9

通常、アクレディテーション未受審の場合、カレッジはUGCが配分する連邦予算を受けることができないが※10、独自財政で運営する私立カレッジ等は、連邦予算への依存度が低く、アクレディテーション受審の動機が十分に機能していないとされる※11。また現行制度では、アクレディテーション未受審のカレッジの学生も提携先の大学から学位を取得することが可能であり、こうした点も受審率が伸び悩む原因となっていると考えられている。

また、高等教育への需要拡大を背景に、インドでは毎年1,000-2,000校のカレッジが新設されている※12。カレッジ数の急増に伴うアクレディテーション受審申請件数の増加に対して、NAAC側の審査の対応がそもそも追い付いていない、との指摘もみられる※13

※5UGC. (2012). University Grants Commission (Mandatory Assessment and Accreditation of Higher Educational Institutions) Regulations, 2012. 4.
※6 NAAC. (2021). Total Number of Accreditations (Status as on 26/10/2021). 同資料によれば、大学についても受審率が伸び悩んでおり、受審率は665機関/1043機関(約60%。大学の全機関数については、※3資料を参照)となっている。
※7 人的資源開発省(2020年NEP2020の発表に伴い後に「教育省」に名称変更). (2020). National Education Policy 2020. NEP2020については、こちらの記事(本サイト2020/11/16掲載記事)を参照。
※8 The Indian Express. (Mar. 18. 2018). Why 60 per cent colleges in Maharashtra don’t have NAAC grading.
※9 The Times of India. (May, 5, 2020). 600 univs, 25,000 colleges are not Accredited in India. The Times of India. (Oct, 26, 2015). Over 100 colleges under MJP without NAAC grading.
※10 UGCが定めるアクレディテーションに関する規定によると、高等教育機関が適切にアクレディテーションを受審しない場合の罰則として、UGCが認可した高等教育機関のリストからの削除、当該機関が高等教育機関としての資格を満たしていないとする連邦政府への勧告、未受審であることの情報公開、連邦予算による財政支援の停止等がある(UGC.(2012). University Grants Commission (Mandatory Assessment and Accreditation of Higher Educational Institutions) Regulation, 2012 9. Penalties. )。
※11 ※8資料より。
※12 UGC. (NA). Growth of Higher Education Institutions. 高等教育機関の急増とアクレディテーションを行う評価機関に関する近年の動向については、こちらの記事(本サイト2018/10/10掲載記事)も参照(ただし、本記事で紹介している、2018年にUGCがアクレディテーション機関数の増加へ乗り出したとの件は、2022年6月時点では機関数の拡大には至っていない)。
※13 World Education News + Reviews, (2018). Education System Profiles, Education in India. The Times of India. (Jan. 27, 2014). NAAC flooded with accreditation pleas.

■打開策としてのPAC

そうした中で今回発表されたのが暫定アクレディテーション制度(PAC)である。通常のアクレディテーションで最初に受審できる時期は「設置の6年後、または卒業生を2期輩出後」※14であるが、PACでは、カレッジ開学1年後から受審することができる。これにより、今後通常のアクレディテーションを受審することになるカレッジに向けて、必要な改善点について予め情報提供を行い、意識向上を図るねらいがある(原典資料①、p.6)。

また、通常のアクレディテーションでは、各教育機関は受審に先立ち1年余りにわたって資料や基準に則った学習環境を揃える必要があるとされている※15。そのため、PACを受審することで早くから通常のアクレディテーション受審に向けた準備を促すことにもつながる。さらにPACの受審により通常のアクレディテーションの受審率向上につなげることも目的の一つとされている(原典資料②、p.6)。

※14 UGC.(2012). University Grants Commission (Mandatory Assessment and Accreditation of Higher Educational Institutions) Regulation, 2012. 4..
※15 The Times of India. (Feb 25, 2022,) NAAC’s new Provisional Accreditation to broaden the horizon.

■PAC制度の概要

【受審資格】

  • 正規の高等教育課程を設置する全てのカレッジで、開学後1年経過していること。
  • PAC受審可能回数は、連続して2回まで(その後は通常のアクレディテーションへ移行)。
  • 通常アクレディテーションの未受審や認定有効期間切れのカレッジ等については、通常のアクレディテーションには申請できず、PACの受審が必要。

【評価周期(認定有効期間)】

  • 2年(なお、PACの認定有効期間内に、カレッジが通常のアクレディテーションを受審申請することは可能のようである※16)。

【評価手数料】

  • 10,000ルピー(約17,200円※17)+税。また、必要に応じて行われる訪問調査等の実費。

【評価項目】

  • 10項目の定量的な質問事項(学生数と教員数の比率や、学生数に対するコンピュータの数等)及び15項目の定性的な質問事項(学生の学習レベルの評価方法や、学生中心的な教育手法、問題解決型教育等の教育方法に関する導入状況等)の計25項目。

【評価結果】

  • 25の質問事項への回答はそれぞれ0~2点で採点される。「暫定認定(Provisionally Accredited)」となるためには、合計50点のうち最低20点以上が必要。
  • 評価結果は、専門家チームレポート及びデジタル証明書として発行される。
  • 判定結果は、「暫定認定(Provisionally Accredited)」、「不認定(Not Accredited)」の2種類。
  • 「不認定(Not Accredited)」となったカレッジは、審査後6カ月~1年の間に受審の再申請が可能。再受審料は10,000ルピー+税に、必要に応じて行われる訪問調査等の実費。
  • カレッジが異議申し立てする際は、独立したオンブズマンによる対応を受けられるものとする。

【評価プロセス】

  • カレッジは、NAACサイト上で初期登録を行った後、PAC審査に必要な書類をオンラインで提出する。また、評価項目(上記の定量、定性を合わせた合計25の質問事項)について、必要資料を添えて回答する。
  • 定量的な質問事項に関して提出されたデータの確認及び審査は、第三者の専門家によって行われる。専門家チームは2名で構成され、副学長及び同等の資格を持つ者、教授、校長等から構成される。専門家チームによるバーチャル訪問調査はオンラインで行われる。
  • ただし、必要と判断された場合は、専門家チームによる現地訪問調査が実施される。

※16 原典に詳細な解説は見当たらないが、PACの有効期限が残っている状態や、PAC審査を1回しか受けていない状態であっても、カレッジの判断で通常のアクレディテーションの受審に進むことができるとの趣旨であると考えられる。
※17 1インド・ルピー=1.72円で計算。なお、通常のNAACアクレディテーションの受審費用は、カレッジの場合、初期登録料が25,000ルピー+税、アクレディテーション経費が100,000ルピー+税、専門家チームによる訪問調査(2日間)の経費として150,000ルピー+税となっている(NAAC. (2021). New Fee Structure (w.e.f. April 01, 2021)。

原典①:NAAC(英語)
原典②:NAAC(英語)
原典③:NAAC(英語:PAC制度発表ウェビナー動画)

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