EUの大学戦略:国際的な大学間連携・共同学位を推進し経済・環境問題等の解決へ

 2022年1月18日、欧州委員会(European Commission)はEU域内の大学※1のための戦略及び提案書の2つの構想を新たに採択した。教育、研究、イノベーションの岐路に立ち、EU域内で様々な大学が国境を越えて知識・資源等を共有し、連携することで、気候変動、デジタル化、新型コロナウイルス感染拡大による経済低迷等、欧州が抱える諸問題の解決に重要な役割を担うことが期待されている。

■採択された2つの構想

  1. European strategy for universities
    「欧州の大学戦略」(以下「戦略」という)
  2. Commission proposal for a Council Recommendation on building bridges for effective European higher education cooperation
    「欧州における効果的な高等教育連携の橋渡しに関するEU理事会勧告のための委員会提案書」(以下「提案書」という)

 戦略では、欧州高等教育セクター変革のビジョンが提示され、提案書はそれよりもさらに踏み込んで、より持続可能でより効果的な、国境を越えた連携の促進に向けた段階的なアプローチの第一歩として示された。いずれの構想においてもEU加盟国をはじめとする関係者に対し、今後EUが取り組むべき4つの旗艦プロジェクト(後述)を提案している。

■構想1:European strategy for universities

 戦略では、EU圏にあるすべての大学が変化していく状況に順応できるようにすること、またEUの回復に貢献できるようにすることを目指しており、加盟国とEU中の大学が力を合わせて取り組むことを呼びかけている。

 また、4つの目標を設定し、その達成のために重要なアクションを提案している。

【4つの目標】

高等教育・研究における欧州としての特徴(European dimension)を強化する

 例えば卓越性(excellence)とインクルージョン(inclusion)は欧州の高等教育の特筆すべき特徴であり、これが欧州と他の地域の高等教育の違いになると認識されている。こうした欧州の特徴の強化には、国境を越えた連携のための旗艦プロジェクト(後述)を実施すること、大学が適切な財政支援を受けることが必要とされる。

▽「インクルージョン」とは
 すべての学習者が高等教育への進学機会を平等に持ち、学習や訓練を修了するために十分な支援を受けられる状態のこと。

「欧州生活様式」(European way of life)の「灯台」として大学を支援する

 以下の3つに焦点をあてた大学の活動を支援し、「欧州生活様式」政策を推進する。
①将来を見据えたスキルの質、身につけるスキルと職業との関連性
②多様性と包括性
③民主的な実践、基本的権利と学術的価値

グリーン化とデジタル化の変革の主体となるよう大学に権限を与える

 大学がグリーン化、デジタル化の発展に十分に取り組めるように支援する。グリーン化、デジタル化を推進するためには大学や関連産業、利害関係者が密接に協力し、将来を見据えた教育、研究、イノベーションを行う必要がある。

欧州のグローバルな役割とリーダーシップの担い手として大学を強化する

 EU域内の大学が欧州内外の大学との国際連携を深化させることで、グローバル社会における外向性・競争力を高め、欧州の価値観に沿ってパートナー国の高等教育システムの強化に貢献することを支援する。

■構想2:Commission proposal for a Council Recommendation on building bridges for effective European higher education cooperation

 欧州における効果的な高等教育連携の橋渡しに関して、EU理事会勧告の原案となる欧州委員会の提案書。2025年までの欧州教育圏(European Education Area)の実現(本サイト2021/1/25掲載記事)に向け、EU域内における共同トランスナショナル教育プログラム・教育活動の実施、連携する大学間でのキャパシティや設備の一元管理、共同学位の授与を推進することを目指す。

 また提案書では、EU加盟国に対して、密接で持続可能な国境を越えた連携、より効果的な共同教育・研究活動と「欧州高等教育圏(ボローニャ)ツール」※2の実践のために行動を起こし、国レベルで適切な要件(conditions)を設定することを提案している。こうした取組みは知識のフローを促進し、教育・研究・産業の各コミュニティ間のつながりを強化する。特に今日の経済・社会の需要に合わせて、最も必要とされているスキルやコンピテンシーに焦点を当てつつ、質の高い生涯教育の機会をすべての人に提供することを支援することを目標としている。

■構想の実現に向けて:4つの旗艦プロジェクト(four flagship initiatives)

 EUは2つの構想の実現に向けて、2024年半ばまでに以下の4つのプロジェクトを実施する。

①「欧州大学」プロジェクトの拡大

 2024年半ばまでにエラスムス・プラス(本サイト2021/6/18掲載記事)の指定予算(2021-2027年で計11億ユーロ≒1,430億円※3)を用いて、欧州大学コンソーシアム(本サイト2019/7/24掲載記事)を60件以上に増やし、500以上の大学が欧州大学プロジェクトに参加する規模に拡大する。

▽「欧州大学」とは
 欧州大学(European Universities)はEU圏内での国境を越えた大学間のコンソーシアムであり、少なくとも3つのEU加盟国(またはエラスムスプログラム参加国)、3つの高等教育機関で1つの「大学」(=コンソーシアム)を構成することになっている。EUでは欧州大学を創出することにより、次世代の欧州の人々が、欧州の一員としての強力なアイデンティティを育みながら、言語や国を越えて連携することを目指している。

②大学コンソーシアムの法人化

 欧州大学やその他の大学コンソーシアムが単一の法人格を持って活動・決定を行い、大学間でリソース、キャパシティ、強み、データを一元管理できるように、関連法の制定に向け働きかける。

③共同欧州学位(joint European degree)の制度化

 共同欧州学位(joint European degree)の制度化に向けて働きかけ、共同プログラムの提供に関する規制を緩和する。

 共同欧州学位は、欧州大学等を通じて複数の大学が国境を越えて連携して提供する学習成果を共通の指標を用いて証明するもので、国レベルで提供されることになる。また、EU全域で欧州学位の授与、保存、共有、真正性の確認、承認が容易となることが期待されている。その制度化の第一歩として、欧州委員会は欧州学位の情報を表示(label:ラベリング)するための欧州指標の作成に向けて働きかける。このようなラベリングは、複数の大学の国境を越えた協力関係のもとで実施された共同プログラムを卒業した学生の資格の補完的な証明として扱われることになる。

④欧州学生証の普及促進

 欧州学生証(European Student Card)計画の規模を拡大し、2022年にはEU域内の大学間を行き来する全学生(mobile students)に、2024年半ばまでにはEU域内の大学に在籍する全学生に、個別の欧州学生ID(unique European Student Identifier)を割り当てる。これにより、国境及びデジタルツール上での学生移動の管理がより簡単・効率的になり、全教育レベルでの学生のモビリティを促進する。また、エラスムス・プラスにおいて留学の申請から学習証明の取扱まですべてをデジタルで管理できるようになり、環境への配慮も進む。

■今後の流れ

  • 構想1:European strategy for universities
     大学のための欧州戦略を現実のものとするには、EU、加盟国、地域、市民社会、高等教育セクター間での取組みの調整がカギとなる。欧州委員会はEU理事会、加盟国、大学を招いてこの政策アジェンダについて協議し、将来性のある大学の実現に向けて協働する。
  • 構想2:Commission Recommendation on building bridges for effective European higher education cooperation
     本提案は加盟国で協議される。一旦EU理事会で採択されれば、欧州委員会は理事会による勧告に向けて、加盟国と関連するパートナーを支援する。

※1 本記事及び原典②において「大学(university)」という言葉は、大学を含めたすべての高等教育機関の総称として使用されている。

※2 欧州高等教育圏の取組みとして開発された、欧州単位互換制度(ECTS)(NIAD-QE国際課まとめ)ディプロマ・サプリメント(DS)(NIAD-QE国際課まとめ)欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)(NIAD-QE国際課まとめ)外部質保証結果データベース(DEQAR)(本サイト2020/3/13掲載記事)等のこと。

※3 1ユーロ=130円で計算。

原典①:European Commission(英語)
原典②:European Commission. (2022). Commission Communication on a European strategy for universities(英語)
原典③:European Commission. (2022). Proposal for a Council Recommendation on building bridges for effective European higher education cooperation(英語)

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