2025年の欧州教育圏実現へ、欧州委員会が各組織に向けた対話文書を公開
教育の質や教職のコンピテンシーなど、6つの側面からの具体策を提示
高等教育関連はマイクロクレデンシャルへの対応、質保証に関する提言の改訂、自動承認実現への支援など
2020年9月30日、欧州委員会は2025年までの欧州教育圏*1実現(本サイト2018年2月19日掲載記事)のため、欧州議会、欧州理事会、経済社会委員会、地域委員会に向けた対話文書を発表した。この文書では、教育面での欧州域内の人の移動促進に向け、6つの側面から具体的な方策と指標を示している。高等教育に関しては、マイクロクレデンシャルへの対応、共同教育プログラムの推進、教育資格の相互の自動承認などが挙げられている。
高等教育関連のテーマ
学習をより詳細な単位に分け個別に認証するマイクロクレデンシャルは、共通の定義や承認方法が確立されていない。今年からの5か年計画であるEuropean Skills Agendaによると、欧州委員会はマイクロクレデンシャルへの「欧州的アプローチ」を提案することになっている。ここでは、マイクロクレデンシャルの質や透明性の最低基準、欧州資格枠組の適用の検討、雇用に向けた保管と表示が取り上げられる。今回の対話文書では、2021年にも「欧州的アプローチ」の提案がなされると明記された。
「欧州的アプローチ」は以前も採択されたことがある。2015年に共同教育プログラムの質保証に関する欧州的アプローチをボローニャ・プロセスに参加する国の教育担当大臣が合意している。今回の対話文書でも共同教育プログラムに言及があり、欧州委員会が適格認定と質保証の透明化のためのツールを導入するとされている。さらに、大学間連携による共同学位の提供を円滑に行うため欧州学位の枠組を開発することも示されている。しかし、欧州学位に関しては具体的な説明はなされていない。
一方、2006年に公表された質保証に関する理事会と議会による提言では、欧州共通の質保証機関の登録簿を整備し、ここに登録のある質保証機関ならどこの評価を受けても良いことにすることが盛り込まれていた。この提言内容はすでに実現されていることから、欧州委員会は提言の改訂を提案する予定である。具体的には、外部質保証、高等教育機関の独立性、加盟国間での学習の自動承認に対する市民の信頼獲得がテーマとして挙がっている。
他方、欧州委員会は、加盟国間での進学目的の資格の相互の自動承認を2025年までに可能とするための支援も表明している。すでにベネルクス三国(本サイト2018年2月5日掲載記事)やバルト三国の間で学位の自動承認が実施されているほか、北欧諸国(本サイト2016年12月16日掲載記事)も同様の取り組みをおこなうことで合意している。さらに、ベネルクス三国とバルト三国の間で学位の自動承認を行うことが2019年11月に合意されている。
対話文書で示された6つの側面
今回発表の文書で欧州委員会は、欧州教育圏の実現のため、以上の高等教育関連のテーマを含め、6つの側面からの対応を呼びかけている。
- 教育の質向上:基礎スキル獲得状況改善のための加盟国支援、多言語教育の充実など
- よりインクルーシヴでジェンダーに敏感な教育訓練の提供:専門家・ステークホルダーのための相互学習プラットフォームの設置、エラスムス事業などでのインクルージョン、公平性、ダイバーシティへの考慮など
- 教育訓練を通じた環境とデジタル化の支援:気候教育のための連合設立、持続可能な環境のための教育に関する理事会提言の提案、欧州でのデジタル教育環境の整備とデジタル関連コンピテンシーとスキルの開発に向けたデジタル教育アクションプランの作成など
- 教職のコンピテンシーとモチベーションの向上:エラスムス教員アカデミー*2の設立による教員養成機関と教員協会間のネットワーク構築、革新的教育手法への表彰制度の創立など
- 欧州の高等教育機関の強化:欧州の高等教育機関間のシームレスで野心的な連携のための政策枠組の開発、欧州大学イニシアチブ(本サイト2019年7月24日掲載記事)の正式発進、欧州学位の開発、質保証に関する理事会と議会提案の見直し、EU学生eカードによる学生移動の円滑化、2025年を目途にした資格の相互自動承認の実現など
- 世界におけるより強力な欧州としての教育:チーム欧州としての行動による世界における欧州連合の立場作り、戦略的グローバルパートナー(中国、日本、米国など)との連携強化、エラスムス事業の国際性拡大など
*1欧州教育圏 (European Education Area: EEA)
欧州連合域内の教育面での人的移動の促進のために掲げられた構想。2017年11月にスウェーデンで行われた欧州理事会で、2025年までに構築することが決定された。国境により学習や研究が支障をきたさないよう、さまざまな方策が提案されている。詳しくはこちらの記事を参照(本サイト2018年2月19日掲載記事)。
*2エラスムス教員アカデミー(Erasmus Teacher Academy)
欧州連合域内の教員養成機関や教員協会同士のパートナーシップや共同プログラムを通じ、国境を越えた訓練や学習を常時可能とするためのプラットフォーム。2025年までに25のアカデミーを設立する目標が立てられている。
原典:欧州委員会 (英語)