2018年より欧州各国が資格枠組での連携のため年1回の会合を重ねる
短期資格の重要性と高等教育資格枠組への適合時のピアレビューの価値を確認
今後もネットワークを継続し、学習成果の活用などを議論する
欧州各国は、資格枠組を通じた連携のための議論を続けている。2018年より年1回の会合を通じて資格枠組の各国間連携を強めてきた欧州各国によるネットワーク*1は、2020年11月の欧州高等教育圏教育大臣会合を前に、これまでの議論の経緯をまとめた成果報告「Network of National Qualifications Frameworks Correspondents Final Report」を発表した。報告は主に高等教育レベルの短期資格の導入と、各国の資格枠組(NQF)と欧州地域レベルの高等教育資格枠組(QF-EHEA)(NIAD-QE国際連携ウェブサイト)との比較可能性について検証を行う適合証明(self-certification)について、現在の議論の状況を示している。
*1EHEA Network of National Coordinators for Qualifications Frameworks:欧州評議会のJean-Philippe Restoueix氏を中心に、ボローニャプロセスに参加する各国、欧州委員会らが参画したネットワーク。各国が資格枠組の策定から運用までの経験を共有したり、欧州高等教育圏資格枠組が各国の資格枠組(NQF)や欧州資格枠組(EQF)(NIAD-QE国際連携ウェブサイト)とより密接につながるようにすることなどを目的に、2018年より年1回の会合を重ねてきた。
短期資格の導入
2018年にパリで行われた欧州高等教育圏の教育大臣会合(本サイト2018年6月19日掲載記事)では、次のような合意がなされた。
「短期間の学習で得られる資格(short-cycle qualifications)*2の意義を評価し、欧州高等教育圏資格枠組(QF-EHEA)に単独の資格として位置付ける。」
これを受け、本ネットワークでは短期資格の導入に関して議論され、以下のことが明らかになった。
- 短期資格には幅広い種類があり、中には雇用目的のもの、労働市場でのみ評価されているものもある。
- 教育を受ける機会がなかった者に対する成人教育として用いられている場合がある(例:フランス語圏ベルギー)。
- 短期資格の資格枠組への導入には、職業教育訓練セクターとの対話が重要となる。
- 現状質保証の制度が整っていない短期資格がある。
- その歴史的経緯から短期資格がなく、導入の予定もない国もある。
以上より、短期資格の資格枠組への導入は各国が負う義務ではないが、それが存在することで資格枠組上重要な位置づけとなることが確認された。
なお、ベネルクス三国では、2018年から互いの短期資格を相互に自動承認することにした(本サイト2018年2月5日掲載記事)。対象となるのは下記の資格。これらの資格は欧州資格枠組(EQF)レベル5相当である。例えば、オランダのassociate degree制度は2007年に導入され、2年間(120ECTS単位)の学習を通じて授与される。
国・地域 | 対象資格 |
ベルギー・ オランダ語共同体 | diploma van gegradueerde (学卒ディプロマ) graad van gegradueerde; (学卒学位) |
ベルギー・ フランス語共同体 | lebrevet d’enseignement supérieur (高等教育サティフィケート) |
ベルギー・ ドイツ語共同体 | 同地域で授与される欧州資格枠組レベル5資格 |
ルクセンブルグ | brevet de technicien supérieur (高等技術者サティフィケート) diplôme d’études supérieures générales (一般高等教育ディプロマ) |
オランダ | getuigschrift associate degree (短期大学士サティフィケート) |
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*2短期で得られる資格(short-cycle qualification):QF-EHEAでの議論で言われる短期資格とは、Bachelor未満のレベルの高等教育で、およそ120ECTS単位(NIAD-QE国際連携ウェブサイト)の学習が必要なものを指す。(詳細はこちらの62ページ参照)
QF-EHEAへの適合証明
現行制度では、各国の資格枠組(NQF)側から欧州資格枠組(EQF)との対応を証明する際に、QF-EHEAへの適合証明(self-certification)も同時に行われている。一方、一度行われた証明の見直しのための制度が欠如していることが、ネットワークの会合では指摘された。さらに、適合証明時には海外の専門家によるピアレビューだけでなく、国内の質保証機関からの見解も示されるべきとの意見もあった。
報告書の結論の中で、適合証明の際の専門家によるピアレビューの重要性が再確認されている。
ネットワークの今後
報告書では、本ネットワークが活動を継続することの重要性が強調されている。今後は以下の課題に対して取り組むことが提起されている。
- 適合証明―特にその中でのピアレビューの役割
- 学習成果の活用に関するパラダイムシフト
- 特定の資格・教育レベルとQF-EHEAやNQFとの連携強化―特に短期資格やさらに短期の学習(マイクロクレデンシャル)
- 資格枠組/質保証/資格承認の三者の関係の整理
- 民主的文化に関するコンピテンシーについての取り組みと高等教育資格枠組との間の、より強固な関係
- QF-EHEAとEQFに関する、教育ツールとしての具体的事例
原典:Network of National Qualifications Frameworks Correspondents (英語)