ユネスコは2020年11月25日に、高等教育の資格の承認に関する世界規約(Global Convention on Recognition of Qualifications concerning Higher Education、以下、「世界規約」) の精神に則った外国資格承認を行うための実践的ガイドとして”A practical guide to recognition: implementing the Global Convention on the Recognition of Qualifications Concerning Higher Education”を公表した。本ガイドは、資格審査の具体的なプロセス例や地域別の役立つリンク集といった資格承認に携わる実務者向けの内容だけでなく、資格承認とは何か、どのような意義があるのかなど、資格承認についての入門的な内容も含まれており、幅広いステークホルダーに利用されることが期待されている。
※世界規約の仮訳は文部科学省ウェブサイトを参照のこと。
※なお、日本が締結するユネスコの「高等教育の資格の承認に関するアジア太平洋地域規約(東京規約)」については、文部科学省が日本の高等教育機関向けにガイドラインを日本語で公表している。詳細については文部科学省ウェブサイトを参照のこと。
高等教育に関する資格の承認のための世界規約
2019年11月25日のユネスコ総会で採択された世界規約は、学習歴や学位等の資格を承認する際の世界共通の原則を定めたものであり、世界中の高等教育で学ぶ2億人以上の学生の流動性を高めることが期待されている。規約の発効には20カ国の締結を必要としており、2020年12月現在でノルウェーとニカラグアの2カ国が締結している。(世界規約についての詳細は本サイト2020年1月23日掲載記事を参照のこと。)
公平で透明な資格審査モデル
本ガイドは、資格承認の概念や意義について広く普及することを趣旨に、資格承認に関するFAQや規約の条文で用いられる用語の解説など基本的な事項について掲載している。さらに、実際に高等教育機関などで資格承認に携わる実務者向けに、資格承認を行うために推奨される資格審査モデルを紹介している。資格審査モデルは8つの段階に区分けされ、段階ごとに審査を行う主体が考慮すべき観点や留意点が記載されている。この審査モデルにおいては、「承認の可否においては、資格を構成する5つの要素に基づいた実質的相違の有無を考慮すること」や、「承認結果の伝達に当たっては、異議申し立ての方法を明記すること」など、公平で透明な資格承認を目指す世界規約の精神を反映したものとなっている。以下では、段階ごとに、審査を行う主体が考慮すべき観点や留意事項の例を紹介する。
第1段階:承認プロセスの申請者への情報公開
観点➀:申請者は資格承認の申請先と方法を知っているか。
観点➁:申請者は審査基準を知っているか。
第2段階:承認申請の目的の特定
観点➀:資格の承認を申請する目的は進学か、あるいは就職か。
観点➁:就職を目的とした場合、その職業は免許など法的に規制される職業か。
※目的によって審査において確認する項目が異なる場合がある。
第3段階:審査に必要な書類の請求
観点➀:資格を審査する上で必要な書類は何か。
第4段階:資格を授与した教育機関の認可状況の確認
観点➀:当該機関は当該国の教育システムの一部として認可されているか。
観点➁:プログラムアクレディテーションの状況は充分か。
観点➂:当該授与機関は私立機関か。
※国によっては私立機関の質保証システムが公立機関と異なる場合がある。
観点➃:当該資格はオンライン教育を通じて得られたものか。
観点➄:当該資格は国際共同教育を通じて得られたものか。
第5段階:資格の真正性の確認
観点➀:資格は偽物ではなく本物か。
観点➁:資格を補完する書類(成績証明書、ディプロマサプリメント等)は本物か。
観点➂:資格は本当に申請者が取得しているか。
第6段階:資格を構成する5つの要素の確認
※資格を構成する5つの要素は、欧州のリスボン承認規約に沿った資格承認を行うためのガイドラインである「EARマニュアル」及び「EAR-HEIマニュアル」において、実質的相違の有無の判断において重要とされている要素。詳細は本サイト2014年12月26日掲載記事を参照のこと。
観点➀:資格のレベルは何か。
※国の資格枠組(NQF)が整備されている国ではNQFのレベルで表すことが出来る。
観点➁:資格を取得するための学習量はどれくらいか。
観点➂:資格を取得するための課程、機関は当該国で認可を受けているか。
観点➃:資格のプロファイルはどうか。
※資格の目的(進学を目的とするもの、就職を目的とするもの)や学習の内容(研究重視、実習重視など)
観点➄:資格の取得により想定される学習成果は何か。
第7段階:申請された資格と受入国の資格の比較
観点➀:申請された資格と受入国の資格との間に実質的相違は認められるか。
※第6段階で確認した5つの要素などを基に実質的相違の有無を確認する。
※すべての違いが実質的相違とみなされるべきではなく、申請された資格では受入国で申請の目的である活動(進学、就職)を遂行することが難しいと判断された場合にのみ、これを実質的相違とみなすべきである。
第8段階:承認の可否の決定
観点➀:最終的な承認結果は何か。
観点➁:承認結果は申請者に伝達されているか。
観点➂:申請者は承認結果に対する異議申し立ての方法を知っているか。
原典➀:UNESCO(英語)
原典➁:UNESCO(英語)