ボローニャ・プロセスの進展と今後の課題を協議―欧州高等教育大臣会合2018

2018年5月24日~25日にかけて、フランス・パリにおいて、European Higher Education Area (EHEA)(欧州高等教育圏)大臣会合が開催され、48カ国の代表者が参加した。各国代表者は、2020年までの欧州地域の高等教育統合に向けた取組の進展を評価する一方、今後さらに欧州で取り組むべき事項について協議し、共同声明(コミュニケ)及び関連文書をとりまとめた。共同声明においては、欧州で失業、社会的格差の広がり、移民・難民の問題、テロ、右傾化の動き等の社会問題が広がるなか、問題解決に向けた高等教育の社会的役割について強調された。

※欧州の学生移動を促進するための学位システムの共通化や欧州共通的な単位互換制度の構築等、欧州の高等教育改革に係る取組。改革に関する一連の流れを「ボローニャ・プロセス」と呼ぶ。

パリ・コミュニケの主な内容
EHEA(欧州高等教育圏)構築の成果

ボローニャ・プロセスのこれまでの成果を評価する。本プロセスにより、高等教育にかかる目標・政策が欧州レベルで策定・合意され、これらをもとに各国が自国の高等教育制度や高等教育機関改革に活かすというユニークな仕組みを作り上げた。大規模な学生移動(モビリティ)を可能とする基盤を作り、各国の高等教育制度の比較可能性や透明性を向上させたほか、教育制度の質や魅力を高めた。

高等教育の基本的価値の保証

学問の自由や誠実性(アカデミック・インテグリティ)、高等教育のガバナンスにおける学生や教員の参画、社会に対する高等教育の責任は、欧州高等教育圏が尊重する基本的価値であり、欧州全体の政策対話や連携協力の強化を通じて保証していく。

社会問題への対応

失業、社会的格差、移民・難民の問題、テロ、右傾化の動き等の社会問題の解決に高等教育が果たす役割は大きい。インクルーシブ[i]で結束力のある社会の実現に向け、教育機関が社会的責任を十分果たせるよう、政策策定等を通じて支援していく。

教育改革の進捗状況
欧州高等教育圏の質保証ガイドライン(ESG)

質保証は、欧州高等教育圏の学生モビリティや資格・学習期間の認証の促進に最も重要。多くの国で、国・機関レベルの質保証システムが「欧州高等教育圏の質保証ガイドライン(ESG)」(NIAD-QE国際課まとめ)に基づいて策定されていることを評価する。一方、国の法制度・規制がESGに基づく質保証の実施の障害になっていることがあり、取組が必要である。ジョイント・ディグリーやジョイント・プログラムを推進するため、「共同教育プログラムの質保証に関する欧州的アプローチ」(NIAD-QE国際課まとめ)[ii](2014年)の利用を推進していく。欧州質保証機関登録簿(EQAR)による「外部質保証結果データベース(DEQAR)」開発の取組(本サイト2018/6/7投稿記事)を歓迎する。

モビリティ促進

欧州高等教育圏の学生モビリティと資格の認証をさらに高めるため、圏内の異なる国で授与された、比較可能な高等教育資格が同じ基準で自動的に認証されることを推進し、教育機会や労働市場へのアクセスを向上させる。その実現に向け、欧州単位互換制度(ECTS)(NIAD-QE国際課まとめ)のユーザーガイドライン2015年版に基づき、ECTSの完全導入に向けて取り組んでいく。

難民の資格認証

ユネスコのリスボン認証条約(NIAD-QE国際課まとめ)に基づき、難民の資格認証の取組を推進する。また、デジタル技術を活用し、透明性の高い手続きによる資格・既習歴・学習期間の認定を加速化する。

ディプロマ・サプリメント

ディプロマ・サプリメント(NIAD-QE国際課まとめ)(学位・資格の学修内容を示した様式)の改訂版を承認する。ディプロマ・サプリメントの電子化は学生や卒業生のモビリティ向上に資するものであり、この取組を歓迎する。また,学生データの交換を電子的に相互運用可能な形でより安全に行う高等教育機関の取組を支援していく。

資格枠組

短期間の学習で得られる資格(ショートサイクル資格(short-cycle qualifications))の意義を評価し、欧州高等教育圏資格枠組(QF-EHEA)(NIAD-QE国際課まとめ)に単独の資格(stand-alone qualifications)として位置づける。ショートサイクル資格のおかげで、若者の高等教育参加の機会が広がり、多くの若者が就職や進学の機会が与えられるとともに、社会の一体性が高まった。

今後のステップ
○教育改革のさらなる進展
  • 欧州の教育改革を成功させ、合意目標(欧州高等教育圏構築)を達成するには、各国の教育政策立案者、教育関係省庁、教育機関、教職員、学生等の全てのステークホルダーの積極的な関与と、欧州各国の国を越えた連携協力が欠かせない。
  • 欧州高等教育圏が持てる可能性を全開し、ボローニャ・プロセスの改革を確実に実行するために、ピアサポート・アプローチを開始する。2018~2020年にかけ、欧州高等教育圏の質と協力の強化と支援に不可欠な以下の3つの分野別ピアグループを作り、その達成に向けた活動を進めていく。

1.学士―修士―博士の3サイクル制の学位制度、既習科目の単位相互認定を可能にする共通単位制度(ECTS単位制度)の導入
2.リスボン認証条約に基づく資格認証の実施
3.ESGに基づく質保証

  • ピアアプローチは、ボローニャ・フォローアップ・グループ(BFUG)[iii]が実施、監督する。アプローチの結果及び今後の方向性は、次回2020年の教育大臣会合で発表する。
○学びと教授(learning and teaching)におけるイノベーション
教育機関への働きかけ

高等教育機関自身の教育に関する戦略の策定・改善を支援していく。大学等が分野横断的なプログラムや学術教育と職業教育両方を織り込んだ内容の教育を提供することを推進する。また、学生が高等教育の全段階で研究または研究に関連する活動に参加できるよう教育機関を支援していく。教育と研究、イノベーションのシナジーを高めることが今後の課題である。

デジタル化

社会のあらゆる分野でデジタル化が進む中、デジタル化は高等教育の提供方法や全ての年齢層の学習者の学び方を大きく変える可能性を持つ。デジタル化された環境で学生や教員が活躍できるよう、高等教育機関を支援していくとともに、デジタル教育やブレンデッドラーニング[iv]を活用できるよう、質保証の在り方を含めて高等教育制度を見直していく。

教員

質の高い教授(teaching)は質の高い教育の促進に不可欠である。そのため、教員のキャリアアップは研究成果や質の高い教授の実践に基づき行われるべきである。教員のキャリアアップにおいては、教員の社会貢献の度合いも考慮すべきである。そのため、機関・国・欧州レベルでの教授に係る研修や教員の能力開発の取組を推進していく。

○2020年以降の取組

欧州高等教育圏は、欧州地域レベルの高等教育に係る協力の枠組という独自の役割を担っている。さらにEHEAを進展させていくため、「学問分野横断」「国境を越えた協力」を強化するとともに、学生の学びや教授に対するインクルーシブ[i]かつ革新的なアプローチを開発していく。次回会合の2020年までにボローニャ・フォローアップ・グループによって新しいアプローチが提出される予定。

教育と研究と連携強化

学生・教員・研究者のモビリティのさらなる促進と欧州高等教育圏内でのジョイント・プログラムの活発化に向け、高等教育・研究・イノベーションにおける統合的な国際協力を推し進める。欧州連合が近年進める「欧州大学(欧州大学構想(European Universities initiatives)[v]」の取組に注目しつつ、EHEAの高等教育機関に対してもこうした新しい取組に参加することを推進していく。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)

持続可能な社会の実現に向けて高等教育の役割を果たしていく。国連の持続可能な開発目標(SDGs)(本サイト2017/9/29投稿記事)の達成に向け、世界・欧州・国レベルで取り組んでいく。

欧州以外の地域や国際機関との連携

欧州以外の地域や国際機関との連携協力を定期的なものとするため、グローバルな政策対話を行っていく。対話では、高等教育の役割、社会的インクルージョン[vi]など共通の関心事項に関する相互学習や共同プロジェクトを行う。また,ユネスコの「高等教育資格の認証に関する世界条約」策定の取組を評価する。

社会の変化に対応した高等教育

社会の変化に対応した高等教育の実施に向けたさらなる努力が必要である。欧州の高等教育機関に入学・卒業する学生の構成は、現実の欧州の人口の多様性を反映するものでなければならない。ハンディキャップのある若者の高等教育入学・修了の拡大に向けて取り組み、次回会合で進捗を報告する。

次回の欧州高等教育大臣会合は、2020年6月にイタリア・ローマで開催予定。次回までにボローニャ・フォローアップ・グループは、欧州高等教育圏構築の進展に関する調査報告書をまとめることとしている。

[i] インクルーシブ:すべての学生が基礎的な学習ニーズを満たす平等な教育にアクセスすることができ、生活を豊かにすることができる状態。(UNESCOの定義より)
[ii] 共同教育プログラムの質保証に関する欧州的アプローチ:共同教育プログラムの質保証を欧州で統一した手法で行おうという提案書。
[iii] ボローニャ・フォローアップ・グループ(BFUG):ボローニャ・プロセスの実行部隊。ボローニャ・プロセスで合意した質保証や教育制度構築に係る進捗のモニタリングやプロジェクトの企画立案・実行を行うとともに、ボローニャ・プロセスの今後の方向性等を決め、教育大臣会合で報告を行う。ボローニャ・プロセス参加国の代表及び欧州委員会で構成され、EU議長がチェアを務める。
[iv] ブレンデッドラーニング:対面授業とe-learningの融合による学習
[v] 欧州大学構想: EUの高等教育機関の戦略的パートナーシップとEUの高等教育の国際競争力強化を目指し、2024年までに20程度の「欧州大学」を建設し、EUの大学のボトムアップネットワークを作る構想。2017年のEU諸国の首脳会議で打ち出された。本構想において、学生はEUの異なる複数の国の大学での学習に基づき学位を取得することができる。
[vi]社会的インクルージョン:すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支えあうこと。

原典:欧州高等教育大臣会合2018共同声明(パリ・コミュニケ)(英語)
参考:欧州高等教育圏(EHEA)(英語)

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