2018年2月にオランダNufficは資格認証に係るプロジェクト(PARADIGMSプロジェクト)の一環として、政策提言書「A short path to automatic recognition – 4 models」を公表した。当提言書では、欧州高等教育圏(EHEA)における学士段階および修士段階の資格の自動認証*に焦点を置いてまとめている。
留学生を受け入れる場合、留学生の出身国における教育制度が受入国のものとは異なるため、入学資格の有無の判断を大学などで個別に行うのが一般的である。資格の自動認証が可能になると個別の判断が省けるため、大学職員の事務負担が軽減されるほか、留学希望者にとっても留学可能性の見込みが明らかになるなどの利点がある。
*資格の自動認証とは?
あるレベルの資格を保有する志願者が個別に学習成果を審査されることなく、当該国もしくは地域における次のレベルの学習プログラムに入学することのできる権利を認めること。例えば、A国とB国が学士の資格に係る自動認証の合意をしている場合、A国の学士は原則として個別審査をすることなく、B国においても学士と認められる。
欧州における自動認証―4つのモデル―
下記は今回示された自動認証のモデルである。一つのモデルだけを選ぶ必要はなく、複数組み合わせてもよい。例えば、オランダはベルギーとルクセンブルクとの間に自動認証に係る多国間協定を締結しているが、その他のEHEA加盟国に対しては事実上の自動認証モデルを適用している。
2国間または複数国間の法的拘束力を伴う合意
近隣諸国間で行われることが多い。資格認証に係る国家間の合意が法的に定められているため、資格認証の決定が事前に分かるほか、決定が迅速に行われる、手続きが容易になるといった利点がある。ただし、法的拘束力を伴う合意に至るまでに時間や労力がかかる。例:ベネルクス諸国における自動認証の合意(本サイト2015/1/9投稿記事)
外国の学位の法的拘束力を伴うリスト
ある一国が他国の資格について、自国の資格との対応関係をリストとして公表し、これに基づいて自動認証を行うもの。リストに含む資格の種類、リストに掲載する国について、国家間の合意によらず、当該国の判断で作成される点が特徴的である。例:ポルトガルは2007年に学位のリストを作成。当リストは36ヵ国について、国が授与する資格と授与する高等教育機関リストを掲載している。
2国間または複数国間の法的拘束力を伴わない合意
法的な根拠を持つ合意ではなく、信頼ベースの合意になる。相互理解や外国の教育制度への理解を高める役割を担う。例:北欧諸国とバルト諸国は共同で、入学審査におけるマニュアルの開発に取り組んでいる。
日本では、国立大学協会などが各国の高等教育団体と協定などを締結している。編入学の基礎資格審査において、あくまで参考としての位置づけであるものの、合意の中には学位の相当性を示すものもある。
- 日仏の大学協会が相互認証協定を締結(本サイト2014/7/14投稿記事)
- 日本とドイツが学位・単位の相互認定を実施へ(本サイト2015/8/7投稿記事)
ドイツとの協定締結では、国立大学だけでなく公立大学や私立大学も対象となったことが特徴的である。 - 日豪の大学協会が学術交流協定を締結(本サイト2015/9/24投稿記事)
事実上の自動認証
公式の手続きや合意に基づく自動認証ではないものの、多くのEHEA加盟国が事実上の自動認証を実施している。資格を発行した国が自動認証するに相応しい国であるかについては下記の基準を参考に判断する。
- リスボン認証条約(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)を履行している。
- 欧州資格枠組(EQF)(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)に対応した国家資格枠組を有する。
- (当該国の質保証機関が)欧州高等教育質保証機関登録簿(EQAR)に登録されている。
- (当該国の質保証機関が)欧州高等教育質保証協会(ENQA)に加盟している。
- アクレディテーションを受けたプログラムのデータベースを有する。
- ディプロマサプリメント(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)が利用できる。
自動認証の実施に係る提言
2015年5月に開催された欧州教育大臣会合(本サイト2015/6/17投稿記事)では、EHEA内において2020年までに自動認証を実現することが合意された。2020年まで残り2年になる中、この目標を達成すべく、国が自動認証を支援し、どのように応用するかという点について下記のとおり、提言された。
- どのモデルを採用するにせよ、自動認証における透明性の確保は重要である。外国資格の自動認証において用いられる基準や手続きは全てのステークホルダーに対し、常に明示されていなければならない。
- 様々なモデルを同時に採用してもよい。モデルの採用に柔軟性を持たせることにより、自国にとって最適な戦略を選択することができる。
- 法的な合意を目指す場合には、合意の範囲は一般的な事項にとどめること。詳細については認証機関に判断する余地を残すことによって、高等教育分野における最新の事例に柔軟に対応することができる。
- リスボン認証条約の履行、EQF/EHEAの枠組に対応した、学士・修士・博士の3サイクルの学位制度の実施や欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)に基づく質保証制度は、あらゆるモデルの自動認証において重要な基準である。それらの基準を満たしていないEHEA加盟国は、EHEAで自動認証を実現するために、上記の基準を満たすところから取り組むこと。
- 政治的な理由だけでなく、歴史的経緯により、相互の合意がない場合においても、国やENIC-NARICセンターは正式な基準を用いることなく、自動認証を行ってもよい。結果として、リスボン認証条約の履行といった、上記で掲げた基準を満たさない国からの資格を自動認証することもありうる。このようなケースがうまくいった場合、そのような対応方針を変える必要はない。
原典: Nuffic(英語)