韓国大学教育協議会（KCUE）は2023年6月15日、『高等教育フォーカス』の第8号を刊行し、私立大学の定員未充足による財政損失推計を発表した。学齢人口の減少に伴い、特に地方の私立大学の入学者数は減少の一途をたどり、また学費（登録金）への依存率が国公立大学に比べ高い傾向にある私立大学は、入学者数の減少により財政状況がさらに厳しくなるとの見通しが説明されている。

私立大学の定員未充足による予想運営損失推計

『高等教育フォーカス』は、主に韓国高等教育の財政面のトピックに焦点を当て、公開情報などを基にKCUEが分析を行った結果を報告する刊行物で、2022年11月に発刊された。今号では、私立大学（4年制一般大学/産業大学）の入学者減少による財政損失をテーマに、大学情報公開^※1や韓国私学振興財団の公表する統計資料を基に分析を行った。主な分析結果は以下のとおり。

2022年の私立大学の定員内入学者数^※2は232,159 人で、2012年（264,729人）に比べ32,570人減少。

• →うち、首都圏（ソウル特別市、仁川広域市、京畿道）では2012年に比べ1,894人増加の一方、非首都圏では34,464人減少。
• →2022年の定員充足率についても95.7%と、2012年（98.5%）に比べ2.8%減少。非首都圏の大学に絞ると92.8%となり、2012年（97.7%）に比べ4.9%減少。

図1：私立大学の定員内入学者数（首都圏・非首都圏別）の推移
（出典：KCUE『高等教育フォーカス第8号』）

2021年の私立大学の中途退学率^※3は5.0%と、2011年（4.3%）に比べ0.7%上昇。

私立大学の定員未充足による学生からの直接収入・支出の減少額を推定し、今後の予想運営損失^※4を分析したところ、2025年には予想運営損失が53校の私立大学で計1,684.5億ウォン（約168億円）発生すると推計。

図2：私立大学の予想運営損失額（首都圏・非首都圏別、年度別）
（出典：KCUE『高等教育フォーカス第8号』）

2022年から2025年までの4年間の累積額で見ると、41大学で予想運営損失が発生し、うち19大学については大学が備えている積立金や繰越金を充てたとしても、損失を補填することが難しいと推計。

※1 韓国では、高等教育機関に対し運営状況等に関する情報を定期的に公開することを法令で義務付けており、KCUEの大学情報公開センターが運営するウェブサイトを通じて公表している。
※2 留学生や一部編入生など、高等教育法施行令第29条第2項に定められた人員は入学定員に含まれない。
※3 （中途退学学生数/在籍学生数）×100
※4 本資料では、「予想運営損失」という指標を用いて、損益を検討する際の指標の一つとしている。「予想運営損失」とは、学費（登録金）、国家奨学金、預金利子など学生から発生する収入と校外奨学金、校内奨学金、実験実習費、その他学生経費など学生に対して発生する支出の差を推定したもの。　
※5 教育部、韓国教育開発院の教育統計年報2022によれば2022年4月1日時点の大学・産業大学の数は192校。うち、私立大学は157校。

予想運営損失と教育部の新たな評価体系の関係

予想運営損失の補填が難しいとの推計結果は、教育部が計画している新たな評価体系において大きく関係してくることが予想される。

教育部は、2025年に大学基本能力診断評価に代わる新たな評価体系として、KCUEが実施する「大学機関別評価認証^※6」と韓国私学振興財団の実施する「財政診断」の2種類の評価を組み合わせた枠組みを導入予定である。「財政診断」は私立大学を対象に財政状況を診断するものであり、「経営危機大学」に指定されると、教育部補助事業「大学革新支援事業」の補助金が交付されないこととなっている（本サイト2023/2/27投稿記事）。

韓国私学振興財団によれば、経営危機大学に指定する基準は複数あるが、うち一つが「予想運営損失率が5%以上発生し、かつ積立金や繰越金で当該損失を補填することができない大学」となっている（参考：韓国大学新聞）。

韓国私学振興財団は2023年6月に財政診断の試行を行い、経営危機大学に予備的に指定された大学に対してはコンサルティングを行うなど大学が財政危機に先制的に対応できるよう最善を尽くして支援するとしている。

KCUEも今号を、「財政危機が発生する可能性の高い中・小規模の大学に対し、財政状況を改善するため政府の政策的支援が必要である。」という主張で結んでいる。

※6 専門大学については、韓国専門大学教育協議会（KCCE）が実施する専門大学機関別評価認証が用いられる。

原典：韓国大学教育協議会（韓国語） ※リンク先右下「23.06.15」の記事を選択。