英国政府は2025年12月17日、英国が2027年にエラスムス・プラス(Erasmus+)に再加入することにEUと合意したと発表した。英国政府は、再加入により初年度(2027-28年度)だけでも10万人以上の学生が恩恵を受ける可能性があるとしている。
エラスムス・プラス離脱による学生への影響
エラスムス・プラスは、教育、職業訓練、青年の育成、スポーツに関する国境を越えた移動と協働を支援するEUの助成金事業であり、高等教育機関においては2~12か月間の短期留学や研修に対する助成などを行っている。
EU離脱決定前の2015-16年度、英国はエラスムス・プラスを活用して31,364人の学生や実習生を受け入れ、15,784人を派遣していた。英国は2014年~2020年まで、そしてそれ以前の前身となるプログラムにも参加していたが、2020年1月末のEU離脱に伴い、エラスムス・プラスからも離脱した。※1
※1 エラスムス・ムンドゥス共同修士課程プログラム(Erasmus Mundus Joint Masters)等、EU以外の国(日本を含む)も参加可能な一部のプログラムには引き続き参加している。
英国はその後、エラスムス・プラスに代わる新たな留学支援制度としてチューリング・スキーム(Turing Scheme)を導入した。チューリング・スキームでは、英国人学生に対して行き先をEU圏に限定せず、世界規模で短期の留学や研修等に対する助成を行ってきた。2023-24年度には約1億1,000万ポンド(約232億円、日本円の換算は1ポンド=211円で計算)が予算配分され、32,714人の英国人学生(そのうち高等教育機関に所属する学生は17,388人)が同制度を利用した。
一方で、チューリング・スキームでは英国への留学生に対する助成は行わなかったため、この制度を活用してEU圏内の学生が英国に短期留学することはできなかった。このことは、英国内においても受入れ留学生数と彼らが英国にもたらす恩恵の減少につながるのではないか、との懸念を引き起こしていた。
エラスムス・プラス再加入の背景と条件
こうした状況の中、2024年7月の英国総選挙において、EUとの関係再構築を掲げた労働党が政権を獲得した。労働党は当初、エラスムス・プラスには再加入しないとしていたが、2025年5月に行われたEUとの首脳会談において、英国政府がエラスムス・プラスの再加入に向けて取り組むことに合意し、EUとの交渉を進めてきた。
今回の英国政府の発表によれば、再加入に向けたEUとの交渉の結果、エラスムス・プラスに対する2027-28年度の英国の拠出額は約5億7,000万ポンドとなった(約1,202億円)。英国政府は拠出額とプログラムが提供するメリットの間に公正なバランスをとれるよう財政条件の交渉をしたとしており、これには通商・協力協定の標準的な条件と比較して、30%の割引が含まれる。なお、次期プログラム(2028年~2034年)への拠出額は未定で、将来的に合意される必要があるとした。
エラスムス・プラス再加入の発表を受けて、英国大学協会(UUK)や英国の研究型トップ大学の構成団体であるラッセル・グループは、EUとの関係改善及びエラスムス・プラスへの再加入による学生の学びの機会拡大を歓迎する声明を出している。
【参考:EU離脱後のEU圏からの正規留学生の減少】
英国がEUから離脱した際、エラスムス・プラスからの離脱以外にも、EU圏からの英国への留学生の減少につながる変更が行われた。それは、英国の大学が、2021-22年度以降のEU圏出身入学者(学士・修士・博士課程)に対して、留学生向けの授業料を課すようになったことである。※2エラスムス・プラスからの離脱は短期留学生の減少につながるものだったが、EU圏出身学生に課される授業料の変更は、正規留学生※3の減少につながった。
※2 欧州の大学では、一般的に自国民よりも留学生の授業料を高く設定している。しかし、EU市民は他国の教育制度をその国の国民と同じ条件で利用する権利があるため、EU圏内のある国から別の国の大学に正規生として入学する学生の授業料は、留学先の国の学生と同額になる。このことから、英国はEU離脱前までEU圏出身学生も英国人学生と同額の授業料で受け入れており、EU圏内の各国の大学も、英国人学生の学生をそれぞれの国の学生と同額の授業料で受け入れていた。
英国のEU離脱後の2021-22年度入学者から、英国の大学はEU圏出身学生の授業料に対して留学生向けの授業料を課すようになり、EU圏内の大学も、英国人学生に対して留学生向けの授業料を課すようになった。
※3 海外大学の学部や大学院の正規の教育課程(学士・修士・博士課程等)に、学位取得を目指す正規生として入学する留学生のこと。
例えばオックスフォード大学では、英国人学生の2026-27年度の学部授業料を9,790ポンド、留学生の授業料を37,380~62,820ポンドに設定している(それぞれ約207万円、約789万~1,326万円)。留学生の授業料は英国人学生の約3.8~6.4倍であり、留学生向けの授業料が適用されたことで、EU圏出身学生の経済的負担が大きく増加していることが分かる。実際、EU圏出身の英国大学への正規留学生数は、2020-21年度(EU離脱前)の66,685人から1年で31,390人に半減し、その後も回復していない(下表参照)。
英国大学の学士・修士・博士課程へ入学した正規留学生数の推移
| 出身地域/入学年度 | 2019-20 | 2020-21 | 2021-22 | 2022-23 | 2023-24 |
| EU圏出身の学生数 | 64,155 | 66,685 | 31,390 | 28,905 | 28,375 |
| 非EU圏出身の学生数 | 252,970 | 259,865 | 345,520 | 430,265 | 399,820 |
| 合計人数 | 317,125 | 326,550 | 376,910 | 459,170 | 428,195 |
HESA Figure 3 – HE student enrolments by level of studyを基に作成。
※エラスムス・プラスによる短期の留学・研修への参加者は、この表には含まれない。
今後英国がエラスムス・プラスへの再加入にあわせてEU圏出身学生の学士・修士・博士課程の授業料を引き下げるか、同様にEU圏も英国人留学生に対する授業料を自国学生と同額まで引き下げるかは不明である。
また、英国政府は2027-28年度から、低所得世帯の英国人学生への生活費給付金等の資金源とするために、留学生の授業料に対して1人あたり年間925ポンド(約20万円)の課税を導入することを発表している。こちらについても、EU圏出身学生に対しても課税されるかどうかは不明であるが、英国大学の留学生募集や収入に影響を与える要素であると考えられる。
【出典】
原典①:英国政府(英語)
原典②:英国教育省(英語)
原典③:UK National Agency(英語)
原典④:英国下院(英語)
原典⑤:英国教育省(英語)
原典⑥:英国財務省(英語)
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