エラスムス・プラス2021-2027レビュー、留学で得た単位を確実に自動承認する必要性に言及

 欧州大学基金(EUF)※1エラスムス学生ネットワーク(ESN)※2欧州学生連合(ESU)※3の3団体は、2023年3月22日にエラスムス・プラス2021-2027における2021-2022年期のレビュー報告書「Erasmus+ Review 2021-2022 Higher Education – student and staff mobility」を連名で公表した。エラスムス・プラスの現在のフェーズ開始から最初の1年間(2021年10月から2022年9月まで)にかかる今回のレビューでは学生とスタッフのモビリティに焦点が当てられ、学生が渡航先で修得した単位が所属元の高等教育機関等で自動的に単位認定される(自動承認される)ことの必要性等について言及された。
 また、今回のレビューは、2021-2022年期の総括と評価にとどまらず、2027年度以降のプログラムの設計も見据えて、積極的なフィードバックを得ることも目的としている。
※1 European University Foundation。近代的で強力かつ競争力のある欧州高等教育圏の実現を目指す大学のネットワーク。
※2 Erasmus Student Network。高等教育の国際化とモビリティに関して欧州地域を中心に、42か国において活動する非営利留学生団体。
※3 European Students’ Union。欧州の学生を代表する組織として、EU圏内での教育政策に対して学生の視点と利益を反映させる取組を行っている団体。

■エラスムス・プラス2021-2027の概要

 エラスムス・プラス2021-2027とは、「エラスムス計画」、「エラスムス・ムンドゥス」、及び「エラスムス・プラス(2014-2020年期)」を前身とする、教育、職業訓練、青年の育成、スポーツに関する国境を越えた移動と協働を支援するEUの助成金事業であり、「よりインクルーシブ(包摂的)に」「よりデジタルに」「よりグリーンに」という3つのコンセプトを掲げている。
 前身の事業については、欧州委員会が以下のページを設けている。

【参考:前身のプログラムに関するリンク】
What is Erasmus+? (エラスムス・プラスについて)  
Erasmus Mundus Catalogue (エラスムス・ムンドゥスにおける採択事業リスト)

 また、エラスムス・プラス2021-2027の概要や実施内容については本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ本サイト2021/6/18投稿記事を参照のこと。

■エラスムス・プラス2021-2027における単位の自動承認 

 今回のレビュー報告書には、冒頭にエラスムス・プラスに対する11の主要な提言(Key Recommendations)が提示された。プログラムの速やかな立ち上げ、「グリーン」への移行支援、デジタル化への完全移行のための支援といったテーマが挙げられるなか、留学の成果の「自動承認」(automatic recognition)の制度が、学生等のプログラムへの参加と所属元の大学への復帰両方にかかわる重要な課題の一つとして挙げられた。
 ESNでは、エラスムス・プログラムのモビリティ(留学)の改善に役立てることを目的に、「ESN Survey」を毎年行っている。レビュー報告書に掲載されている2021年の調査(「ESN Survey 2021」)によれば、エラスムス・プラス2021-2027への参加を躊躇する理由として、「学位プログラムにおける柔軟性の不足」を挙げた学生が45%と2番目に多かった。
選択肢は「強く同意する」・「同意する」・「どちらでもない」・「同意しない」・「強く同意しない」5段階で、うち「強く同意する」と「同意する」の回答割合の合計。なお、最もその回答割合が高かったのは「留学中の財政支援不足」で72%。

 このように、資格承認の問題は、エラスムス・プラスでの修学経験にネガティブな影響を及ぼしうるものであるため、プログラム全体においても継続的な主要課題の一つと認識されている。この対策の一つとして、レビューではエラスムス・プラスに参加する高等教育機関が遵守するものとされている「エラスムス憲章」に基づいて、承認手続が確実に履行されるよう、各国の関係当局がより厳格にモニタリングをすべきと言及された。さらに、「欧州大学」(本サイト2023/8/14投稿記事)等の新規的な学生交流事業に参加して「自動承認」の習慣を身につけ、組織としての承認手続きの重要性を高めていくことも提案されている。
 「自動承認」とは、ある留学プログラムで渡航先の高等教育機関で修得した単位について、プログラム終了後に所属元の高等教育機関の単位として遅滞なく自動的に認定される制度であり、学生等の積極的な国外での学習や訓練への支援(「モビリティ」事業)の一環として、エラスムス計画による一連のプログラムで進められてきたものである。この制度は、学生の送出機関と受入機関との間に協定が締結されていることが条件であり、その協定の中で「自動承認」すると合意した科目について、学生が渡航先で単位を修得した場合、その単位を所属元に持ち帰ったときに追加の課題や試験が課されることなく、卒業必要単位に「自動的に」算入されることとなる。

【参考】Guidelines on how to use the Erasmus+ Learning Agreement for Studies (KA131)[エラスムス・プラスにおける相互承認に関する説明ページ]

 レビュー報告書では、自動承認を提言に盛り込んだ背景として、「ESN Survey 2021」の調査において外国で修得した全ての単位が自動承認された学生は全体の73%にとどまったことを挙げている。
 以上を踏まえた提言として、国外での学習の成果が(部分的であっても)承認されないケースを減らすためにモニタリングの取組を強化し、特に「欧州大学」に働きかけながら2025年までに自動承認が完全に可能となるよう、その実現へ向けて努力することが言及された。また、エラスムス・プラス・アプリ(Erasmus+ App)を活用して承認に関して学生が直面した問題等を学生団体等の関係機関と情報共有することや、承認不可の理由の分析と検証を強化させるといった具体案も示された。

■2021-22年度のプログラムの進行状況について

 本レビュー報告書ではほかに、この新フェーズの開始1年目で生じた事態や問題についてもまとめられている。
 予算面については、エラスムス・プラス2021-2027の規程の承認が著しく遅延したことにより、財政支援の枠組みの承認も遅れ、多くの国でプログラムの立ち上げに支障が生じたと述べており、予算が前年比34%減となった大学もあることが紹介されている。また、「ESN Survey 2021」の調査で、プログラム開始の1か月以上後になって助成金を受け取った学生が全体の25%以上に上ったことにも触れている。こうした予算の問題はUniversity World News(2023年5月16日付)でも報じられている。
 学生への助成金支給の不備を解消していくための対策として、ESNからは学生が助成金を受け取るべきタイミングにあわせて助成金の支給が承認されるよう承認の仕組みを変更することや、「出発前」の受給が標準的な形になるようにすることなどに言及している。

 また、今回のエラスムス+ 2021-2027では、通常のエラスムス+のプログラムより短い期間で学習が完結する短期プログラム(Short-term Programme)や、オンラインを含む複数の機関や場所で通常より短期間で学習を完結できるブレンド型集中プログラム(Blended Intensive Programme, BIP)も助成対象になったことを踏まえ、提言では、このBIPを、長期のモビリティプログラムへの参加の妨げとならないようにしつつ推進していくことも記された。

 新型コロナウイルスの流行やロシアのウクライナ侵攻などについてもレビューでは言及があった。全世界的に想定外の事態が発生している中、エラスムス・プラス2021-2027においてもこれらの事態を見据えて、モビリティの枠組みや柔軟に対応できる仕組みづくりの必要性が言及された。

原典①:エラスムス学生ネットワーク(英語)
原典②:エラスムス学生ネットワーク(英語)
原典③:エラスムス学生ネットワーク(英語)

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